
健康のための運動は、量(歩数)と質(強度)のバランスが大切だ。興味深いことに、「5000歩・7.5分」「7000歩・15分」「8000歩・20分」のように、歩数と中強度の運動時間の関係はある程度決まっていて、青栁さんの研究によれば93%の人がこのライン上(図1の赤色の斜線上)で生活しているという。
「おそらく、それが人間にとっての自然な歩数と中強度の運動の組み合わせなのでしょう。ここから大きくはずれるような運動は、リスクを伴ったり、健康効果が得られないという状況を作り出してしまいます」(青栁さん)
リスクについては前述の通り。健康効果が得られない状況とは、例えば、8000歩はクリアしていても、中強度の運動が20分(特に半分の10分)に満たない場合を指す。例えば、これまで4000歩しか歩いていなかった人が、急に8000歩歩くことにしたとする。すると、最初のうちは速歩き(中強度の運動)ができていても、だんだん疲れてきてダラダラ歩く時間が増えてしまう。
こうなると、ただ疲れるだけ。疲労が残って翌日は歩くのが嫌になってしまう。「運動が3日坊主になる人の多くは、はりきりすぎでやりすぎ。疲れない程度に徐々に歩数と強度を伸ばしていくことが、運動を長続きさせるコツです」(青栁さん)
内勤の人は“ちょい足し”で1日8000歩を目指そう
1日8000歩といわれても、自分が普段どれくらい歩いているか分からない、という人も多いだろう。男性の1日の歩数の平均は7000歩、女性は6000歩といわれているので、今よりも1000~2000歩増やすイメージ、と青栁さんは言う。
「私の場合、通勤で往復30分ほど歩きます。研究室にこもっている日は、トイレや食事以外はあまり動きません。そんな日は1日5000歩くらい。雨の日など、妻に自宅から最寄り駅まで車で送迎してもらうと1日3000歩になってしまうこともあります。デスクワークの場合、1日8000歩をクリアするのは、結構難しいものです」(青栁さん)
青栁さんの場合、通勤ルートを変えて歩数を増やしたり、研究所の中をできるだけ歩くようにしているという。「打ち合わせや面会に来られる方を、2階にある研究室から1階受付までお出迎えするようにしています。1度の往復でおおむね500歩は稼げるので、来客が3組ある日は1500歩程度稼げます」(青栁さん)
ほかにも、社内では「2階上まで、3階下まで」はエレベーターを使わずに階段を使う、同僚に用事があるときは内線せずに出向く、食事は社員食堂ではなく片道10分くらい歩く店に行く、帰り道はいつものコンビニではなく、ちょっと遠いコンビニに寄るなど、歩数の“ちょい足し”を心がけると、特別な運動をしなくても、1日8000歩は実現できるという。
中強度の運動は代謝をよくし、体温を上げる
ところで、図1で示したように、ある程度の歩数と中強度の運動時間までは、それらが増えるに従い、予防できる病気が増えるのはなぜなのだろうか。「一言でいえば、それは運動をすると代謝が良くなり、脂肪が燃焼したり、体温が上がりやすくなるから」だと青栁さんは言う。
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