日経グッデイ

中野ジェームズ修一の「遠回りしない体メンテ術」

「粗食」と「断食」ではなぜ健康にならないのか?

必要な栄養が不足することで体に様々な弊害が起こる

 松尾直俊=フィットネスライター

 体の健康を保ち、いつまでもパワフルに働くには、正しい運動と食事、そして休息のバランスが取れた生活が必要だ。そこで、著名なフィジカルトレーナーである中野ジェームズ修一さんに、遠回りしない、結果の出る健康術を紹介してもらおう。
 今回は、「粗食」と「断食」について。どちらも健康効果があると思っている人が少なくないが、果たしてそうだろうか。

太っていないのに「太っている」と思い込む

(c)serezniy-123RF

 「最近体重が増えてきた」「お腹周りが気になる…」と思ったとき、多くの人が最初に思いつくのがダイエットだ。食事の量を減らしたり、野菜中心の「粗食」にしたり、あるいは何食か抜く「断食(ファスティング)」を試みる人もいるだろう。

 フィジカルトレーナーの中野ジェームズ修一さんは次のように指摘する。

 「特に女性の方に多いのですが、私たちトレーナーから見て、そもそも太っていないのに、ご自分で太っていると思い込んでいる人がいます。そういう方々の多くは、いくら『太っていないですよ』と言っても、なかなか聞き入れてもらえないんです」(中野さん)

 極端な粗食や断食に走ると、栄養不足に陥って様々な障害を引き起こしてしまう。それは、自分が太っていると思い込んでいる女性だけではない。

 「例えば、1日の摂取カロリーが4000kcal以上もあって、体重が増え過ぎて健康上の問題が起きている人が、摂取カロリーを抑えるのは良いことです。でもそれは、医師の指示があり、管理栄養士などによって正しい栄養指導ができていることが前提です。それなのに、自己流で始めてしまうと、栄養が偏ってしまうことが意外と多いのです」(中野さん)

 摂取カロリーを抑えるためにも、野菜中心の「粗食」が体にいいと思っている人は多いだろう。確かに、野菜はビタミンやミネラル類が豊富なので、一見、健康的なように感じる。だが、そのような粗食を続けていると、体にはどのようなことが起こるだろうか。

 「人間が生きて行くためには、最低でも1日におよそ1800~2000kcalのエネルギーが必要です。エネルギーが食事として外部から供給されなければ、体は体内にあるもので補おうとします」(中野さん)

 食事から供給されるエネルギーが不足した分だけ、体に蓄えられた脂肪が燃焼されればいいのだが、そう都合よくはいかない。人間の体には、たんぱく質を分解して糖を作り出す「糖新生(とうしんせい)」というという仕組みがあり、これは栄養学の世界では「体たんぱく質分解」と呼ばれている。

 糖新生において、最初にその標的にされるのが、大量のエネルギーを消費する「筋肉」だ。大食いの器官の働きを抑えて、その分のエネルギーを生命維持に必要な脳や内臓を働かせるために回すようになる、というわけだ。

 「筋肉を動かすためには、カルシウムなどのミネラルも必要です。それが食事から得られないとなると、今度は骨を分解して補うようになってしまいます。つまり、骨密度が下がるんです。ですから粗食を続けていると、筋肉量や骨量が低下していく恐れがあります」(中野さん)

ビタミン、ミネラル、食物繊維だけでは完全に栄養不足

 結局のところ、健康のためには「五大栄養素」をバランスよく摂取する必要がある。ここでいう五大栄養素とは、「たんぱく質」「炭水化物」「脂質」「ビタミン類」「ミネラル類」のことだ。

 たんぱく質は、人体の細胞のほとんどを構成し、1gあたり4kcalの熱量がある。炭水化物は糖質と食物繊維が結びついたもので、活動のための重要なエネルギー源となり、たんぱく質と同程度のカロリーだ。脂質は、ホルモンや細胞膜、核膜を作り出す役割を担っており、1gあたり9kcalという効率の良いエネルギー源にもなる。これら3つを合わせて「三大栄養素」ともいう。

