水泳・入江陵介選手 すさまじいプレッシャーの中で結果を出す力
五輪競泳メダリストに聞く(1)
高島三幸=ライター

五輪選考会は独特の雰囲気とすさまじいプレッシャー
国内では敵なしですが、それでも五輪選考会は緊張しましたか?
もちろん緊張しましたね。五輪選考会は独特の雰囲気が漂います。日本は世界で戦える選手しか連れていかないので、タイムと順位の設定が厳しい。過去の実績は関係なく、決勝の一発勝負で代表を決めるので、ミスできないすさまじいプレッシャーは、どの選手にもあります。もちろん僕にもそれはあって、緊張する中、やってきた練習の成果を出すだけだと、割り切って泳ぎました。
すさまじいプレッシャーの中で、きちんと結果を出すには何が重要でしょうか。
「自分のレース」をすることが一番大切です。競泳はつかみ合ったり人が邪魔したりする競技ではなく、自分の身一つで順位を競うスポーツ。自分自身がこういうレースをすると決めてその通りに泳げば、勝てるシンプルな競技です。でも、隣の選手が気になってペースが乱れればタイムロスが生じて思い通りのレースにならない。いかに周りに翻弄されず、自分が決めたレースを最後まで貫けるか。ある意味、心理戦でもありますが、自分のレースを貫くことができるのが、大きな舞台で結果を出せる一流選手です。そのためには、普段から他人と比べて練習やレースをするのではなく、自分と向き合い、自分で決めた目標を達成し続ける姿勢が大切だと思います。
自分と向き合うためにも、その都度レースに対して目標を持っている?
もちろんそうです。大きな大会ほど目標を立てて挑むことが重要ですが、その通過点となる小さな試合でも、今回はどんなレース展開にするかとか、前半はこれくらいのタイムで入るといった通過タイムなどもコーチと相談しながら決めて、自分の泳ぎに集中しながら挑んでいます。

個人メドレーの萩野公介選手や瀬戸大也選手など、他の種目はライバルが切磋琢磨(せっさたくま)しながら競技力を上げてきたように思います。背泳ぎは後輩たちがなかなか上がって来ず、長い間、入江選手が一人でけん引してきたような印象があります。国内のライバル不在のしんどさを感じたことは?
今回の五輪選考会でも他の種目では若い選手が代表に入っていますし、背泳ぎももっと若い選手が出てきてほしいっていう気持ちは、正直あります。自分の競技人生も決して長くはないので、次の世代の選手たちがもっと引っ張ってほしいとも思います。でも、そこに関して僕はどうすることもできません。
ライバルがいないしんどさに関しては、あまり感じていませんでした。国内ではなく、世界で競い合うことを意識しているので。自分の中で目標を決めて、それに向かって淡々とトレーニングするだけです。ただやはり、日本選手権を連覇しているとはいえ、水泳をやめたいと思う挫折はたくさんありました。
(第2回に続く)
(インタビュー写真 厚地健太郎)
競泳選手
