子育てと仕事で大変な方へ ストレス防止のための3つの「ない」
第38回 ワーキングママ・パパのための心の整え方
奥田弘美=精神科医(精神保健指定医)・産業医・作家
あけましておめでとうございます。真新しい年を迎えたあなたの心と体はお元気でしょうか? こんにちは、精神科医・産業医の奥田弘美です。
さて前回記事「子育てと仕事、元気に両立するには? 子持ち産業医からのエール」では、働きながら子育てするワーキングママ(パパ)に向けてのエールを書きました。現代日本において子育てしながら働いていくのは、いろいろ大変なことも多いですが、その頑張りは必ず報われる! 素晴らしい喜びや深い感動が近未来に待っている! ということを様々な例を挙げてお伝えしました。今回は、育児に仕事にと日々奮闘するワーキングママ(パパ)たちが、元気に頑張っていくための心の整え方について、より踏み込んだ具体的なヒントをつづりたいと思います。

合言葉は「焦らない」「比べない」「頑張り過ぎない」
前回記事でも触れたように、残念ながら現在の日本社会では、ワーキングママ(パパ)のストレス度は、そうでない人に比べてピンポイントではどうしても高くなってしまいがち。特に子供が生まれて小学校低学年になるぐらいまでは、子育てに多大な時間とエネルギーをとられるため、仕事や自分自身の時間が持てずにイライラしてしまうことも多いでしょう。
そんな時に、筆者自身は常に「焦らない」「比べない」「頑張り過ぎない」の「3つの『ない』」を自分に言い聞かせて心を整えるようにしていました。この「3つの『ない』」は産業医としてワーキングママ(パパ)にお伝えするたびに大変好評をいただきます。具体的に解説していきましょう。
まずは「焦らない」「比べない」から。子供が小さければ小さいほど、自分が思うように仕事ができません。ましてや自分を磨く時間などはめったにとれません。子供のいない同僚がハードワークをこなして華やかに活躍したり、研修や留学などの経験を積んでスキルアップしたりしているのを横目で見ながら、自分は時短勤務でそそくさと退社して子供のお迎えに行かなければならず、「このままでいいのだろうか?」とついつい焦ってしまう。あるいは、他人の昇進や表彰の噂を聞くたびに「同期の〇〇さんたちと比べてずいぶん差がついてしまった」と比べて落ち込んでしまう……。そんなふうにイライラしたり自己嫌悪に陥ってつらくなったりということは多々あると思います。
筆者自身も子供が小さい頃は、何度そんな感情を体験したことでしょう。同世代のドクターが研究成果を学会で華々しく発表したり、医療の最前線で活躍している姿を見たりするたびに、子供の迎えに合わせたパートタイムや時短勤務を細々と続ける自分と比べては、よく落ち込みかけたものでした。しかしそのたびに、人生の先輩たちからもらった珠玉のような言葉を思い出しては、「焦らない」「比べない」と自分自身に言い聞かせ、心を整えていました。
例えば筆者の尊敬する教授や上司からは次のような励ましをいただきました。
「あなたは今、日本の未来を担う人材を育てるというとても重要な仕事をしているんだよ。自分自身のやっている仕事を大きな目で眺めて、もっと誇りを持ちなさい」
「人ひとりを赤ん坊から育てあげて一人前にするという一大長期プロジェクトに取り組んでいる人とそうでない人とが、目先の仕事で差がつくのは当たり前。自分自身にもっとハンディを認めてあげなさい」と。
また幼児教育の専門家でもある先輩ママからは、下記のような助言を会うたびに頂きました。
「子供が小さいうちは、親の愛情は質だけじゃなくて量も必要なの。ママやパパがそばで見守ってあげているからこそ子供は安心して心も体も健やかに成長させることができるのよ。だから今は子供たちとの時間をできるだけ優先してあげて。たいていの仕事はあとから挽回がきくけど、子供に関われるのは今この時しかないのよ。焦らないで!」
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