接客業は高血糖、営業職は脂質、SE(システムエンジニア)は血圧が高くなりやすい…。2008年にスタートした特定健康診査・特定保健指導(いわゆるメタボ健診)のデータの蓄積により、仕事により健康リスクが異なることが分かってきた。予防医学の研究者で、働き方と健康リスクについて研究している東京大学政策ビジョン研究センター特任助教の古井祐司さんに、職業別のなりやすい病気とその対処法(生活習慣の見直し方)について聞いた。生活習慣見直しのコツは「スモールチェンジ」だ。
仕事によって陥りがちな罠がある

メタボリックシンドローム、いわゆる「メタボ」は、おなかが出ていることと同義だと思われがちだが、正しくは、“内臓脂肪が蓄積して、脂肪細胞から分泌されているホルモンのバランスが崩れ、高血糖、脂質異常、高血圧のうち2つ以上の症状がある状態”を指す。
メタボを放置すると動脈硬化が進み、脳梗塞、心筋梗塞、糖尿病の合併症(糖尿病性腎症、失明など)といった恐ろしい病気を招くため、メタボの段階で生活習慣を改め、内臓脂肪を減らすことが大切だ。
「栄養バランスのいい食事を規則正しい時間に食べ、適度な運動をして、アルコールは控えめにし、ストレスをためない……。そんな生活ができればいいですが、 “分かっちゃいるけどできない”というのが現実ですよね」と、東京大学政策ビジョン研究センター特任助教の古井祐司さん。
「食事や運動などの生活習慣は個人の問題だと思われてきましたが、1日の大半を過ごすのは職場です。仕事によって特有の行動パターンがあり、それが、健康リスクにつながっている可能性があります」(古井さん)。
営業職はコレステロール値が上がりやすく、
システムエンジニアは高血圧になりやすい
30代 | 40代 | 50代 | |
システムエンジニア | 21.7% | 26.5% | 28.6% |
管理部門 | 14.6% | 25.3% | 31.7% |
営業部門 | 19.9% | 25.9% | 38.4% |
例えば、美容師などの接客業は、客の都合によって食事の時間が不規則になりがちだ。菓子パンとジュースなどで食事を済ませがちなので、高血糖になりやすいという。また、営業職は宴席が多く、過食過飲になりやすいためコレステロール値や中性脂肪値が高くなりやすい。システムエンジニアは長時間座りっぱなしで、夜間までストレスによる緊張が続く場合は血圧が上がりやすいという。思い当たる節がある人も多いだろう。
とはいっても、「営業マンが宴席を断ることはできないし、システムエンジニアがパソコンに向かわないわけにはいきません。会社ぐるみで取り組まないと変えられないこともありますが、“陥りやすい罠”に気づき、ちょっと工夫をすれば、健康リスクを下げ、メタボを予防することができます」(古井さん)
メタボ予防には、代謝を高める、つまり、脂肪を燃やす力を高めて、内臓脂肪を増やさないようにすることが大事だ。職業別になりやすい病気と、代謝アップ策も含めたそれぞれの対策については、3ページ以降で解説するとして、まず、多くの職業に共通している食事の問題から解説しよう。
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