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過労、異動、人間関係…高ストレス状態の時のセルフケア術

第32回 2つのやるべきこと&2つのやめるべきこと

 奥田弘美=精神科医(精神保健指定医)・産業医・作家

 春の陽光まぶしい季節となりましたが、あなたの心と体はお元気でしょうか? こんにちは、精神科医・産業医の奥田弘美です。

ストレスが高まったときは、スペシャルなケアが必要

通常より大きなストレスが生じると、心身のバランスが崩れやすく、特別なケアが必要に。写真はイメージ=(c)olegdudko-123RF

 さて、どんな人でも仕事をしていると何かと小さなストレスは日々感じるもの。きっと読者の皆さんも、デイリーなストレスに対する解消法は、なんとなく自分なりに身に付けていらっしゃることと思います。

 しかし長い仕事人生の中では、時にぐぐっとストレスが高まってしまうことがあります。例えば「関わっているプロジェクトにトラブルが発生した」「大きな失敗をしてしまい、周りに迷惑をかけた」「職場の人間関係に問題が生じた」「やりたくない超苦手な案件にアサインされてしまった」など……。

 こうした普段より大きなストレス要因にアタックされると、心身に通常とは違う負荷がかかるため、普段のストレス解消法とは別のスペシャルなケアが必要になります。なぜなら高いストレス状態に陥っているときには、自律神経の交感神経系が過活動になり副腎からも抗ストレスホルモンが分泌されるため、心身のバランスが崩れやすくなるからです。

 ストレスの渦中にいるときには気づきにくいのですが、高ストレス状態になると、例えば次のような症状が出始めることがあります。

【高ストレス状態のときに出やすい症状】

  • 寝つきが悪くなる、夜中に目覚める、夢を多く見るなど睡眠が浅く不安定になる
  • 筋肉緊張が高まり、頭痛・肩こり・腰痛などが普段より悪化する
  • イライラしやすくなったり被害妄想的になったりと精神的に不安定になる
  • 倦怠感がとれにくくなり、心がスッキリ晴れなくなる
  • 時間に追われる感じが強くなり、ソワソワして気持ちが落ち着かなくなる
  • カフェインや甘い物、アルコールなどの刺激物がやたらと欲しくなる
  • 便秘や下痢、胃もたれ、腹痛などの胃腸症状や、肌荒れ、湿疹などの皮膚トラブル、体がふらつくようなめまい感が出現する

 これらはストレスによって自律神経のバランスが悪くなり出したときに発生しやすい症状で、いわゆる「過緊張症状」と呼ばれたりします。こうした過緊張症状に気づかず、そのまま放っておくのは非常に危険です。放置した結果、うつ病やパニック障害といったメンタル不調、胃潰瘍や逆流性食道炎、過敏性腸症候群、メニエール病といったストレス性の身体疾患が発生することも少なくありません。

 そこで、高ストレス状態になっていると感じたときにしていただきたい行動を4つに分けて、お伝えしたいと思います。

(1)睡眠をできるだけ長くとる

最低でも6時間の連続した睡眠を確保しましょう。写真はイメージ=(c)puhhha-123RF

 ストレスが高まっているときに、最も必要なのは睡眠です。睡眠不足の状態では、どんなストレスケア法もリラクセーション法も効果はないといっても過言ではありません。最低でも6時間、できれば7時間以上の連続した睡眠時間を死守しましょう。

 夜に6時間以上連続して眠ると、その間にレム睡眠とノンレム睡眠のセットが3~5回繰り返され、日中に受けた脳と体のダメージ回復や記憶や感情の整理が行われます。日中のストレスによって疲労した体と脳を睡眠中にしっかりメンテナンスすることで、翌日に気力や体力がよみがえり、高ストレスに立ち向かうことができるのです。トラブル案件などのために残業を余儀なくされ、十分な睡眠時間の確保が毎日は難しい状態であっても、できるだけ週の半ばに1日と週末などの休日だけは「しっかりと眠る日」を捻出するようにしてください。

 睡眠不足が続けば続くほど睡眠負債が蓄積し、どんどん心身に悪影響が及んでいきます。睡眠負債がたまった脳では、トラブルを解決するためのアイデアも、タフな状況を切り抜けるための機転や知恵も生まれません。そればかりか作業効率の低下やミスの発生を招きやすくなったり、精神状態が不安定になるため人間関係も悪化しやすくなったりし、さらにストレスを上乗せする結果につながります。

