「運動にはさまざまなメリットがありますが、まず、体温が上がることに注目してみましょう。私たちの体温は明け方4時前後が一番低く、夕方4時前後が一番高いというリズムを繰り返しています。しかし、40歳くらいになると、体温が高くなるべきときに高くならず、低くなるべきときに低くならなくなる。つまり、体温にメリハリがなくなってきます」(青栁さん)
体温が低いと脂肪分解酵素であるリパーゼの働きが悪くなるため、脂肪が燃えにくくなる。また、免疫力の低下や、睡眠の質の低下を招くという。
「私たちの体は、体温がグッと下がるときに眠れるようにできています。最も高くなるべき時間帯の体温が低いと、そこから下がっても落差がないため、なかなか眠れない、夜中に目が覚めるなどトラブルのもとになります。体温が低い人ほど睡眠効率が低かったり、体調が悪かったりし、そういう人ほど歩数と中強度の運動時間も少ないことが分かっています」(青栁さん)
そもそも、なぜ加齢とともに体温が下がるかというと、それは筋肉の量が減ることが大きい。運動、特に筋肉量を増やす中強度の運動をすることは、体温アップにつながり、万病の予防になると青栁さんは強調する。
認知症や寝たきりを予防したいなら代謝を下げない

近年、認知症予防のためのさまざまな脳トレ法が発表されている中、青栁さんは「8000歩・20分」を続けてみるのも一策と話す。
「運動しながら計算するなどの方法が話題になりましたが、物事の効果を検証する際に大切なのは “続けられるかどうか”です。これからもいろいろな健康法が登場するでしょうが、『自分に合った方法か』『続けられるか』が、試してみるかどうかを見極める大きなポイントになります」(青栁さん)
そもそも認知症は、いきなりなるわけではない。「いくつもの要因や疾病がドミノ倒しのようにつながって生じるものであり、予防したいなら、そもそも代謝を下げないことが大事」と青栁さんは言う。
「食べすぎや運動不足で代謝が落ちると、筋肉が減ります。すると、熱を発生させる場所がなくなるため、体に脂肪がたまりやすくなります。それを放置すると内臓脂肪がたまり、高血糖や高血圧、脂質異常が起こる。それが進むと動脈硬化になり、さらに進むと、脳梗塞や心筋梗塞に至る。詰まりどころが悪ければ、血管性認知症、寝たきり、死亡という道をたどります。図1の斜線上に書かれた病気は、このようにすべてつながっているのです。つまり、認知症や寝たきりを予防したいなら、何より代謝を下げないこと、つまり、運動が大事、ということです」(青栁さん)
運動としてはあまりにも身近で地味な「歩く」という行為だが、実は奥が深い。青栁さんが指導しているような身体活動量計を使った健康づくりの取り組みは、日本各地の自治体、企業健保などに広がっている(図3)。身体活動量計をつけて歩く――これも立派な「スモールチェンジ」だ。あなたもやってみてはいかがだろうか。
東京都健康長寿医療センター研究所 運動科学研究室長
