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こちら「メンタル産業医」相談室

黒田官兵衛に学ぶ、ストレス社会を生き抜くヒント 

第30回 周囲からのサポート力を高めるには

 奥田弘美=精神科医(精神保健指定医)・産業医・作家

 ご存じ黒田官兵衛は、NHK大河ドラマの主人公にもなった有名な武将です。1546年(天文15年)に生まれ、もとは播磨国(兵庫県姫路市)の小大名・小寺家の家老にすぎませんでしたが、その優れた知力・頭脳を豊臣秀吉に認められ、軍師として大活躍していきます。秀吉の天下取りにブレーンとして大きく貢献して大名に出世し、のちに筑前国福岡藩の祖となります。

官兵衛はこの3つのサポート力をどのように培ったのだろうか

 官兵衛はドラマや小説では、「説得によって敵を味方に寝返らせる」調略の名人であり、知謀に秀でた策士として語られがちです。しかし筆者は官兵衛が、「上司力」「同僚(部下も含む)力」「家族・友人力」という3つのサポート力を常に最大限にしっかり引き出しながら、自分の豊かな才能とリンクさせていった彼自身の人間性にこそ大きな魅力と興味を感じるのです。

 実は官兵衛には、彼が真っすぐな誠実さを持ち、かつ温かな人間味にあふれていたことを示す様々なエピソードが豊富に残されています。

 例えば荒木村重が織田信長に反旗を翻した際には、単身で説得に乗り込むも失敗し、有岡城の劣悪な環境の土牢に1年近くも監禁されますが、敵に寝返ることなく耐え抜いて生還したことはあまりにも有名です。また官兵衛は、この有岡城の牢で世話になった牢番・加藤重徳の恩を忘れなかったようで、彼の子を自分の養子として立派に育て上げ、のちに彼は黒田家を支える重臣となりました。

 このエピソードからも分かるように、官兵衛は愛情深い面倒見のよい人柄だったようで、家臣を大切に育てることに若い頃から腐心し、育て上げた優秀な家臣団と家族に近い深い絆で結ばれていたことも有名です。官兵衛が集め育てた精鋭部隊の侍大将たちは、「黒田二十四騎」と呼ばれ、現在にもその武勇と忠義が語り継がれているほどです。ちなみに先述した牢番の子は、「黒田二十四騎」の一人・黒田一成です。また有名な民謡「黒田節」は官兵衛が育て上げた猛者・母里友信(もりとものぶ)の豪快なエピソードから生まれたとされています。

 こうして官兵衛が育て上げた優秀な家臣は、下克上が当たり前の戦国時代において、官兵衛が有岡城に幽閉されている間も誰一人となく黒田家を見限ったり裏切ったりせず、それどころか見事官兵衛の救出に成功します。忠義者の家臣たちがいなければ、官兵衛は有岡城で獄死したでしょう。彼らはその後の天下を左右する数々の重要な戦いでも大いに武功を立てて黒田家を支え続けました。

 官兵衛は知略に優れていただけでなく、情に厚く部下を愛し育てるという人間力を多分に有していたからこそ、ストレスチェックでいうところの「同僚(部下を含む)からのサポート力」を常に得続けていくことができたのでしょう。

 伝わるところによると、官兵衛は「人を活すること多大」であり、家臣をよく日ごろから観察することを怠らず、その得手(長所)を伸ばし、不得手(短所)を補う手段や仕組みを考えることにたけていたようです。また官兵衛は、その生涯のうちで一度も部下を手打ちにしたり死罪を申しつけたりしなかったともいわれています。現代に置き換えると、自分が気に入らなくなった部下に対してパワハラしたり切り捨てたりしないで、長所を見つけ出して上手に活用できる懐の深い上司・経営者だったといえるかもしれません。

「信頼のブランド」を築けた理由は?

 このように知謀だけではなく温かい人間性と誠実性を兼ね備えた官兵衛は、「上司のサポート力」ももちろん抜群でした。若い頃は秀吉はもちろんのこと、秀吉お抱えの名軍師・竹中半兵衛にも気に入られ、軍師としての薫陶を受けたようです。

 ちなみに官兵衛が有岡城に幽閉されたとき、信長が「官兵衛が敵に寝返ったに違いない」と勘違いして官兵衛の息子・松寿丸(のちの黒田長政)を殺すように秀吉に命じますが、竹中半兵衛がひそかにかくまって命を助けたとされ、黒田家の存続を左右する重要なサポートも行っています。もし信長に知られると半兵衛自身の命が危なくなるリスクの高い行為でしょうが、それをおしても松寿丸をかくまうことを半兵衛に決意させる信頼関係を、官兵衛は作り上げていたのでしょう。

 実際、官兵衛が秀吉の軍師として次々と敵の調略に成功したのも、彼の誠実な交渉態度に高い信頼性があったからこそ。官兵衛は二枚舌を使って敵をだましていたわけではないのです。彼は優れた頭脳で状況を正確に分析し、敵にメリット・デメリットを分かりやすく伝えたうえで、敵にとっても最大限に有利になる条件を提示するという方法で説得したようです。今でいうところの「ウィンウィンの関係」を可能な限り目指して官兵衛は交渉していたのです。

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