日経グッデイ

メタボ・肥満解消に効果!「代謝アップ」大作戦

5000人研究で判明!代謝を上げ病気を予防するウォーキングの黄金律

中強度の運動で筋肉量を増やせば、病気の予防につながる

 村山真由美=フリーエディタ―・ライター

 これまで代謝アップや血液力アップの大切さや、その実現のため日常生活の中でできるスモールチェンジ(細切れに立ち歩く入浴中のストレッチなど)の大切さについて述べてきたが、「ウォーキング」も代謝アップに有効な活動の一つ。30~40代を過ぎたら、ぜひ取り入れたい習慣だ。東京都健康長寿医療センター研究所の青栁幸利さんは15年以上にわたり、群馬県中之条町の65歳以上の住民5000人を対象に、身体活動と健康に関する調査研究を行ってきた。この「中之条研究」の結果、健康のために効果的な運動の法則が分かってきたという。その法則について青栁さんに話を聞いた。

メリットが大きく
リスクが少ないのが「8000歩・中強度運動20分」

活動量計をつけると、運動の量(歩数)だけでなく質(強度)もわかる。(©Andrew Haddon -123rf)
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 健康にいい運動法とは何か。ずばり、結論から言うと「1日8000歩・(そのうち)中強度の運動20分」だと東京都健康長寿医療センター研究所の青栁幸利さん。青栁さんは群馬県中之条町で15年以上にわたり実施してきた研究において、対象者に活動量計をつけてもらい、24時間の身体活動の実態を分析した。その結果みえてきた黄金律が、「1日8000歩・中強度の運動20分」だという。

 活動量計は歩数計(万歩計)と似ているが、測定できることが違う。歩数計は歩数を測るだけなのに対し、活動量計は歩数に加え、運動強度を測定することができる。つまり、活動量計では運動の量(歩数)と、質(強度)が分かるのだ。中強度の運動とは、うっすら汗ばむ程度の速歩きや、ぞうきんがけ、ラジオ体操など、「“なんとか会話はできるが、歌は歌えない”くらいの運動」(青栁さん)を指す。

 下の図1は、青栁さんが中之条研究で実証した「身体活動と予防できる病気の関係」を示したものだ。

図1 身体活動(歩数・中強度運動の時間)と予防できる病気の関係
青栁幸利著『目からウロコの知識レット・基礎編:「中之条研究」で実証された健康長寿の実現に最適な日常身体活動の量と質』(ノーブル・プレス、2011)、青栁幸利編著『身体活動計を用いた、新しい健康づくり~群馬県中之条町での取り組み~』(日本医療企画、2007)を参考に作図
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図2 運動の強度の目安
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 図1のそれぞれの歩数・中強度の時間をクリアすると、そのライン上に書かれた病気の発症率がおおむね10分の1になるという(運動の強度については図2を参照ください)。

 例えば、「7000歩・中強度の運動15分」を続ければ、骨粗しょう症はおおむね予防できるということ。中之条町で骨粗しょう症になった人の身体活動の実態を調べたところ、骨粗しょう症になった人の9割以上は「7000歩・中強度の運動15分未満」で、「7000歩・中強度の運動15分以上」の人は数えるほどしかいなかった。

 一つひとつの病気について同じように身体活動との関連を調べた結果、導き出されたのが図1で示した内容だ。

「運動はすればするほど体にいい」とは限らない

 「運動はすればするほど体にいいと思っている人は多い。確かに、ある程度まではそう言えるのですが、運動による健康効果は1万2000歩・40分が頭打ち。つまり、それ以上やっても予防できる病気はなかったということです」(青栁さん)

 それどころか、「8000歩・20分」を超えると、運動しすぎによる弊害が出てきやすくなる、と青栁さんは指摘する。例えば、運動をしすぎると膝関節を傷めやすくなることが知られている。

 「適度な運動は血流を促し、動脈硬化の予防につながりますが、運動をしすぎると、血流が速い状態が長時間続いたり、活性酸素が多く発生することにより、血管を傷めることにもつながるのです」(青栁さん)

 また、「1日8000歩を超えると、疲れがたまって免疫機能が下がりやすくなることも分かりました。過ぎたるは及ばざるがごとしといいますが、長い目で見るとやりすぎはマイナスです」(青栁さん)

頑張りすぎず、疲れない程度に徐々に歩数と強度を伸ばすことが、運動を長続きさせるコツだ。(©kasto-123rf)

 健康のための運動は、量(歩数)と質(強度)のバランスが大切だ。興味深いことに、「5000歩・7.5分」「7000歩・15分」「8000歩・20分」のように、歩数と中強度の運動時間の関係はある程度決まっていて、青栁さんの研究によれば93%の人がこのライン上(図1の赤色の斜線上)で生活しているという。

 「おそらく、それが人間にとっての自然な歩数と中強度の運動の組み合わせなのでしょう。ここから大きくはずれるような運動は、リスクを伴ったり、健康効果が得られないという状況を作り出してしまいます」(青栁さん)

 リスクについては前述の通り。健康効果が得られない状況とは、例えば、8000歩はクリアしていても、中強度の運動が20分(特に半分の10分)に満たない場合を指す。例えば、これまで4000歩しか歩いていなかった人が、急に8000歩歩くことにしたとする。すると、最初のうちは速歩き(中強度の運動)ができていても、だんだん疲れてきてダラダラ歩く時間が増えてしまう。

 こうなると、ただ疲れるだけ。疲労が残って翌日は歩くのが嫌になってしまう。「運動が3日坊主になる人の多くは、はりきりすぎでやりすぎ。疲れない程度に徐々に歩数と強度を伸ばしていくことが、運動を長続きさせるコツです」(青栁さん)

