中山雅史さん ケガと闘い現役にこだわり続けた日々
不屈のサッカー人生(1)
高島三幸=ライター

「運動しながら回復を待つ」というやり方
そのほか山中さんとの対談で、特に印象深かったお話は?
ケガの治療に対する考え方でしょうか。例えば、ケガをして整形外科で診てもらうと、「しばらく休んでください」と言われ、お薬をもらいます。痛みをなくすには休むことが一番だと頭では分かっているのですが、休むと積み上げてきたトレーニングがリセットされるようで怖いんです。
しかも年齢を重ねるほど、積み上げたものを取り戻すのはとてもつらい作業だと分かっています。休んで痛みが和らいでも、練習を再開するとまた痛くもなる。だから、長年お世話になっているリハビリチームの知恵と手を借りながら、膝に負担がかからないように「動かしながら回復を待つ」トレーニングを実践してきました。しっかり休むことが大事だと思いつつも、トレーニングしながら治せないかという矛盾と闘ってきたんですよ。
具体的にどのような方法ですか?
多くの診察や治療、リハビリを受けて分かったのは、痛みの原因は負傷した部位だけでなく、そこにつながっている関節や筋肉といった他の部位や動かし方にもあるということでした。「膝が痛いのは、脚全体や股関節の動かし方にも問題がある」とリハビリトレーナーから指摘を受け、膝への負担を減らすために股関節や足首を柔らかくするトレーニングを続けてきました。もちろん骨折などは安静が必要ですが、体の構造から痛みの原因を考え、「動かしながら治す」というやり方に、山中さんも共感してくださって。自分がやってきたことは間違いではないと証明されたようで、うれしかったですね。
半月板がない状態で走るための裏の努力
半月板も軟骨もほとんどない状態で走れるのが不思議ですが、具体的にどんなトレーニングをされているのでしょうか。
年2回ほど膝のMRI撮影をしてくださるお世話になっている医師からも、なぜ走れるのか分からないと言われます。大腿骨と頚骨がぶつかって痛いし、やっぱり怖いです。だけど走れるんです。
僕はX脚なので、走るときに軸足の膝が内側に入ってしまい痛みが出てしまいます。でも、お尻の力を入れると軸足の膝は外側に向きます。だから、お尻の筋肉を鍛えてステップを踏むようなトレーニングをしています。あとは、足の指で体重を支えられるような力がつけば、膝への負担が多少なりとも和らぐという考えから、足の指を曲げて丸めたまま立つトレーニングもしてきました。
足指を丸めたまま立つ!?ですか。
バレリーナは足のつま先で立ちますが、足の指を丸めた状態で立つんです。こんな感じですね(写真)。

例えば、拳を作ると力が入りますよね。それを足の指でするイメージです。これができれば、走ったときに地面から受ける衝撃を和らげることができ、膝への負担が軽くなるという理屈です。リハビリトレーナーのアドバイスで始めましたが、全体重が足の指にかかるので、最初はめちゃくちゃ痛くて指が腫れたし、立つことすらできませんでした。努力と根性でやるしかないと言われ、毎日地道に続けた結果、今はこの状態で歩けるようになりました。
痛くて地味なトレーニングを続けてきたわけですが、せっかくアスルクラロ沼津に入団させてもらったのに試合に出るところまでいけませんでした。情けないとふがいない気持ちが常にありました。