日経グッデイ

あの人のカラダマネジメント術

「抗酸化」「低糖」で40代で持久力向上を実現

プロトレイルランナー鏑木毅選手の健康マネジメント術(2)

 高島三幸=ライター

プロトレイルランナーの鏑木毅さんは、群馬県庁に勤務していた28歳の時に野山を走るトレイルランニングに出合い、40歳でプロになり49歳の今も現役で活躍する。鏑木さんのインタビュー第2回のテーマは、一時期は引退を考えたという、37歳の時の「第1段階の老化」とどう向き合い、どのように乗り越え、パフォーマンスに結びつけたのか。老いとともに低下する持久力を再び向上させるカギとなった「抗酸化」と「低糖」について語ってもらう。

鏑木毅さん。40歳を迎えた2009年のUTMB(ウルトラトレイル・デュ・モンブラン)で世界3位になった際のゴール付近の様子(写真提供=鏑木さん)

 20代や30代後半ぐらいまでは食事や栄養について今ほどストイックに考えていませんでした。エネルギーになれば食事は何でもいいと思っていたし、トレーニングだけでベスト体重を維持することもできていました。

「第1段階の老化」を乗り越えるきっかけとなった人

 しかし、37歳の時に第1段階の「老化現象」を感じます。以前まではラクに登れていた山登りのトレーニングが、突然つらくなったんです。最初は、単に疲労が残っているのか、体調が優れないのかなと思いました。でもしばらくたっても、つらさはまったく変わらない。練習時のタイムも伸び悩み、疲れが抜けないために、こなせる練習量も少しずつ減っていきました。「ああ、ついに来た。これが老化か……」とショックを受けました。老化による衰えは少しずつ穏やかに表れるものではなく、突然、明確な形でやってくるのだと知りました。

 衰えをはっきりと自覚し始めた私は、「37歳まで国内トップで走り続けたのだからもういいだろう」と、一旦レースから身を引く決意をしました。そこで最後のレースとして、38歳の時にUTMB(ウルトラトレイル・デュ・モンブラン)に出場することにしました。これは、フランス東部のシャモニー=モン=ブランで毎年8月末に開催されるアルプスの山岳地帯を走る大会で、総距離約170km、制限時間46時間30分という過酷なレースです。

 まさかその大会で、その後のアスリート人生を揺るがすある人物との出会いがあるとは思いませんでした。その人物とは、当時58歳でUTMBに挑んだイタリア人ランナー、マルコ・オルモ選手でした。彼は2006年、2007年に57歳、58歳で2年連続優勝した伝説のランナーです。数日間かけ200kmから500kmの道程を走る、世界のアドベンチャーマラソンを69歳の今もなお走り続けています。

「オルモ選手はなぜあれほどのパフォーマンスを発揮できるのか。それを考えながら仮説を立てていきました」

 そんな彼が60手前の年齢にもかかわらず世界の第一線で戦い続けている姿を実際に見た時、感動で震えました。なぜ彼はこの年齢であれほどのパフォーマンスを発揮できるのか。彼は老化とどう対峙しているのか。その謎を知りたくて、帰国後、私は必死に文献を集めて、少しでも関連しそうな資料を片っ端から読みあさりました。

 そうしてたどり着いたのは、マラソンの持久力はスポーツ科学によってある程度解明されているけれど、100km、200km級のトレイルランニングにおける持久力については、根源的な部分は究明されていないということでした。

 そこで私は、尊敬するオルモ選手はどんな練習をしているのか、どんなことを意識しているのかと想像しながら、仮説を立てて自分の体で実証することを繰り返しました。その「老いへの抵抗」のカギとして重視したのが、「抗酸化」でした。

最初に始めたのが「活性酸素を取り除くこと」

 人が呼吸で取り込んだ酸素の一部は、「活性酸素」という酸化力の強い成分として体内に残ります。これがたまりすぎると、細胞を傷つけ、老化、がん、動脈硬化、その他多くの疾患を招くといわれています。アンチエイジングのためには、活性酸素の発生を抑制したり、発生した活性酸素を速やかに分解処理したりする必要があります。そのためには「抗酸化作用」を持つ成分を体内に満たしておく必要があるといわれています。

 そうしていろいろ研究した結果、私の体に合うと実感したのが、「アスタキサンチン」という抗酸化成分でした。β-カロテンやリコピンなどと同じカロテノイドの一種で、エビやカニなどの甲殻類、サケやタイといった魚類など、主に海洋系の食材に多く含まれています。

鏑木さんの著書『日常をポジティブに変える 究極の持久力』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)

 著書『日常をポジティブに変える 究極の持久力』で、予防医学などを専門にされている京都府立大学大学院生命環境科学研究科准教授の青井渉先生と対談しました。その中でも取り上げていますが、ビタミンA、C、Eや、ウコンの色素であるクルクミンなど様々な抗酸化成分がある中で、アスタキサンチンは体内で糖や脂肪を分解してエネルギーを生産するミトコンドリアの機能を活性化させることが報告されているなど、老いに対しても効果があると考えられています。

 そのアスタキサンチン、私はサプリメント製造販売会社がスポンサーになったこともありサプリメントで摂取することが多いですが、飲み始めてから、いくつかの効用を感じました。まず朝の目覚めがよくなり、疲労感が和らぐようになりました。周囲にも分かりやすい変化としては、当時ストレスで増えていた白髪が減り始め、後頭部の薄毛の進行が止まり、少しずつ髪の毛が増え始めました。何よりもうれしかったのが、飲み始めて3カ月ぐらいで、地面を蹴る力が向上したのを感じたことです。

