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「次の異動先は…」 不本意な人事に悩んだときの心の切り替え方

第39回 人事でメンタル痛めない心の整理法

 奥田弘美=精神科医(精神保健指定医)・産業医・作家

転職など大きな決断は先延ばしに

 さて、マイナス要因であれプラス要因であれ、異動の理由がとりあえず納得できたら、次は新しい部署で頑張るために心の切り替えが必要になってきます。

 望んでいない異動を命じられた本人にとっては、しばらくは非常につらいものです。新しい部署の人間関係や仕事に慣れるまでの期間は、精神医学的には明らかにストレス状態であり、不本意な異動であればあるほどそのストレス度は高まっています。

 中には「こんな異動には耐えられない」と、会社に辞表を提出してしまい、性急に転職活動を始めようとする人もいますが、精神科医としては基本的にはお勧めしません。なぜならばストレスの渦中にあるときに重要な決断や行動をすると、勘が鈍っているため判断ミスを起こしやすいからです。

 精神医学では「心身がストレス状態にあるときに、人生を左右する大きな決断はしてはいけない」というのは基本中の基本セオリーです。

 焦って転職した先が、より悪い条件の会社だったということもありますし、何よりも前向きな雰囲気を漂わせていない人は面接をパスできないことも多いため、求職期間が予想より長引いてしまい、より精神状態が悪化してしまうこともあり得ます。

 異動した先で過労死ラインを超えるような残業が常態化しているとか、心身を病むレベルのパワハラが横行しているといったブラック職場である場合は、早急に逃げ出すべきですが、そうでない場合はネガティブな心境で焦って転職活動しても良い結果は出にくいことが多いのです。

異動後しばらくは疲れやすいので、睡眠や栄養バランスの良い食事でコンディションを整える。写真はイメージ=(c) Aleksandr Davydov-123RF

 そこで異動したのちにまず必要なのは、数カ月間は睡眠と栄養のある食事をしっかりとって体のコンディションを整えることです。慣れない環境、人間関係のストレスで異動当初の2~3カ月は自分が思った以上に体が疲労するため、6時間以上の睡眠をしっかりとって、たんぱく質やビタミン・ミネラルが豊富な食事をしっかりとって体のケアにまず集中してください。ついやってしまいがちな深酒は慎んで、過度なダイエットは一度休止して、とにかく疲労改善に集中します。

 体の疲労が回復しエネルギーが十分に戻れば戻るほど、メンタル面でもパワーが出てきますので、新しいアイデアや発想が湧きやすくなってきます。また視点も広がるため、いやだいやだと思っていた異動先の仕事の中にも、意外な面白さや興味が見つかる可能性もあります。

 このように心身のケアをしっかりしつつ半年ほどはしっかりと熟慮し、その末に転職を決意するのであれば行動を冷静に起こしていけばよいですし、さらに異動先で様子を見ようと判断するのも大いにアリだと思います。

期限を決めて頑張ってみる

 例えばどのような異動先であっても、新しい学びや経験は積めるはずですので、「まずは1年間はこの部署で与えられた仕事をきっちりとやって、一通りのことはできるようになってみよう」と、「1年間だけ」など期限を決めて腹をくくって頑張ってみるのもお勧めです。

 以前別件で面談した某メーカーの管理職の男性は、「異動を命じられたときはまったく興味のない分野の仕事で落ち込んだけれど、自分のキャリアの引き出しを増やすために、まずはこの部署の仕事を一人でできるレベルまでマスターしてみよう」と気持ちを切り替え、「2年間だけ頑張る」と期限を決めたそうです。その結果、想定以上に業績が上がって上司に認められ、その分野の仕事がどんどん好きになったと語っていました。

 逆に期限を決めて頑張ってみたがどうしてもその部署の仕事になじめない、好きになれないという場合は、会社へは異動願いを出し続けながら「生活のためにと割り切って与えられた仕事を最小限のエネルギーで淡々とやっていこう」と心を切り替えてみるのもよいと思います。そして余ったエネルギーを使って、アフターファイブにキャリアアップの勉強にいそしんだり、地道に落ち着いて転職活動を行っていく。そうやっているうちに会社の状況が変わって新たな異動を命じられて心機一転して活躍し始める人もいましたし、新しい会社と縁ができてステップアップの転職がかなう人もいました。

 ともかく異動は人生の大きな転機の一つであるため、まずは焦らずじっくりと心を整理したうえで、人生のプラスに転換できるように心を切り替えることが大切だと思います。

 一人で心を切り替えにくい場合は、キャリアカウンセラーや心理カウンセラーを活用して話し相手になってもらってもいいでしょう。また異動のショックで睡眠が十分にとれない、憂うつな気分がどうしても払拭できず仕事に行くのがつらいという場合は、精神科や心療内科で相談されて心身の立て直しを図るのも一策です。

 心身のエネルギーを整えて前向きに心の切り替えができたのちに、新たな行動をスタートされるときっとうまくいくはずです。


こちら「メンタル産業医」相談室

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奥田弘美(おくだ ひろみ)さん
精神科医(精神保健指定医)・産業医・労働衛生コンサルタント
1992年山口大学医学部卒。精神科医および都内約20カ所の産業医として働く人を心と身体の両面からサポートしている。著書には『1分間どこでもマインドフルネス』(日本能率協会マネジメントセンター)、『心に折り合いをつけて うまいことやる習慣』(すばる舎)など多数。日本マインドフルネス普及協会を立ち上げ日本人に合ったマインドフルネス瞑想(めいそう)の普及も行っている。

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