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あの人のカラダマネジメント術

鈴木明子さん 苦難を乗り越えるのに重要な「イメージ喚起力」

フィギュアスケート五輪元⽇本代表の鈴⽊明⼦さんに聞く(中)

 高島三幸=ライター

 どの病気にもいえることですが、症状が重ければ重いほど、「ただ治す」ことが目的では頑張る気力が続かないし、つらい闘病生活を乗り切るのは難しい。特に摂食障害になりやすい人は、完璧主義者や神経質、目標に向かって頑張ることを生きがいにしているタイプが多いような気がするのです。私がまさしくそうしたタイプで、周りに「学校もスケートもやめて、とにかくこの病気を治しましょう」と言われても、「治ったところで、私はその先何を目標に生きていくの?」と思ってしまった。

「何のために病気を治すのか。それをイメージできたことが、『治したい!』という強い思いにつながりました」
[画像のクリックで拡大表示]

 そんな中、「スケートは諦めなくていい。続けていいよ」と言ってくれた母の言葉のおかげで、「自分が生きるための目的」を失わずに済みました。「最も輝いていた、スケートをしている頃の自分になるために今具体的にできることは、ご飯を食べること」だと思えるようになり、「もう一度滑っている姿を見せて、母や応援してくれた人たちにも喜んでほしい」といった前向きなイメージを描けるようになりました。

 自分が最高のパフォーマンスができたときのイメージトレーニングをしているトップアスリートの話などを耳にしたこともあると思いますが、私の場合トレーニングという意識ではなく、「何のために病気を治すのかな」と自問自答したのです。結果的に、イメージトレーニングのようなことをしていた。おかげで、「治したい!」という能動的な強い思いにつながり、原動力となりました。

 このときに経験した、「壁を乗り越えるための目標の持ち方」は、その後の競技生活やメンタル面において大いに役立つことになります。

 思うに、「オリンピックに出たい」といった漠然とした目標では、本当につらいとき、苦しいときに踏ん張れません。大事なのは、「オリンピックに出場した先で自分がどうなっていたいのか」といった「目標を達成した先」をイメージすることだと思うのです。例えば、

オリンピックでは「ここまでやってきてよかったな」と納得できる演技がしたい

  • それを達成したとき、自分はどんな感情を抱いているのか
  • 演技終了後、私は飛び跳ねてガッツポーズをしているのか、感極まって泣いているのか
  • 会場のお客さんはスタンディングオべーションをしているのか
  • 私が「キス・アンド・クライ」(*1)に戻ってきたとき、コーチはうれし涙を浮かべて待っていてくれるのか

 …といったことを自分に問いかけ、「なりたい自分」をイメージするのです。

 それは仕事でも同じだと思います。成果を出したとき、上司や、そのサービスを利用したユーザーはどれだけ喜んでくれるのかなどとイメージできる人ほど、ポジティブな考え方になりやすく、目標を達成できる確率は高まるように思います。恐らく五輪で金メダルが取れる選手の多くも、目標を達成した後のイメージが具体的にあったはずです。さらにいえば、引退後のイメージができていれば、アスリートにとって引退がゴールではなくなり、不安や怖さが軽減されるのだと思います。

*1 キス・アンド・クライ:競技を終えた選手とコーチが採点結果の発表を待つための、スケートリンク脇に設けられたスペースのこと。

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