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あの人のカラダマネジメント術

49歳の現役プロトレイルランナーが語る「老いない秘訣」

プロトレイルランナー鏑木毅選手の健康マネジメント術(3)

 高島三幸=ライター

プロトレイルランナーの鏑木毅さんは、群馬県庁に勤務していた28歳の時に野山を走るトレイルランニングに出合い、40歳でプロになり49歳の今も現役で活躍する。鏑木さんのインタビュー第3回のテーマは、老化と対峙しながらどのようにモチベーションを高め、日々のトレーニングに励んでいるのか。また、年齢とともに目標をどう変化させ、チャレンジしているのかについても聞いた。

40歳の時に参加した2009年UTMB(ウルトラトレイル・デュ・モンブラン)での様子(写真提供=鏑木さん)

 前回記事「『抗酸化』『低糖』で40代で持久力向上を実現」で、40歳目前で感じた「第1段階の老化」について話しましたが、50歳を目前にして、さらに「老化」を痛感するように…。若い頃のようにトレーニングすれば右肩上がりに競技力が上がるわけではなくなりました。いつも老化の進行を最小限にとどめることを考えていますし、体のメンテナンスにも時間を割いて疲労の回復力を高めながら、トレーニングを積んでいます。

「朝起きた時に『よし、今日も行くぞ!』という気持ちになれたほうが絶対にいいですよね」

 明らかに体の衰えを感じたり、試合の結果があまりよくなかったりなど、若い頃よりも計画通りにいかないことが少なくありません。でもそんな現状に一喜一憂していてもきりがない。客観的に自身を見つめながら、何が足りないのか、そのために今できることは何かと仮説を立てて試すしかないのです。それには、何事にも動じないメンタルが大事になり、日常をポジティブに変える努力も必要になります。

 例えば、第1回「疲れ知らずの人が実践する『スキマトレーニング』と『ながらストレッチ』」でもお話ししたような「抗酸化」や「質のいい睡眠」を意識することによって、目覚めがよくなり、起床時に「今日も1日がんばるぞ!」とポジティブに思えるようになりました。これはとても大事なことで、「今日も1日が始まってしまったか…」と思うよりも、「よし、今日も行くぞ!」と思えたほうが絶対にいい。そう思えるかどうかで、その日のパフォーマンスは全く違うものになると思うのです。同じことは私のようなアスリートだけでなく、ビジネスパーソンにも言えるはずです。

ストレス対策にもいい「低糖」

 これからの季節、「五月病」という言葉を耳にすることが多くなりますが、仕事や私生活でストレスを抱え続けていると脳が疲れ、体の疲労につながります。ストレスから気が休まらず、なかなか眠れず、目覚めが悪くなると1日憂鬱になるなど、悪循環に陥ってしまいます。

「低糖の生活をするようになってからイライラしなくなりました」

 ストレスを感じた時、私は普段の生活とは真逆の行動を取ります。例えば、意図的に山から離れる機会を設け、海岸の風景や釣り堀の水面をぼんやり眺めたり、好きな歴史小説を読んだりする。そうすれば、心身ともにリラックスできて脳の休息になります。日常のストレスから離れるような、自分なりのリラックス方法を見つけることも、自身を守る大切なすべです。

 ストレスフリーという観点からいうと、私の場合、前回「『抗酸化』『低糖』で40代で持久力向上を実現」で話した「低糖」の生活を続けるようになってから血糖値の乱高下がなくなり、思い通りにいかないことがあっても、昔のようにイライラしなくなりました。現状に動じることなく、次に進むためのしっかりとした判断ができるようになったと思います。また、糖質を取りすぎると体がだるくなったり、眠くなったりするものですが、そうしたこともなくなり、集中力が高まって思考もポジティブになります。

 このように、日々の睡眠や食事がパフォーマンスに大きく影響します。自身の人生を豊かなものにするか、そうでないものにするかにも大きく関わってくるはずです。

トレイルランニングはマンネリ化しない

 何日もかけて山道を走るようなレースになぜチャレンジするのかと、不思議に思う方も少なくないと思います。50歳近くにもなってトレーニングも含め、よく継続できるなと思われる方もいるはずです。でも私にとっては、試合はもちろん、練習も楽しめるのが、トレイルランニングというスポーツの最大の魅力であり、面白さだと思っています。

鏑木さんの著書『日常をポジティブに変える 究極の持久力』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)

