日経グッデイ

中野ジェームズ修一の「遠回りしない体メンテ術」

ロコモ対策はいつから? 「今すぐ」が正解な理由

今の30代、40代はますます運動不足に!

 松尾直俊=フィットネスライター

 体の健康を保ち、いつまでもパワフルに働くには、正しい運動と食事、そして休息のバランスが取れた生活が必要だ。そこで、著名なフィジカルトレーナーである中野ジェームズ修一さんに、遠回りしない、結果の出る健康術を紹介してもらおう。
 今回のテーマは「ロコモティブシンドローム(通称ロコモ、運動器症候群)」について。特に下半身の筋肉量の“貯筋”が、将来のロコモ予防につながるといわれているが、どのように取り組めばいいのだろうか。

疲れやすくなった原因は、体を動かさなくなったこと、つまり生活活動量が落ちていることかもしれない。(c)Andriy Popov-123RF

 「最近、何となく疲れやすくなった…」。そんなふうに感じるのを、単純に「年齢のせいで体力が落ちた」と考えてはいないだろうか。体力というのは、大きく筋力と心肺持久力に分けられる。特に、体脂肪が増えているのに筋力が落ちてくると、動くのがしんどくなって、疲れを感じやすくなる。

 「筋力が衰えるのも、年齢のせいだから仕方ない」と考えがちだ。また、これまで運動などをやってこなかったのだから、今さら始めたところで、もう筋力は回復しないだろう、とあきらめてしまっている人もいるかもしれない。だが、「あきらめてはいけません。これまで運動とは無縁だった人でも、正しいトレーニングを行えば、筋肉は60代でも、70代や80代の方でも、必ず増やすことができるんです」と中野さんは言う。

「最近疲れやすくなった」のは老化が原因ではなかった!?

 「みなさんが“老化”だと思い込んでいるもののほとんどは、年齢による衰えではありません。日常生活の中で体を動かさなくなっていること、つまり生活活動量の減少によって運動不足に陥っていることが原因なのです」(中野さん)

 交通機関が発達し、駅構内やビルではエスカレーターやエレベーターでの上り下りが当たり前、加えて、この10年くらいの間に、買い物さえネットで頼めばすぐに届くようになり、歩くことも少なくなっている。

 実際にそれを証明するデータがある。「健康日本21(第2次)」 (厚生労働省による「21世紀における第2次国民健康づくり運動」)によると、平成9年と平成21年のデータを比較すると、15歳以上の1日の歩数の平均値は、男女ともに約1000歩減少しているという。これは単純に計算すると、1日約10分の身体活動に相当する。生活活動量の低下は、確実に進んでいるのだ。

 「こうした事実に鑑みると、この先10年でさらに生活が便利になり、活動量が減り、筋力がさらに低下することが考えられます。そうなると、将来的に待っているのは、ロコモティブシンドロームということになります」(中野さん)

 前回、生活習慣を変えるだけでも、ある程度は負荷がかかり、筋肉への刺激になるという話をした(参考「毎日続けるだけで筋トレにもなる4つの習慣」)。しかし中野さんは、「いろいろなデータを見ていると、生活習慣を変えるだけでは足りず、やはり運動習慣が必要になってきます」と警鐘を鳴らす。

ロコモ予備軍まで含めると全国に4700万人とも

 筋力が弱れば、関節が支えられなくなり、動作も遅くなる。それが原因で転倒してしまい、骨折などによる長期入院が重なれば、活動する時間が短くなり、さらに筋力が衰えるという悪循環に陥る。代謝も落ちて、確実にロコモへの道を突き進んでいく。

 これは現在40代の人にも当てはまる。文部科学省の「平成21年度新体力テスト調査」によると、現在の40代以上の男女5人に4人が、すでにロコモであるか、その予備軍であると言われている。また、ロコモの人は予備軍まで含めると日本全国で4700万はいるという推計もある(*1)。「まだ、大丈夫」と過信してはいられないのだ。

*1 東京大学22世紀医療センター特任准教授の吉村典子さんによる、和歌山県における2000人のレントゲン撮影、および骨密度検査から導き出された推計。J Bone Miner Metab.(2009; 27(5):620-8.

