よい睡眠は「時間帯」が重要
短時間睡眠は肥満のリスクを高めることは分かった。では、実際にどのくらいの睡眠時間をとればいいかというと個人差や年代差も大きいが、厚生労働省の「健康づくりのための睡眠指針 2014」によると、夜間の睡眠時間は25歳で約7時間、45歳で約6時間半、65歳で約6時間だと分かっている。また、冒頭でも紹介した通り、睡眠時間が7~8時間の場合が最も肥満が少ないという研究もある。人にもよるが、6~8時間を目指すとよさそうだ。だが、諸事情で十分な睡眠時間が確保できない日もある。そういう場合はどうしたらいいのだろうか。

「例えば、3時間しか寝られない場合、時間帯を調節できるのであれば、夜の3時に寝て6時に起きるよりも、夜11時に寝て夜2時に起きるほうが体のダメージは少ない可能性があります。なぜなら、夜11~2時の時間帯は、眠りを安定させるメラトニンの分泌が多い一方、活動に適したホルモンであるコルチゾールの分泌は少ないからです」(内田さん)
つまり、同じ短時間睡眠なら、早く寝て早く起きるほうが睡眠の質がいいと考えられるのだという。
これには、体内時計が密接に関わっている。私たちの体には1日周期でリズムを刻む体内時計が備わっている。これを概日リズム(サーカディアンリズム)という。
「例えば深部体温。先ほどのグラフを見ると分かるように、私たちの体温は、朝から夕方にかけて上がり、夕方以降下がるという一定のリズムを持って変動しています。これは、起きていても寝ていても関係なく、朝になったら上がり、夕方以降に下がるというリズムを刻みます。深部体温のほかに、レム睡眠(浅い眠り)の出現や、睡眠と関係するホルモンの分泌量にも一定のリズムがあります」(内田さん)
概日リズムと睡眠の関係について、一つずつ見ると次のようになる(図5)。
体温
夜の12時ごろから徐々に下がり、朝9時ごろから上がる。「体温が下がるということは、夜は代謝を低下させて体を休めているということです」(内田さん)
レム睡眠(浅い眠り)
レム睡眠とノンレム睡眠は交互に現れて睡眠周期を形成するが、「深い眠りであるノンレム睡眠は寝始めに多く出現するのに対し、浅い眠りであるレム睡眠は明け方から午前中にかけて多く出現します。この明け方から午前中とは、睡眠後半という意味ではなく、その時間帯という意味です」(内田さん)
メラトニン
「メラトニンは眠りを誘う作用があり、睡眠を安定させる役割を果たすホルモンですが、夜中の2時から3時ごろをピークに分泌されます」(内田さん)
コルチゾール
「コルチゾールはストレスホルモンで、敵がやってきたときにそれに構えるような体内の状態を作ります。つまり、活動に適したホルモンですが、これは、明け方から午前中にかけて多く分泌されます」(内田さん)
これらを見ると、夜11時ごろに寝て朝6時ごろに起きることは、自然な体のリズムにマッチしていることが分かる。
「今回の実験の7時間睡眠はまさに夜11時~朝6時に行いました。一方、3.5時間睡眠は夜中の2時半に寝て6時に起きるというものでした。つまり、前半を断眠したということ。私たちが眠りにつくと、まずノンレム睡眠(深い眠り)が現れ、次にレム睡眠(浅い眠り)が現れます。夜中に寝ると、レム睡眠がピークになる明け方にノンレム睡眠が現れてしまうため、ノンレム睡眠が圧迫されて眠りの質が低下してしまいます」(内田さん)
睡眠時間に適した時間帯に眠らないことは、自然な体のリズムに逆らうことだ。それが、体に悪影響を与えることは想像に難くない。
近年、予防のジャンルではこの体のリズムに注目が集まっている。食事の場合、同じ食事内容でも、夜遅く食べると太りやすくなることが分かっている。(第10回「『そんなに食べていないのにやせない』人が、まずやるべきこと」参照)。睡眠も同様だ。短時間睡眠を含め、睡眠に適した時間に眠らないと太りやすくなるというわけだ。
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