会社の健康診断、「今年はパス」はアリ?
第22回 知ってびっくり!目からウロコの「健康診断」
奥田弘美=精神科医(精神保健指定医)・産業医・作家
産業医がいる会社では、産業医が健康診断結果をチェックし、異常値が出ている社員については、二次検査や治療が必要な旨を会社側に伝えます。また健康状態が著しく悪化している社員に対しては、その状態に応じて就業場所の変更、残業や出張の免除などの就労制限を併せて意見します。
産業医がいない小さな会社では、地域の産業保健センターなどで産業医にチェックしてもらい同様の意見をもらいます。会社側は、これらの医師の意見を勘案して、最終的な事後措置を決定し実施する……というのが、健康診断に関する安全配慮のしくみです。
健診を拒否したら、万一のときに不利に!?
さて健康診断を受けた後、異常値が出ていて産業医や会社側から二次検査や治療に行くように促されているにもかかわらず、受診や治療を拒否していたらどうなると思いますか?
例えばAさんが健康診断で、非常に血圧が高い状態が指摘され、産業医や健診医からもすぐに高血圧の治療が必要と言われたが、「医者が嫌いだから」と受診を拒否したり、「薬を飲みたくないから」と治療を断ったりしたとしましょう。
高血圧の程度にもよりますが、例えばAさんの血圧が頻繁に180/110mmHgを超えているような状態であれば、おそらく産業医からは「残業の禁止」もしくは「血圧が下がるまで休業が必要(要休業)」といった意見が事業者に出されることが多いでしょう。高血圧が非常に悪化した状態のまま働き続けると、脳出血やめまい、意識消失といった様々な体調不良が起こるリスクが非常に高くなるからです。当然、社用車を運転するような仕事や高所作業や危険物を取り扱う仕事をしている場合は、血圧が正常化するまで従事させるべきではないという意見が出される可能性も非常に高くなります。
高血圧を例に挙げましたが、糖尿病、不整脈などの心臓疾患、腎臓疾患、肝機能障害、貧血なども、未治療であったり治療が不十分だったりして高度に悪化している場合は、何らかの就業制限が産業医から意見されることがよくあります。
最終的には会社側の多くは産業医の意見を勘案して事後措置を決定しますが、安全配慮義務を順守している会社ほどおおむね産業医の意見に沿った内容になることがほとんどです。つまり治療を拒否し続けたり、通院を中断したりして健康状態が悪化してしまうと、ご自身の仕事の範囲が狭められたり残業が制限されたりして悪影響が出るばかりか、場合によっては「要休業」の業務命令も出される可能性があるということなのです。
健康診断で異常値が指摘された場合は、どうぞ軽症のうちに医療機関にかかって治療を受けてくださいね。
今回は健康診断や健康管理の重要性と必然性を産業医としてお伝えしました。健康診断を受けていなかったり、病気の治療をおざなりにしたりしていると、万が一、労働災害が発生した際に会社に賠償を求めようとしても不利になることがあります。
「労働者の健康保持義務違反」として賠償が減額される可能性もあるのです。例えば過労死など会社の安全配慮義務違反を争う労働裁判において、不整脈や高血圧、心疾患などの治療を適切に受けていなかったとして、過失相殺として賠償金を大幅に減額された例が複数存在します。
あらゆる病気は、早期発見早期治療が基本です。「忙しくて二次検査や治療に行くのは面倒」「特に症状がないし元気だから、放っておいても大丈夫だろう」と安易に考えて放置していると、ご自身の健康を大きく害する原因になるばかりか、安定した就労ができなくなってしまいます。
法定項目の健康診断費用はすべて会社負担で行われますし、ある年齢以上の人には健康保険組合から人間ドックやオプション検査項目の補助が出るところもあります。個人で受けると、結構な費用になってしまいますので、会社の健康診断を利用しない手はありません。今年もぜひ健康診断や人間ドックを積極的に活用してくださいね。そして「要二次検査」「要治療」の項目があったら、早いうちに医療受診して健康ケアを行ってください。
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精神科医(精神保健指定医)・産業医・作家