 「5人中4人がロコモ、もしくはその予備軍と言われても、自分は残りの1人だと思っている人も多いと思います。しかし、次の質問のうち、どれかに当てはまるということはありませんか?」(中野さん)

ロコモのチェックリスト

  • 1. ここ5年以上、運動らしい運動をしていない
  • 2. 生活のなかで階段よりもエスカレーターやエレベーターを優先して使っている
  • 3. 40歳を過ぎてから転倒して脚や手を骨折したことがある
  • 4. 脚のむくみが気になる
  • 5. ジーンズをはいたときに脚が細くなったと感じる
  • 6. ほぼ毎日、車で通勤している
  • 7. 最近、脚がつりやすくなった
  • 8. 階段を下りるときに膝に痛みや違和感がある

 「このなかのどれか1つでも該当するのであれば、下半身の筋肉群を鍛え直して改善したほうがいいでしょう」(中野さん)

椅子から片脚立ちして、グラついたら予備軍の疑いあり

 続けて、こんなテストでも、ロコモ危険度がわかる。

ロコモ危険度チェック
腕を胸の前で組み、反動を使わずに片脚で立ち上がる。完全に立ち上がったら3秒間、グラつかないようにキープ。椅子の高さは低いほどよい。
[画像のクリックで拡大表示]
片脚で立ち上がれる椅子の高さ
年齢層 男性 女性
20~29歳 20cm 30cm
30~39歳 30cm 40cm
40~49歳 40cm 40cm
50~59歳 40cm 40cm
60~69歳 40cm 40cm
70歳~(*2) 10cm 10cm
日本整形外科学会による「ロコモ度テスト」とその基準値から一部抜粋。*2 70歳以上は両脚で行う。


 「40〜60代の男性であれば、高さ40cm程度の椅子に浅く腰掛けます。そこから、腕を胸の前で組み、反動を使わずに片脚で立ち上がってみます。完全に立ち上がったら3秒間、グラつかないようにキープしてください。もし立ち上がれなかったり、立ち上がってもすぐにグラついてしまったり、伸ばしたほうの足をついてしまったりする人は、ロコモ予備軍の可能性があります」(中野さん)

 片脚ずつ試してみると、自分が弱いほうの脚もわかるはず。つまり筋力のアンバランスを自覚するためのテストにもなる。

 もし、このテストでロコモ予備軍の可能性が疑われたら、筋肉を刺激するトレーニングを取り入れる必要がある。でも、これまで運動に縁がなかった人は、「何をやればいいのかわからない」というのが現実だろう。

 「これまで全く運動経験がない人であれば、運動習慣を身につける第一歩として、ウォーキングやストレッチから始めてもいいでしょう。最初のうちは、眠っている筋肉を起こすための刺激になります」(中野さん)

ただウォーキングするだけでは予防にはならない

 ところが、ウォーキングやストレッチをただ続けていても、筋肉を増やすまでにはならない。「筋肉を増やすためには、ジョギングや、できればもう少し速く走るランニングまでやってほしいところです。また、ウォーキングだけでも負荷を上げる方法(関連記事「『運動強度』の足りないウォーキングはいくらやっても意味がなかった!」)がありますから、そういった工夫を取り入れてください」(中野さん)

 さらに中野さんは、「『ロコモ予防の運動はいつから始めればいいですか』という質問を受けることがありますが、常に『今が始めるチャンスです』と答えるようにしています。30代や40代だからまだいいかと安心していると、この先、さらに生活環境が便利になって、体を動かす機会がさらに減っていくかもしれませんよ」と言う。

 昔はここまで生活環境が便利ではなかったので、現在50代半ば以上の人は、若いころに体を多く動かす生活を送っていた。そのため、その年代の人には、筋肉の貯蓄、いわゆる“貯筋”があると中野さんは言う。

 「筋肉を一度しっかりつけておけば、10年先までその記憶が残っていて、筋トレを再開したときに通常よりも早く筋肥大が起こることがわかってきました(関連記事「過去の筋トレの成果は10年先まで残る?」)。これはマッスルメモリーと呼ばれていて、10年で落ちた筋肉でも、3年ほどで戻せることがあります」(中野さん)

 かつてしっかりと体を動かしていた人も、まったく運動をしてこなかった人も、ロコモ予防のためには筋肉に刺激が入るトレーニングが必要になる。次回、自宅でもできる具体的な方法を中野さんに解説してもらおう。

(イラスト:内山弘隆)

中野ジェームズ修一(なかの ジェームズ しゅういち)さん
フィジカルトレーナー/米国スポーツ医学会認定運動生理学士
中野ジェームズ修一(なかの ジェームズ しゅういち)さん 1971年生まれ。日本では数少ない肉体面と精神面の両方を指導できるトレーナー。卓球の福原愛選手や青山学院大学駅伝部など日本のトップアスリートだけでなく、高齢の方の運動指導も行う「パーソナルトレーナー」として活躍。日本各地での講演も精力的に行っている。近著に『青トレ 青学駅伝チームのコアトレーニング&ストレッチ』、『定年後が180度変わる 大人の運動』(ともに徳間書店)など多数。東京・神楽坂に自身が最高技術責任者を務める会員制パーソナルトレーニング施設「CLUB100」がある。
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