 ビタミン類やミネラル類は、ほかの3つの栄養素や器官が体内で正常に働くための手助けをするもので、それ自体には体を動かすために必要なエネルギーを含んでいない。

 「ビタミンとミネラルをたくさんとると健康になるような気がします。でも、筋肉や臓器を構成し、エネルギー源にもなっている三大栄養素が不足すれば、いくらビタミンやミネラルをとっても、人体を構成している細胞を正常に働かせたり、成長させたりすることができないのです」(中野さん)

食物繊維は健康にいいイメージがあるが、そればかりを摂取しても逆効果になる。(c)Tatjana Baibakova-123RF

 また、野菜を食べると、食物繊維が豊富にとれて健康になれると思うかもしれない。だが、ビタミンやミネラルと同じで、三大栄養素が不足している状態で食物繊維ばかり摂取しても、効果的だとは言い難い。

 食物繊維は、人の消化酵素で分解されず、体内には吸収されない物質の総称で、水溶性と不溶性のものがある。

 水溶性食物繊維は、水分を含むとゼリー状になり、小腸での栄養素の吸収速度を穏やかにして、食後の血糖値の上昇を抑えたり、コレステロールやナトリウムの排出を促したりする作用がある。一方、不溶性食物繊維は水分を吸収して便の量を増やし、大腸を刺激して排便を促したり、有害物質を吸着したりして大腸がんのリスクを低減させる働きもある。

 「私のクライアントが、ほぼ野菜だけの食事をしてみたところ、『便の量が異常に多くなった』と言っていました。食物繊維には、便の量を増やすと同時に余計に取り過ぎた栄養素を排出する働きもあります。三大栄養素が不足したままで、食物繊維ばかりをたくさん含んだ食事を続けるのも、あまり健康的ではないかもしれませんね」(中野さん)

 もちろん、植物性の食べ物をメインにしたベジタリアンで、健康的な食生活を送っている人もいる。植物性の食べ物を中心とした食事でも、五大栄養素をバランスよくとることは可能だからだ。

 「ベジタリアンでバランスのとれた食事をしている方々は、大豆などの穀物から植物性たんぱく質を十分にとり、カロリーも必要なだけ摂取しています。ですから、健康的な生活が送れているのです」(中野さん)

断食をするとリバウンドしやすくなる

 中野さんは、粗食と同様に、断食についても注意が必要だという。

 2~3日の断食をすると、体重が数kg落ちることがある。それでダイエットできたと思う人がいるかもしれない。だがその大部分は、脂肪が減少したのではなく、腸内の便などが排出され、食物から摂取していた水分が減ったからであることが多い。

 中野さんは「数日断食すると、体が“飢餓状態”になって、今度は脂肪を溜め込みやすくなります。つまり、断食直後はリバウンドしやすい体質になっているので、気をつけないとすぐに体重が戻ってしまうんです」と言う。

 断食すると、「意識が研ぎすまれる」と言う人がいる。「精神的な部分でそう感じられるのであれば、私は否定しません。ただ、断食にハマってあまりにも頻繁に行い、体重の増減を繰り返していると、体への負担も大きくなってしまうので注意が必要です」(中野さん)

 粗食や断食は、一時的に行う分には、気分がリフレッシュされるなどの効果があるかもしれない。しかし、継続的に行う場合は、中野さんの言うような問題もある。バランスのとれた食事が健康のためには基本であることを覚えておこう。

中野ジェームズ修一(なかの ジェームズ しゅういち)さん
スポーツモチベーションCLUB100技術責任者/PTI認定プロフェッショナルフィジカルトレーナー
中野ジェームズ修一(なかの ジェームズ しゅういち)さん フィジカルを強化することで競技力向上や怪我予防、ロコモ・生活習慣病対策などを実現する「フィジカルトレーナー」の第一人者。元卓球選手の福原愛さんやバドミントンの藤井瑞希選手など、多くのアスリートから絶大な支持を得る。2014年からは青山学院大学駅伝チームのフィジカル強化指導も担当。早くからモチベーションの大切さに着目し、日本では数少ないメンタルとフィジカルの両面を指導できるトレーナーとしても活躍。東京・神楽坂の会員制パーソナルトレーニング施設「CLUB 100」の技術責任者を務める。『世界一伸びるストレッチ』(サンマーク出版)、『青トレ 青学駅伝チームのコアトレーニング&ストレッチ』(徳間書店)などベストセラー多数。最新刊は『医師に「運動しなさい」と言われたら最初に読む本』(日経BP社)。
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