末続慎吾さん 39歳で100mを10秒台で走る方法
元五輪陸上メダリストに聞く(3)
高島三幸=ライター
2003年の世界陸上パリ大会男子200mで銅メダルを獲得し、2008年北京五輪では4×100mリレーで銅メダルを獲得(優勝したジャマイカチームが失格となり、2018年に銀メダルに繰り上げになった)。200mの日本記録保持者でもある末続慎吾選手は、2019年に39歳にして100m10秒89を記録し、今も現役として走り続ける。現在のトレーニング法や生活習慣について聞いた。

走るトレーニングはほとんどしない
39歳の今も現役選手として日本選手権やマスターズ大会で走っていますが、どのようなトレーニングをされているのでしょうか。
36歳のときにカール・ルイスを指導していたトム・テレツコーチに教わってから(前回記事参照)、やらなくていい練習が分かってきて、トレーニングの数を減らすことができました。ここ数年は、さらに練習が合理的になりました。
短距離選手の場合、20代で、走る技術が完成されてくると同時に体力も落ちていきます。短距離のトレーニングはとても激しいので、30代に入ってから20代の頃と同じトレーニングをするのは厳しいし、ケガをするリスクも高まります。1つの練習に集中することも大事ですが、陸上は単調なトレーニングが多いので、飽きてきてモチベーションが低下しがちになる。ですから、最近はトレーニングを合理化し、いかに飽きないようにするかを意識しています。実は、グラウンドで走るトレーニングはほとんどしていません。ですが、昨年の全日本マスターズ陸上大会で、M35(35~39歳)の100mの大会新記録10秒89を出すことができました。
走らずに10秒台が出ることが信じられないのですが、走るトレーニングの代わりに、何をするのでしょうか。
走る技術は身についているので、自分が興味のあるサーフィンや総合格闘技、空手といったほかのスポーツの要素から、走るためのトレーニングにつなげています。例えば、当たり前ですが短距離走は平らなトラックを走ります。一方、サーフィンは、不規則極まりない波の上でバランスを取りながら波に乗らなければいけない。瞬時に肩や上半身を動かしてバランスを保ちながら行きたい方向にボードを向けることで、普段使っていない体幹や反射神経を鍛えられます。
そんなトレーニングのおかげなのか、昨春、100m走の最中に右足のふくらはぎを肉離れしそうになったとき、瞬時に左肩を動かして右足の着地の仕方を変えて、肉離れを防ぐこともできました。
総合格闘技では人と組んで練習するよりも、「締める」「打つ」「投げる」といった型の練習をすることが多く、様々な動きからいろんな筋肉を使います。また、サーフボードに乗ってバランスを保ちながらキックボクシングに取り組むなど、飽きないように楽しみながら体を鍛えています。
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