筋肉体操・谷本道哉さんに聞く 筋トレ三昧の研究生活
筋トレ研究者・谷本道哉さんに聞く(1)
高島三幸=ライター
想像以上に楽しかったですよ。先生に教わり、筋トレして、実験して、研究室の仲間と議論して、天国のような毎日でした。優秀な仲間ばかりで、研究室がある体育館でバーベルを上げ下げしながら議論して、議論しながらバーベルを上げ下げして……。石井先生との共著で本を書いて研究内容をアウトプットすることもできましたし、筋トレ三昧の恵まれた環境だったと思います。
筋トレの影響(?)で動脈が硬くなった
研究内容もどんどん変わっていくわけでしょうか。
そうですね。東大には修士2年、博士3年で計5年間いたわけですが、石井研究室に入った当初の関心は、ただただ「自分の筋肉を大きくするための研究をしたい」でした。当時は、筋肉のもとになる筋サテライト細胞が注目されていたので、運動負荷を与えたネズミのサテライト細胞をひたすら数えていました。博士課程になってからは、年を取って関節が弱くなってからもできるような、負荷が軽くても効果のある筋トレ「スロートレーニング」(*1)の研究に方向転換します。理由は、自分の肩や肘に痛みが出始めたからです(苦笑)。

その後、国立健康・栄養研究所に就職しました。配属先の室長である宮地元彦先生が、筋トレをすると動脈が硬くなるという研究をされていて、「そんな~」と思ったのですが、実際に僕も計測してみたらめちゃくちゃ動脈が硬くて驚きました。
さらに確かめようと1カ月間めいっぱい筋トレをして計測すると、もっと硬くなって血圧も10mmHg以上高くなっていました。動脈硬化度の指標であるPWV(Pulse Wave Velocity、脈波伝播速度)は、もともと70歳平均ぐらいの硬さだったのが、80歳平均ぐらいになっていて、これはちょっとよくないなと思い、動脈が硬くならない筋トレのやり方や動脈血管系機能に着目した研究を始めました。
ちなみに、どんな筋トレをすれば動脈は硬くならないのですか?
自分が研究してきたスロートレーニングでは数値は悪くなりませんでした。あとは筋トレと併せて持久的運動をすると良いというエビデンスがたくさんあるので、研究とは別ですが、僕自身も持久的運動を取り入れるようになりました。
どんな持久的運動を取り入れた?
自転車です。自転車を乗り始めたらふと疑問が湧きました。競輪選手は自転車ばかり乗っているのに、臀部(でんぶ)や太ももの筋肉がめちゃくちゃ太いじゃないですか。これは筋トレ理論からいうと説明しにくい現象です。今度はこれが研究テーマになります。
当時は、筋肥大には最大筋力の60%以上の負荷張力が必要と考えられていました。また、落下のエネルギーを受け止める「下ろす動作」は、筋肉痛を誘発しますが、これも重要な筋肥大の要素となります。自転車競技は1分間に90~100回転と高速で回すので、負荷張力は短距離種目でも最大筋力の20~30%程度。また「下ろす動作」に該当する局面は全くありません。でも実際に自転車選手はすごい脚をしている。なぜそうなるのか、を近畿大学に職場を変えてから研究し始めました。
どうして大きくなるのですか?
筋肉を肥大させるためには、筋肉に強い力を与えることや損傷を引き起こすことのほかに、乳酸の蓄積などによる代謝環境も強く影響すると考えられます。エネルギー消費が大きい運動をすると乳酸が発生して、浸透圧の関係でそこに水が集まり膨れ上がります。高速でペダルを回転し続けると筋肉内が低酸素状態になって、酸素供給が少ない分、より乳酸が多量に出てきます。ももがパンパンに水膨れをする。おそらくそれが筋肥大を促す刺激の一つになっているのだろうと思います。
他にもいろいろなテーマに取り組んでいますが、こんな感じで、「その時に興味があることを研究する」というスタンスで研究を続けています。好きなことができ、本当にありがたい幸せな環境だと思います。
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次回は、谷本さんが新著の語録『みんなで筋肉体操語録 ~あと5秒しかできません!~』を執筆した理由や、番組内で発してきた数々の「言葉(語録)」の意図について伺う。
(インタビュー写真 鈴木愛子)
◆筋トレ研究者・谷本道哉さんに聞く
第1回 筋肉体操・谷本道哉さんに聞く 筋トレ三昧の研究生活第2回 筋肉体操・谷本道哉さん 筋トレは「キツくてもツラくない」
第3回 筋肉体操・谷本道哉さん プライベートでは20分筋トレ+自転車
近畿大学生物理工学部人間環境デザイン工学科准教授