内勤の人は“ちょい足し”で1日8000歩を目指そう

 1日8000歩といわれても、自分が普段どれくらい歩いているか分からない、という人も多いだろう。男性の1日の歩数の平均は7000歩、女性は6000歩といわれているので、今よりも1000~2000歩増やすイメージ、と青栁さんは言う。

 「私の場合、通勤で往復30分ほど歩きます。研究室にこもっている日は、トイレや食事以外はあまり動きません。そんな日は1日5000歩くらい。雨の日など、妻に自宅から最寄り駅まで車で送迎してもらうと1日3000歩になってしまうこともあります。デスクワークの場合、1日8000歩をクリアするのは、結構難しいものです」(青栁さん)

 青栁さんの場合、通勤ルートを変えて歩数を増やしたり、研究所の中をできるだけ歩くようにしているという。「打ち合わせや面会に来られる方を、2階にある研究室から1階受付までお出迎えするようにしています。1度の往復でおおむね500歩は稼げるので、来客が3組ある日は1500歩程度稼げます」(青栁さん)

 ほかにも、社内では「2階上まで、3階下まで」はエレベーターを使わずに階段を使う、同僚に用事があるときは内線せずに出向く、食事は社員食堂ではなく片道10分くらい歩く店に行く、帰り道はいつものコンビニではなく、ちょっと遠いコンビニに寄るなど、歩数の“ちょい足し”を心がけると、特別な運動をしなくても、1日8000歩は実現できるという。

中強度の運動は代謝をよくし、体温を上げる

 ところで、図1で示したように、ある程度の歩数と中強度の運動時間までは、それらが増えるに従い、予防できる病気が増えるのはなぜなのだろうか。「一言でいえば、それは運動をすると代謝が良くなり、脂肪が燃焼したり、体温が上がりやすくなるから」だと青栁さんは言う。

 「運動にはさまざまなメリットがありますが、まず、体温が上がることに注目してみましょう。私たちの体温は明け方4時前後が一番低く、夕方4時前後が一番高いというリズムを繰り返しています。しかし、40歳くらいになると、体温が高くなるべきときに高くならず、低くなるべきときに低くならなくなる。つまり、体温にメリハリがなくなってきます」(青栁さん)

 体温が低いと脂肪分解酵素であるリパーゼの働きが悪くなるため、脂肪が燃えにくくなる。また、免疫力の低下や、睡眠の質の低下を招くという。

 「私たちの体は、体温がグッと下がるときに眠れるようにできています。最も高くなるべき時間帯の体温が低いと、そこから下がっても落差がないため、なかなか眠れない、夜中に目が覚めるなどトラブルのもとになります。体温が低い人ほど睡眠効率が低かったり、体調が悪かったりし、そういう人ほど歩数と中強度の運動時間も少ないことが分かっています」(青栁さん)

 そもそも、なぜ加齢とともに体温が下がるかというと、それは筋肉の量が減ることが大きい。運動、特に筋肉量を増やす中強度の運動をすることは、体温アップにつながり、万病の予防になると青栁さんは強調する。

認知症や寝たきりを予防したいなら代謝を下げない

ウォーキングは認知症予防にもなる

 近年、認知症予防のためのさまざまな脳トレ法が発表されている中、青栁さんは「8000歩・20分」を続けてみるのも一策と話す。

 「運動しながら計算するなどの方法が話題になりましたが、物事の効果を検証する際に大切なのは “続けられるかどうか”です。これからもいろいろな健康法が登場するでしょうが、『自分に合った方法か』『続けられるか』が、試してみるかどうかを見極める大きなポイントになります」(青栁さん)

 そもそも認知症は、いきなりなるわけではない。「いくつもの要因や疾病がドミノ倒しのようにつながって生じるものであり、予防したいなら、そもそも代謝を下げないことが大事」と青栁さんは言う。

 「食べすぎや運動不足で代謝が落ちると、筋肉が減ります。すると、熱を発生させる場所がなくなるため、体に脂肪がたまりやすくなります。それを放置すると内臓脂肪がたまり、高血糖や高血圧、脂質異常が起こる。それが進むと動脈硬化になり、さらに進むと、脳梗塞や心筋梗塞に至る。詰まりどころが悪ければ、血管性認知症、寝たきり、死亡という道をたどります。図1の斜線上に書かれた病気は、このようにすべてつながっているのです。つまり、認知症や寝たきりを予防したいなら、何より代謝を下げないこと、つまり、運動が大事、ということです」(青栁さん)

 運動としてはあまりにも身近で地味な「歩く」という行為だが、実は奥が深い。青栁さんが指導しているような身体活動量計を使った健康づくりの取り組みは、日本各地の自治体、企業健保などに広がっている(図3)。身体活動量計をつけて歩く――これも立派な「スモールチェンジ」だ。あなたもやってみてはいかがだろうか。

図3

(青栁幸利さんのアドバイスをもとに作成)  

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青栁幸利(あおやぎ ゆきとし)さん
東京都健康長寿医療センター研究所 運動科学研究室長
青栁幸利(あおやぎ ゆきとし)さん 医学博士。群馬県中之条町生まれ。筑波大学卒業。カナダのトロント大学大学院医学系研究科博士課程修了後、医療機関や大学講師などを経て現職。著書『やってはいけないウォーキング』(SB新書)は3カ月で7万部を超えるベストセラーに。本記事でも紹介した「病気にならない歩き方の黄金律」は世界中から奇跡の研究と称賛を浴びテレビや雑誌、講演会などでも活躍する。