水泳・入江陵介選手 米国で目の当たりにした「本番に強い」の秘密
五輪競泳メダリストに聞く(3)
高島三幸=ライター

米国の選手が本番で強い理由
米国で練習し、何を一番学びましたか?
米国の選手を見ていると、オンとオフのメリハリがはっきりしています。練習するときはとことんするし、休みにはしっかり遊ぶ。人生を楽しんでいるなという印象を受けました。うまくガス抜きができていることも、競技力を高める上で必要ではないかと思うようになりました。日本だと、「アスリートはアスリートらしくあれ」という風潮が強く、「アスリートがお酒を飲むなんて」という人もいる。もちろん、競技に専念できる機会をいただいていることはとてもありがたいですが、僕は今まで競技に打ち込みすぎて、ストレスが相当たまっていたのかなとも思いましたね。オンオフのメリハリをつけるべきだと教わりました。
米国選手の本番の強さの秘密にも気づけたとか。
実は、練習の内容や練習時のタイムだけでいうと、日本人の方が圧倒的に強いです。でも、国際大会の本番になると、彼らはきちんと結果を出す。練習量を減らし、その分練習の質を高める調整方法をテーパーと言いますが、そのテーパーという調整期に入ってから、米国人選手は一気に記録が伸びるんです。
その理由は、ジュニア時代からの教育や環境にあると思います。僕がジュニアだった頃は、テーパーをやることはなく、日々の練習の延長線上で大会に出場していました。しかし、米国ではジュニアの時からテーパーをしっかりやっています。米国は日本よりもジュニアや学生の大会数も多く、大会に出ると一気に記録が伸びる経験を何度もするうちに、「テーパーをやったから自分は強い」というある種の思い込みが生まれるのではないかと思うのです。だからこそ、大舞台でも自信を持って挑めるのだと思います。
人それぞれストロングポイントが違う
30代に突入し、アスリートとしての加齢との向き合い方、トレーニング方法は何か意識されていますか。

練習量で言えば、学生時代と比べて少しは減ったとは思うのですが、その分、体幹を鍛える筋トレなどの陸上トレーニングを増やしたりしています。水中と陸上トレーニングの割合が何対何と明確には分かりませんが、陸上で必要な筋力をつけて、それを泳ぎに生かすといった意識づけを大切にしています。
背泳選手は、特にどのような部位を重点的に鍛えたり、柔軟性を高めたりするのでしょう。
水泳は全身運動なので、背泳ぎだからここを鍛えればいいというものではないと思っています。それに、上半身が強い選手、下半身が強い選手など人それぞれストロングポイントが異なるので、この部位を鍛えれば100%強くなるという理論も、水泳には当てはまらない。僕は肩回りが柔らかいですが、そうでもない背泳選手もいますから。僕自身の話で言えば、体幹トレーニングを今見直していて、体幹の強さで泳ぎのブレが防げるなど、体の軸となるお腹や腰回りを鍛える重要性を実感しています。トレーナーと相談しながらさらに強化していくつもりです。
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- 最後の五輪かもしれないので後悔したくない