卓球、平野早矢香さん プレー以外の8割の時間で勝つ
元五輪卓球メダリストに聞く(2)
高島三幸=ライター
ロンドン五輪卓球女子団体で銀メダルを獲得し、引退後はスポーツキャスターや朝のニュース番組のコメンテーターとして活躍中の平野早矢香さん。第2回は、5度の日本一に輝き五輪でメダルを獲得できた理由や、現役引退を決意した経緯などを聞いた。

2003年の18歳のときに、念願の全日本卓球選手権のシングルで初優勝され、そこから3連覇を果たされます。追いかけられるプレッシャーもあったと思うのですが。
幼い頃からずっとトップに立てなかった選手だったので、全日本で1位になればみんなが褒めてくれて、「人生バラ色」といった景色が見えるのだろうと想像していました。でも、現実は違いました。「こんなにレベルの低い全日本選手権の決勝戦は初めてだ」「今回の優勝はまぐれだろう」「日本で勝てても世界では勝てない」などと周囲の声や評価が耳に入ってきて、悔しかったですね。もう1回勝たなければ、あるいは世界で勝たなければ認めてもらえないんだなと思いましたし、上に立てば立つほど、今まで以上のプレッシャーやいろんなものを背負うのだと感じました。
私が尊敬する元メジャーリーガー選手のイチローさんも、想像を絶するプレッシャーや苦悩を抱えていらっしゃったんだろうなと思います。当事者の立場に立たないと、人の本当の気持ちなんて分からない。そんなことも考えながら人と接していかなければいけないなとも思いましたね。
プレーしていない80%の時間で、表情やしぐさを観察
3連覇を含む5度の優勝を果たしますが、達成できた要因は?
色々ありますが、一つ私が意識していたこととして「表情やしぐさから相手の心を読むこと」が挙げられます。当時の卓球の試合では、実際にプレーをしているのは全体の19%だというデータがあります。つまり残りの約80%の時間は、ボールを拾いに行ったり、ベンチでコーチと話したりする時間。
そんな80%の時間で、私は相手の選手の目や表情、しぐさを観察しました。目がキョロキョロしていたり、コーチがいるベンチをちらちら振り返って見ていたりすると、不安がっていたり動揺している可能性が高い。そのときに一気に畳み掛けるような攻撃をしたり、次の作戦を決めたりしていました。逆に言えば、大切なゲーム中、自分の心の変化を表情に出さないように意識すれば、相手に悟られることもありません。かなり細かいことですが、こういったことも勝敗に大きく影響すると私は考えています。
2008年に初の五輪(北京)に出場されましたが、かなり緊張したとか。
今振り返ると、北京五輪の前から精神的に追い詰められていましたね。実際に団体と個人種目で五輪の舞台に立つと興奮しましたし、世界選手権よりも周囲やメディアから注目されたので、日本を背負っている責任をより感じました。団体の初戦の第1ゲームでサーブを打つときに手の震えが止まらないぐらい、想像以上の緊張とプレッシャーがありましたし、五輪独特の雰囲気にのまれて、平常心を失っていたとも思います。自分の力はある程度出し切ったものの、結果的に団体で韓国との3位決定戦で敗れ、大舞台でメダルをつかむための技術もメンタルも足りないんだなと痛感しました。
そんな悔しさがあったからこそ、2012年に開催されるロンドン五輪は、絶対にメダルを獲得したいという気持ちになりました。