 トレーニングメニューを大きく変えたわけではありませんが、脚力をはじめとした筋力を取り戻し、より質の高いトレーニングを積めるようになった気がしました。40代に入ってから参加したレースでは、最後まで疲労感が軽く、全力でゴールすることができました。

 こうした食品やサプリメントによる抗酸化の作用は、人によって実感できる効果に差はあるでしょうが、私の場合は、自身の体に合っていたのだと思います。今も毎日アスタキサンチンを摂取しています。

糖ではなく、脂肪をエネルギーに変える体になる

 「抗酸化」に加え、老化による持久力の低下を防ぐために意識しているのが、「低糖」です。簡単に言えば、血糖値が上がりにくい食事を心がけているということ。例えば、野菜から食べて、糖質の多いご飯類を最後に食べたり、白米より血糖値が上がりにくい玄米を食べたりするということ。間食も、40歳ごろから、血糖値が急激に上がりやすいチョコレートやあめより、ナッツやチーズ、果物を選んだりするようにしました。

「トレイルランニングで完走するには、脂肪をエネルギーに使った方がいいんです」

 低糖を意識したきっかけは、海外で外国人選手と一緒に合宿した時でした。マラソン大会などに参加される方は、試合前日にパスタなどの炭水化物を摂取されるケースが多いと思います。カーボローディング(*1)と言いますが、私も走る前にせっせとエネルギーになる炭水化物を蓄えていました。すると、現地の選手たちに笑われたんです。「何やってるの? トレイルランニングの世界ではカーボローディングは誰もやらないよ」と。

 糖エネルギーは一般的な成人男性で2500kcal程度しか体にストックできないとされ、これではトレイルランニングを完走するエネルギー量としては足りません。それに対して脂肪1kg当たりのエネルギーは約9000kcalといわれ、理論上、新たなエネルギーを取り込むことなく、約160kmを20時間以上かけて走破できるだけのエネルギーになるそうです。だから、数時間で枯渇してしまう糖質をあてにせず、身にまとった脂肪をエネルギーとして優先的に使える体にする方がいい、というのがトレイルランニング界のトップランナーたちの考えでした。

 日ごろから糖質を多く取っていると、血糖値が上がりやすくなり、脂肪よりも糖をエネルギーとして優先的に使う体質になるそうです。でも、その外国人選手たちのように、糖をエネルギーとして優先的に使う体ではなく、脂肪をエネルギー源にする体にシフトさせれば、体脂肪の燃焼効率が上がり、持久力が増すとのこと。なるほどと思った私は、「低糖」の方法について考え、実践することにしました。

 さらに、先ほど「アスタキサンチンはミトコンドリアを活性化する」という話をしましたが、活性化させることにより脂肪をエネルギーに変えやすい体質になることが期待できます。そこで、「低糖」と「抗酸化」を一緒に実践しながらトレーニングを積んでいった結果、脂肪をエネルギーに変えやすい体を手に入れることができました。走っていても、より速く長く動き続けられる体質に変わったことを実感したのです。つまり持久力が向上したということです。

 私は「低糖」を実践していますが、それはあくまでもトレイルランニングのような長時間走り続けるスポーツでの持久力向上のためであって、他のスポーツにも低糖がいいかどうかは分かりません。体質や体型、代謝には個人差があるので、合う合わないといったこともあります。ただ、血糖値の上がりにくい食事は、食後の眠気を防ぎ集中力やモチベーションを高く保ちやすくするなど、一般のビジネスパーソンにとってもメリットがあるといわれています。

 いずれにしても、急激に糖の摂取を減らしすぎるとコンディションに悪影響を及ぼすことがあると聞くので、何事もほどほどに。よくいらっしゃるのが、「無糖」を意識して、お米やパン、甘い物も一切取らない方です。でも、それはかえって脂肪の燃焼を阻害するといわれていますし、やりすぎはあまりよくないように思います。ご飯を減らしておかずを増やすなど低糖からスタートし、血糖値が上がりにくいように段階的に食生活を改善する方が継続しやすいのではないでしょうか。

 私自身、低糖を実践していると言いながらも、オフシーズンになると、子どもと一緒にラーメンを食べに行くことがあります。あまりストイックになりすぎず、たまには「がんばったご褒美」を自身にプレゼントすることも、ストレスをためずに継続できるコツだと思います。

*1 レース数日前から、おにぎりやパスタなど炭水化物を普段より多く食べ、体内に糖質をため込む方法

※記事中で触れている「低糖」については、アスリートである鏑木氏の意見であり、極端な低糖をお勧めしているものでありません。安易に真似ると体調に悪影響を及ぼす場合もありますので、注意が必要です。

(インタビュー写真 厚地健太郎)

◆プロトレイルランナー鏑木毅選手の健康マネジメント術

第1回

疲れ知らずの人が実践する「スキマトレーニング」と「ながらストレッチ」

鏑木毅(かぶらき つよし)さん
鏑木毅(かぶらき つよし)さん 1968年群馬県出身。早稲田大学競走部で箱根駅伝を目指すも故障で断念。群馬県庁に就職し、28歳でトレイルランニングに出合い、40歳でプロ選手に。2009年世界最高峰レース「ウルトラトレイル・デュ・モンブラン」(UTMB)で3位。同年全米最高峰レース「ウエスタンステイツ100マイルズ」で2位。2019年50歳で再びUTMBに挑戦すると表明。新著に『日常をポジティブに変える 究極の持久力』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)。