 例えば、地方で講演などの仕事があった場合、1日だけ時間があったとしたら、知らない山をトレーニングがてら1日中走ります。すると、いつもとは違う風景を見ることができ、いつもとは違う坂道を駆け上がることができる。「パタゴニアの空気はおいしいな」「ロッキー山脈はさすが迫力があるな」というふうに、国内外の様々な山を楽しめるレジャー性があるスポーツ、それがトレイルランニングなのです。

 私の場合、皇居の周りを3周走ったり、トラックをグルグルと10周も走ったりするトレーニングは苦手ですぐにイヤになってしまいます(笑)。一方、坂道もでこぼこ道も草原も、あらゆる場所がトレーニングになるこの種目のトレーニングは、マンネリ化しません。「今日は12時間走り続けるトレーニングをしました」と話すと、多くの人が「うわっ」と驚かれるのですが、私にとっては、「12時間も知らない山を走り続けることができてワクワクした!」という感じなのです(笑)。

 だからラッキーでした、このスポーツと出合えたのは。だって、苦しいことでさえ人生の壮大な遊びのように楽しめているのですから。誤解を恐れずに言うと、人生そのものも遊びのように考えれば、苦悩したり葛藤したりすることも乗り越えられそうな気がします。

老いによって最も低下した力とは

「脚で地面を蹴り出すことの連続、それがランニングなんですが……」

 先日、鹿屋体育大学で全身の筋力などの数値を計測しました。すると、2009年にトレイルランニングの最高峰の大会「ウルトラトレイル・デュ・モンブラン」(UTMB)で世界第3位になった時と、9年後の今の数値はほとんど変わっていませんでした。それは私の仮説が正しかったと立証することなので喜ばしいことではあるのですが、唯一、大きな変化があったんです。それは、バンッと瞬間的に脚で地面を蹴り出す力が半減していたことでした。ランニングにおいて最も重要な能力なので、それはもうショックでしたね。

 これこそ老いによる数値の低下です。ランニングはジャンプの連続動作ですので、この数値の低下を食い止めるにはジャンプトレーニングが必要だと思った私は、例えば、スキージャンプの葛西紀明選手といったあらゆるトップアスリートの練習を参考にしながら、今も試行錯誤しています。

 ただ難しいのは、ジャンプトレーニングを重点的にやると、何かの能力が落ちるリスクもあることです。全体の平均的なレベルを探りながらトレーニング内容を考えるのは楽しい半面、本当に難しい。年齢を重ねると、「この調整方法をすれば、試合にピークを合わせられる」といった、昔の成功体験も効果がなくなってしまいます。発想を狭めるので成功体験が邪魔になるケースもあるのです。だから、「この年齢ならどんなトレーニングだったら効果があるのかな」などと考えて、常に新しい目標と課題を設定しながらチャレンジするしかない。50歳になっても世界に通用するという成功を収めたら、実体験から得た知見を多くの方に発信し続けていきたいとも思っています。

 2019年、50歳になる私は、もう一度UTMBに挑戦します。プロアスリートとしての最終局面を実感することが増えてきた今、世界最高峰の舞台で走るのは、最後の機会になるかもしれません。老いを受け入れ、老いにあらがいながら、大会の当日まで人生の集大成にするための準備に全力を注ぐつもりです。

 私が走るのは、何かにチャレンジすることで、何歳からでも自分の人生を高めることができるというメッセージでもあります。1人でも多くの方が、年だからと諦めずに、少しでも何かに挑戦してみようと思ってくださったり、参考になることがあったりすれば、これほどうれしいことはありません。

(インタビュー写真:厚地健太郎)

◆プロトレイルランナー鏑木毅選手の健康マネジメント術

第1回

疲れ知らずの人が実践する「スキマトレーニング」と「ながらストレッチ」

第2回

「抗酸化」「低糖」で40代で持久力向上を実現

第3回

49歳の現役プロトレイルランナーが語る「老いない秘訣」

鏑木毅(かぶらき つよし)さん
鏑木毅(かぶらき つよし)さん 1968年群馬県出身。早稲田大学競走部で箱根駅伝を目指すも故障で断念。群馬県庁に就職し、28歳でトレイルランニングに出合い、40歳でプロ選手に。2009年世界最高峰レース「ウルトラトレイル・デュ・モンブラン」(UTMB)で3位。同年全米最高峰レース「ウエスタンステイツ100マイルズ」で2位。2019年50歳で再びUTMBに挑戦すると表明。新著に『日常をポジティブに変える 究極の持久力』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)。
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