日経グッデイ

中野ジェームズ修一の「遠回りしない体メンテ術」

年々感じる「体力の衰え」の正体とは?

筋力、心肺持久力、筋肉の柔軟性の3つを向上させよう

 松尾直俊=フィットネスライター

 体の健康を保ち、いつまでもパワフルに働くには、正しい運動と食事、そして休息のバランスが取れた生活が必要だ。そこで、著名なフィジカルトレーナーである中野ジェームズ修一さんに、遠回りしない、結果の出る健康術を紹介してもらおう。
 今回は、年齢を重ねるにつれて衰えていく「体力」について。体力低下の原因は何か、予防のためにはどうしたらよいのかを聞いていく。

年を取ると疲れやすくなるが、だからといって体を動かさないでいると…。(c)imtmphoto-123RF

疲れやすくなると、さらに体を動かさなくなる悪循環に

 人は誰しも、年齢を重ねるとともに体の動きが悪くなる。いつものように電車に乗って会社に行き、また電車に乗って家に帰ってくるだけでも「なんだか体が重いな。疲れやすくなったな…」と感じるようになり、それにより「体力の低下」を自覚する。

 体力が衰えたと思うと、今度はできるだけ疲れない方法で行動しようと考えがちだ。階段をあまり使わなくなり、歩いて10分の距離でもタクシーを使ったり、買い物は全部ネットで済ませたり…。

 フィジカルトレーナーの中野ジェームズ修一さんは「最近は生活が便利になり、日常の活動量が減っています。それが体力や筋力の衰えにつながっているんです」と指摘する。

 日常の活動量が減ることで、筋肉が使われる機会が減る。すると血液の循環も活発でなくなり、筋力が衰えて、さらに疲れやすくなる…。という悪循環に陥ってしまうのだ。

 それでは、体力を維持したり、あるいは衰えた体力を回復させたりするためには、どうしたらいいのだろうか?

 「体力維持には、いかに疲れることをするかが大切なんです。まずは生活の中で楽をすることをやめて、積極的に体を使うことを心がけましょう。そのうえで運動をして、筋肉に普段の生活以上の刺激を入れることが効果的です」(中野さん)

体力とは、筋力、心肺持久力、筋肉の柔軟性の3つ

 そもそも、日常生活でよく口にする「体力」とはなんだろうか?

 「体力は、『筋力』と『心肺持久力』、そして『筋肉の柔軟性』の3つを合わせた総合力だと言うことができます」と中野さんは説明する。

 「体力がある状態というのは、筋肉を持久的に動かして力を出すために、心肺機能が効率的に働いて、たくさんの酸素を体内に取り込むことができる状態を指します。それに加えて、筋肉が適度な柔軟性を持っていることで、回復力が高くなります。逆に筋肉が硬いと、回復に時間がかかり、疲れやすくなったなと感じるでしょう」(中野さん)

 体を動かす、つまり筋肉を使うと、血行が良くなる。すると、必要な栄養や酸素を体全体にまで行き届かせることができる。また、代謝によって作り出された不要物質などの排出も促せるようになる。それが体全体の健康に貢献するのだ。

 「例えば、たった1階分なのに、階段を使わずにエレベーターやエスカレーターを使う人をよく見かけますよね。それでは体力は衰える一方です。企業や地方自治体では、省エネと健康のために “2UP 3DOWN”を推奨しているところがあります。これは2階分上がる、または3階分下るためには階段を使いましょうというもの。私はこれをさらに進めて、上下4階分は階段を使うことをお勧めします」(中野さん)

(c)Andor Bujdoso-123RF

 階段を上るときには、足の裏にしっかり体重をかけて、一段跳ばしてみるのもいい。すると、臀部(お尻)の筋肉群に刺激が入り、鍛えることができる。こうすれば、1階分であってもそれなりの刺激になる。

 また、駅やオフィスなどで必ず階段を利用する習慣を身につければ、1回の刺激は少なくても、繰り返すことで効果を期待できるのだ。

加齢とともに衰える下半身を自重筋トレで鍛えよう

 日常の活動量がとても少なく、極端な運動不足の人にとっては、階段を使う習慣を身につけることで、体力が少しずつ回復していくだろう。だがそれでは不十分だ。

 「日常生活の中で筋肉を鍛えるのもいいですが、それは必要最低限の筋力を維持するものだと考えてください。できれば、自分の体重を負荷にした『自重筋力トレーニング』を取り入れてほしいですね」(中野さん)

 年を取ると、特に大きな筋肉が集中する下半身が衰えてくる。「加齢によって筋肉量が減ってくる下半身を鍛えるのであれば、スクワットやランジなどが最適です」(中野さん)

