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産業医が見た、タフネス社員が心を病む3つのパターン

第31回 長引く過労や睡眠不足、精神的ストレスに注意

 奥田弘美=精神科医(精神保健指定医)・産業医・作家

 「いつまでこういう状態が続くのか……と、出口の見えない長いトンネルを全力疾走しているようで、精も根も尽き果てました」。やつれた顔でがっくり肩を落として診察に来られた、プロジェクトチームのリーダーを務めていた男性社員さんの言葉は忘れられません。

 「仕事に忙殺される日があまりにも続くため、家族との関係もおかしくなって……。自分は一体、何のために必死で働いているのか分からなくなりました」。そんなふうに話す人にも出会いました。

 会社側は社員個人のタフさに甘えて、一人に負荷をかけ続けては絶対にいけません。特に裁量労働制の管理職系社員の労働時間が過重になっていないか常にチェックする。そしてトラブルが発生したり欠員が出たりして仕事量が急激に増えている状況を見つけたら、担当者の疲労が慢性化しないうちにヘルプ人員の派遣を行う、業務配分や納期を再検討するなど、早め早めの対応を行っていただきたいと思います。

【パターン2】家族が病気で入院して回復が遅れたとき

育児を奥さんメインで行っている家庭で、奥さんが入院した途端に大変なことになる例も。写真はイメージ=(c)Antonio Guillem-123RF

 家族が病気になって入院したときも、タフネス社員がメンタルを病みやすいパターンの一つです。特に奥さんが病気で入院し回復が遅れたとき、今までバリバリ働いていたタフな男性社員がメンタルを病むというパターンを筆者は少なからず経験しました。

 それまで家事や育児を奥さんがメインで担ってきたご家庭の場合、奥さんが入院してしまうと、私生活は一気に機能不全に陥ります。すぐに親御さんがヘルプにかけつけて泊りこみで手伝ってくれる場合はよいのですが、それが無理な場合は慣れない家事、子供の世話、保育園などの送り迎えを夫が一人でこなさねばならなくなります。特に男性は、「子供や家の用事で仕事を軽減してほしい」と職場に言いづらい傾向があるため、黙して無理を重ねがちです。

 今までと同様の仕事量や責任を手いっぱいに抱えつつ、貴重なやすらぎと休息の場だった家庭でも慣れない家事・育児という仕事に忙殺されるようになった男性社員が、過労状態となったあげく、不眠や気力低下といったメンタル面の不調が発生するケースが少なくありません。

 また女性社員でお子さんや家族の入院・病気が長引いて、看病のために過労状態になってメンタル不調や体調不良になるケースも散見されます。仕事が終わってから病院に駆けつけて世話をしたり、夜遅くまで看病を続けたりしているうちに、肉体的・精神的疲労がピークに達して心や体に不調が発生してしまうのです。遠方に住んでいる高齢の親の健康状態が急に悪化し、休日のたびに長距離を往復して介護や施設の手配に数カ月奔走したあげく、心身のエネルギーを消耗してうつ病になったケースも複数ありました。

 こうしたプライベートのストレスが長期間続きそうなときは、男性も女性もまずは正直に会社の上司や人事に相談し、仕事量の調整をお願いすることが必要だと思います。上司や人事は、社員の近しい人が病気になった、入院したという情報をキャッチしたら、その人の仕事が負担になっていないか、心身が疲労していないかなどを早めにヒアリングし、SOSを見逃さないで対応してあげてほしいと思います。

【パターン3】クレーム対応や陰湿ないじめが長引いたとき

職場の陰湿ないじめを放っておいてはいけない。写真はイメージ=(c)Lightwave Stock Media-123RF

 いくらメンタルがタフだといっても、ネガティブな人間関係ストレスに長期間さらされるのは危険です。

 例えばタフな交渉に長(た)けていると社内で一目置かれていた40代の中間管理職A氏が、理不尽な要求を繰り返すクライアントの担当となり、心身を病んだケースがありました。大口クライアント企業の横暴な担当者に、まず前任者がメンタル不調となり、その後任として登用されたのがA氏でした。しかし一方的に納期の変更や契約外のサービスを求めてきたり、重箱の隅をつつくようなクレームを繰り返しては怒声を上げたりする担当者の対応に、A氏も翻弄され続けました。数カ月後にそのクライアントとの仕事はようやく終了しましたが、その直後からA氏は動悸(どうき)や冷や汗に急に襲われるパニック障害を発症して休職してしまいました。

 大手美容系会社のキャリア女性Bさんのケースは、陰湿ないじめが原因でした。エステ店の店長が急に病気になったために本社から急きょ臨時店長として抜てきされたBさんは、その店のエスティシャンたちがマニュアルを勝手に省略して商品を販売したり、所定の時間外に休憩をとったりしていることに気が付き注意し指導しました。しかしそれを逆恨みしたエスティシャンたちが結託して、Bさんに必要な報告を伝えない、あからさまに無視する、Bさん宛ての郵便物やBさんの私物を故意に紛失させるなど、陰湿ないじめを始めました。

 今まで本社のビジネスパーソンの中で時に論理的にやり合いながらもアクティブに働いてきたBさんは、その幼稚で陰湿なやり方に驚くとともにショックを受け、本社の上司に相談しました。しかし、これといった対応はされず、上司は「あと数カ月だから我慢しろ」の一点ばり。Bさんは次第に不眠状態となり食欲も減退したため、心療内科を受診したところ、「適応障害」の診断を受け、休職の診断書を発行されました。

 これらの例のように、今までと全く勝手の違う理不尽なクレームや陰湿ないじめに長期間さらされた場合、それまでバリバリ働いてきたタフな人でも、精神的ストレスが高じてメンタルを病むことがあります。

 こうした状況を会社が察知した場合は、担当者を放っておいてはいけません。長引くクレーム対応については一人で頑張らせ続けるのではなく複数で対応に当たらせる、多人数で結託して行われているような陰湿ないじめに対しては、より権限のある経験豊かなスタッフを派遣するなどして毅然としたいじめ対策を行うなどの速やかな対応が必要だと思われます。

 以上、私が今まで経験したタフネス社員がメンタルを病んだパターンを3つに分けて紹介しました。

 どんな強い人でもメンタルを病む可能性があるため、過信は禁物です。特に長引く過労や睡眠不足、精神的ストレスの蓄積は、健康を破壊する力となりえます。心身に過剰な負担がかかってきたときは誰もが早期にSOSを発することができる職場環境づくりが必要だと感じますし、SOSをキャッチした会社には速やかに対応に乗り出す柔軟なフットワークをぜひ持っていただきたいと思います。本稿が微力ながらそのヒントになれば幸いです。

こちら「メンタル産業医」相談室

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奥田弘美(おくだ ひろみ)さん
精神科医(精神保健指定医)・産業医・労働衛生コンサルタント
1992年山口大学医学部卒。精神科医および都内20カ所の産業医として働く人を心と体の両面からサポートしている。著書には『心に折り合いをつけて うまいことやる習慣』(すばる舎)、『1分間どこでもマインドフルネス』(日本能率協会マネジメントセンター)など多数。日本マインドフルネス普及協会を立ち上げ日本人に合ったマインドフルネス瞑想(めいそう)の普及も行っている。

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