「足が壊れるまで」を貫いた マラソン野口みずきさん
元五輪女子マラソンメダリストに聞く(3)
高島三幸=ライター
「足が壊れるまで走りたい」の思い一筋
リオデジャネイロ五輪の選考レースである2016年の名古屋ウィメンズマラソンが、ラストランになりました。
まったく練習ができなかったのですが、年齢的に考えても五輪への最後の挑戦だったので、広瀬コーチに「走りたい」と伝えてスタート地点に立ちました。序盤で先頭集団から遅れて、完走も厳しい状態でした。それでも沿道からのやむことのない温かい声援が私の背中を押してくれたかのように、自己ワースト記録だったものの、2時間33分54秒でゴールすることができました。
高校を卒業して実業団に入ったとき、私は「足が壊れるまで走りたい」と言いました。その思い一筋で、現役生活を送ってきたように思います。決してかっこいい終わり方ではなかったですが、たくさんの人に支えられながら自分の意志を貫くことができて、足が壊れるまでやり遂げたことには満足しています。
いいことだけでなく、しんどいこともたくさんありましたが、それも含めてすべて私の人生であり、素晴らしい経験でした。だってそのおかげで、引退した後でもこうやって取材に来てくださって、自分がやってきたことをお話しすることができる。実業団に入った当時は、こんな未来が待っているなんて思ってもみませんでした。生まれ変わっても、また同じ指導者やお世話になった人、応援してくださった人々に出会って、同じ道筋をたどりたいと心の底から思います。

今も走っていらっしゃるんですか?
はい。引退して、1年間ぐらいは走らなかったんですよ。高橋尚子さんは走ることが本当に好きで、引退後も走っていらっしゃいましたが、私は目標がないと走れない。でも今は自由気ままに10キロぐらい走っています。こんなところにパン屋さんや飲み屋さんができたんだといったふうに、景色を楽しみながらゆったりとしたランニングを楽しんでいます。
家で過ごすことが多くなったコロナ禍でも、朝に走ると一日がすごく気持ちいい。1人で走ればソーシャルディスタンスも保てるし、体力がついて免疫力も高まる。脳もクリアになるような気がします。何よりシューズ1つでできる運動なのでおすすめです。
引退して4年経ちますが、今の活動は?
家族を大切にしつつ自分の限られた時間内で、全国各地の子どもたちにスポーツでも文化的なことでも、何か目標を持って諦めずに努力してほしいということを伝える活動をしています。今この時間がすごく楽しい。五輪に向かってやってきた道のりが、そんな時間をもたらしてくれているのかなと思います。
(写真 水野浩志)
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