ランジの一種「フロントランジ」
(1)両手は頭の後ろで組み、両足を骨盤の幅に開いて、つま先をまっすぐ前に向けて立つ。(2)上半身は床と垂直を保ったまま、片足を大きく前に踏み出す。前に出した足の膝が90度になるまで体を沈み込ませる。左右それぞれ20回を目標に行う。(中野ジェームズ修一著『医師に「運動しなさい」と言われたら最初に読む本』より)
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 年を取っても若いころと同じような食事をとっていると太りやすくなるのは、筋肉量が落ちて基礎代謝が低下することも原因の一つだ。筋肉量を増やすことは、肥満防止にも一役を買うことになる。それに高齢者の場合は、筋肉量を維持することが、ロコモティブシンドローム(運動器症候群)や寝たきりの予防にもつながる。

インターバル速歩やストレッチで体力向上!

 それでは、心肺持久力や筋肉の柔軟性を高めるためには、どうしたらいいのだろうか。

 「心肺持久力については、まず日常生活で積極的に歩いてください。徒歩15分の範囲であれば必ず歩く、などと決めるのがいいと思います。そして、足を前に出すときに、足裏全体で道路をとらえて後ろに蹴り出して進むということを意識してください」(中野さん)

 もちろん、ウォーキングやジョギングなどの有酸素運動も有効だ。「早足のウォーキングと普通の歩行を交互に行う、インターバル速歩もお勧めです。負荷が異なる運動を交互に繰り返すことが、心肺機能を高めるのに役立ちます」(中野さん)

 運動不足の人は、ウォーキングや軽いジョギングから初めて、少しずつ運動負荷を高めていくと、無理なく心肺持久力を伸ばしていくことができる。

 そして、自重筋トレや有酸素運動のあとにストレッチを行えば、筋肉の柔軟性を高めて行くことができる。「筋肉を労わるように、反動をつけずに筋肉をゆっくり伸ばす静的ストレッチを行いましょう。太ももの表側・裏側、お尻、ふくらはぎ、すねなど、下半身の筋肉で特に硬いと感じられるところを重点的に行うといいです」(中野さん)

太もも表側のストレッチ
(1)あぐらをかいて座り、右脚を外側に開く。(2)左手は床につけて体を支え、右手で右足先を持つ。(3)股関節を開くようにして右のかかとをお尻に引き付ける。(4)息を吐きながら20~30秒キープ。太ももの表側の大腿四頭筋を伸ばすことを意識する。(5)左側も同様にして1~4を左右交互に2~3セット行う。(中野ジェームズ修一著『医師に「運動しなさい」と言われたら最初に読む本』より)
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 年を取ると筋肉の柔軟性が低くなり、関節の可動域も狭くなってくる。すると、体を動かしにくくなり、普段の動作も小さくなって活動量が落ちてしまう。それも体力低下の一因と言えるのだ。

 入浴後の体が温まったときや、寝る前にストレッチをすると、筋肉の柔軟性が高まるのと同時に、寝つきが良くなる。運動しない日も含めて、毎日静的ストレッチを行うメリットはある。

 「運動は、病気になる前に飲む“予防薬”のようなものです。できるだけ体を動かし、運動する時間を作るようにしましょう」(中野さん)

 「運動は苦手」「体を動かすのは疲れるから嫌」という人は、まず自分が楽しめる運動を見つけることから始めよう。そうすれば、筋力と心肺持久力、筋肉の柔軟性の低下を防ぎ、体力を向上させることも可能になるはずだ。

(イラスト:内山弘隆)

中野ジェームズ修一(なかの ジェームズ しゅういち)さん
スポーツモチベーションCLUB100技術責任者/PTI認定プロフェッショナルフィジカルトレーナー
中野ジェームズ修一(なかの ジェームズ しゅういち)さん フィジカルを強化することで競技力向上や怪我予防、ロコモ・生活習慣病対策などを実現する「フィジカルトレーナー」の第一人者。元卓球選手の福原愛さんやバドミントンの藤井瑞希選手など、多くのアスリートから絶大な支持を得る。2014年からは青山学院大学駅伝チームのフィジカル強化指導も担当。早くからモチベーションの大切さに着目し、日本では数少ないメンタルとフィジカルの両面を指導できるトレーナーとしても活躍。東京・神楽坂の会員制パーソナルトレーニング施設「CLUB 100」の技術責任者を務める。『世界一伸びるストレッチ』(サンマーク出版)、『青トレ 青学駅伝チームのコアトレーニング&ストレッチ』(徳間書店)などベストセラー多数。最新刊は『医師に「運動しなさい」と言われたら最初に読む本』(日経BP社)。
女性が医師に「運動しなさい」と言われたら最初に読む本