 10~20分程度の昼寝にも疲労回復効果はありますので、ぜひ積極的にとってください。ただし、昼寝はあくまでも、ばんそうこうのような応急処置と考えましょう。高ストレス状態に対抗するためには、根本的に脳と体の疲労回復を行うための6時間以上の連続睡眠が不可欠です。もし寝つきが悪い(毎晩1時間以上かかる)、何度も夜中に起きて熟睡できないなどの不眠症状が出ている方は、すぐに医師に相談してください。

(2)「高たんぱく質な食事」を1日2食以上とる

動物性のたんぱく質は、疲労回復に不可欠。写真はイメージ=(c)Joshua Resnick-123RF

 高ストレス状態のときは普段より脳の覚醒度が上がるとともに、筋肉緊張が高まり、心拍数や血圧も上がりがち。つまり体のエネルギーを普段より多く消費していることになります。そのため疲労回復に効果的な、高たんぱく質で栄養バランスのとれたメニューをしっかり食べて、良質なエネルギーを常に補給することが必要です。

 特に肉・魚・卵といった動物性たんぱく質には、豊富なアミノ酸と疲労回復物質が含まれているため働き盛りの人には欠かせません。1日最低2食は動物性たんぱく質のメインディッシュと、たっぷりの野菜と適量の炭水化物がセットされたバランスメニューを意識して食べてください。とはいえ高ストレスのときは胃腸の動きが悪くなりがちなので、食欲がふるわない場合はフライや天ぷらなどオイリーなメニューは避け、焼く、蒸す、煮るなどのあっさりした調理法のものを選ぶとよいでしょう。

(3)他のストレス要因を最小限に減らす

 大きなストレスにさらされているときには、その他のストレス要因は思い切って最小限度にするようにコントロールする必要があります。

 例えばアフターファイブや休日に英会話や資格取得のためのスクール、各種セミナーに通っている人も多いと思いますが、知力・精神力を余分に使う活動は一時休止することをお勧めします。また体力・気力を使うような家族行事やコミュニティーの活動なども、理由を説明して延期や欠席をお願いしましょう。

 その活動が楽しくてリラックスでき、確実にストレス解消になっているというのであれば別ですが、高ストレス状態のときは「頭が思考や感情でいっぱいいっぱい」になる人がほとんどです。そんなときは自分を鼓舞して行うような活動や気疲れする行事はできるだけ控え、心身ともにリラックスできる休息時間を増やしてください。

 自律神経系のバランスが悪くなっているため体力的にも普段より疲れやすくなっていますので、負荷の高いスポーツや疲労を上乗せするようなレジャーや遠出は控えて、無理のない軽めの運動や外出に変更してください。

(4)重要な決断・行動は、できるだけペンディングする

 高ストレス状態のときには、心身が疲労し、思考力や判断力が鈍っていることがよくあります。そのため人生における重要な決断や行動は、高ストレス状態を脱するまでは可能なかぎりペンディング(保留)するのが得策です。例えば住宅・保険などの大きな買い物、婚約や結婚、引っ越しといった重要な決断は、ストレス状態を脱してから行いましょう。

 ストレスがマックスにかかっている最中にもかかわらず無理して転職活動を行う人がいますが、高ストレス状態のときは判断ミスが起こりやすくお勧めできません。焦って転職した会社が、自分の思っていた仕事内容ではなかったり、雰囲気が悪かったりということもよく耳にします。人生を左右するような重要な行動は嵐のピークに行うのは控えて、ある程度風がないできてからスタートさせましょう。その方が自分本来の思考力や判断力が戻っているため良い結果につながりやすくなります。

 ただしもし今、高ストレスによって心身の調子が悪くなっているのであれば、まずは産業医や症状が該当する医療機関の医師に相談して業務軽減や休職などの措置を行ってもらってください。

 以上、私が産業医・精神科医として高ストレス状態のビジネスパーソンの皆様にアドバイスしていることの中から、基本的な事項を4つに分けてご紹介しました。皆様のストレスコントロールの参考にしていただければ幸いです。

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奥田弘美(おくだ ひろみ)さん
精神科医(精神保健指定医)・産業医・労働衛生コンサルタント
1992年山口大学医学部卒。精神科医および都内20カ所の産業医として働く人を心と体の両面からサポートしている。著書には『心に折り合いをつけて うまいことやる習慣』(すばる舎)、『1分間どこでもマインドフルネス』(日本能率協会マネジメントセンター)など多数。日本マインドフルネス普及協会を立ち上げ日本人に合ったマインドフルネス瞑想(めいそう)の普及も行っている。