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あの人のカラダマネジメント術

五輪連覇・大野将平選手 「勝って当然」のプレッシャーとも闘った日々

五輪柔道メダリストに聞く(1)

 高島三幸=ライター

東京五輪の柔道男子73kg級決勝で、ラシャ・シャフダトゥアシビリ選手(ジョージア)に9分26秒の死闘の末に支え釣り込み足で技ありを奪って見事に優勝。日本柔道で史上7人目、男子では4人目となる五輪2連覇の偉業を達成した大野将平選手。頂点を極めたからこそ当然のように連覇を求められる重圧や苦悩、そして、前代未聞の五輪延期をどんなメンタルで乗り越えて結果につなげたのか、お話を伺った(取材は2021年10月)。

東京五輪で連覇を果たした大野選手。プレッシャーは相当のものだったはずだが、どのようにはねのけたのだろうか。
東京五輪で連覇を果たした大野選手。プレッシャーは相当のものだったはずだが、どのようにはねのけたのだろうか。

リオ五輪後、大外刈りをテーマに修士論文を書く

東京五輪後は、どのような生活を送っていらっしゃいますか。

 しばらく柔道着の袖に腕を通していません。体幹を鍛えるなど体を気持ちよく動かして汗を流し、ご飯をおいしく食べるという生活を過ごしています。トレーニングは我々にとっては苦しくてつらいものというイメージなので、これはトレーニングとは言えないですね。

リオデジャネイロ五輪で金メダルを獲得された後も大学院に進学し、1年間、休まれていますよね。

 リオ五輪後は必ず次の東京五輪の話題がセットになって、リオは東京への助走であるかのような雰囲気が漂っていました。実際にリオ五輪後に引退するトップアスリートも少なく、長く休む気持ちにはなれませんでした。でも「アマチュアスポーツである柔道は五輪でしか注目されない。4年という長丁場を経て、再び結果を出さなければいけないのだから休む勇気も大切だ」と野村忠宏さんなど天理大学の先輩方に助言をいただいたんです。思い切ってしばらく休むことにして天理大学大学院に進学し、大外刈りをテーマにした修士論文を1年かけて書き上げました。

東京五輪に向け、自身の得意技をさらに研究するという目的もあったのでしょうか。

 将来、指導者を目指すことを視野に入れていたので、技の感覚的なものをきちんと言語化して説明できるようになりたいという思いがありました。

 大外刈りは柔道で最初に覚える技の一つですが、シンプルかつディープな難しい技で、勇気が要る技でもあります。というのも、大外刈りをかけたら相手も大外刈りをかける鏡のような形になります。そんな技は大外刈りだけで、それをあまり理解できておらず、攻めと受け身を別々に分けて考えている柔道家は多い。それでは勝てないんですね。また、力任せになぎ倒すようなイメージがあるかもしれませんが、フィジカル面はもちろん大切なものの、緻密な技術が必要です。研究して新たな視点に気づいたり、自身の技術をさらに解析できたりして、分かりやすく説明できるようになったと思います。

 でもそれ以上に、副産物というか、今回の五輪連覇のために必要となったメンタルを支えてくれるものを得られました。研究の資料となる柔道の文献をあさっていると、私のモチベーションに火をつけた柔道の歴史を学ぶことができたのです。

「東京五輪に運命的なつながりがある」と思えた理由

どういうことですか。

 柔道は前回の東京五輪(1964年)で初めてオリンピック種目になり、今回と同じ日本武道館で実施されました。開催国のお家芸なので日本チームはプライドやものすごいプレッシャーがあったでしょうし、日本国民の誰もが圧倒的な強さで母国が勝利すると思っていたと思います。しかし、最終日の無差別級の決勝で、日本代表選手がオランダのアントン・ヘーシンク選手に敗れるという大波乱が起こりました。

 この衝撃的な敗退をきっかけに日本柔道は再建を目指して、柔道の私塾「講道学舎」を東京都世田谷区に設立します。のちに古賀稔彦さんや吉田秀彦さんなど数々の五輪メダリストや世界選手権優勝者を輩出した名門塾です。今は閉塾しましたが、私も中学生の時に山口から上京して、この講道学舎で高校まで学びました。

 さらにヘーシンク選手の歴史をたどると、東京五輪前の稽古の拠点は、実は私の母校の天理大学でした。五輪前に何度も合宿を組んで、天理大学の初代師範で日本代表監督だった松本安市さんから指導を受けていたことを知ったんです。

 「天理大学で稽古をしていたヘーシンク選手が東京五輪で金メダルを獲得し、それをきっかけに講道学舎が設立された」。それを知ったとき、私がたどってきた道、目指す道との強いつながりや縁を感じ、自分自身にプレッシャーを与えるかのように、「私ほど、この東京五輪に運命的なつながりのある選手はいない」と思うようになりました。「だから絶対に勝つんだ」と。このストーリー性を自分の中でしっかり意味づけして本番に臨めたことは、モチベーションを維持するうえでも非常に大きかった。五輪が延期になるという不測の事態も乗り越えられた一つの要因だと思います。

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