仕事や家事に追われて十分な睡眠時間が確保できない……。寝付きが悪い、途中で目覚めるなどで寝た気がしない……。こんな悩みを持つ人は多いだろう。睡眠不足が積み重なる「睡眠負債」の怖さに注目が集まっているが、そうした状態になると、集中力が低下したり、疲れやすくなったりするだけでなく、様々な体への影響があるという。その一つが、肥満のリスクが高まることだ。早稲田大学と花王の研究により、そのメカニズムが分かった。研究を行った早稲田大学名誉教授の内田直さんらに話を聞いた。
睡眠時間が短いと活動時間は長いのに太りやすい
体重の増減は、エネルギーの摂取と消費のバランスが崩れたときに起こる。そして、睡眠時は活動量が少ない分エネルギー消費量が少なく、起きているときは活動量が多い分エネルギー消費量が多い。つまり、以下のように考えるのが自然なように思う。
睡眠時間が短い → 活動時間が長い → エネルギー消費量が多い → やせる
睡眠時間が長い → 活動時間が短い → エネルギー消費量が少ない → 太る
しかし、平均睡眠時間とBMI(*1)の関係を調べた研究によると、睡眠時間が7~8時間の場合が最も肥満が少なく、それより短くても長くても肥満が増えるという(*2)。先ほどの考えに基づくと、睡眠時間が短いのに肥満になることの説明がつかない。
そこで、「短時間睡眠がなぜ肥満につながるのかを、エネルギー代謝の面から解明しようと考えました。それが、この研究の始まりです」(内田さん)
内田さんらが健康な若い男性9人で、以下2つの睡眠パターンを比較したところ(*3)、いろいろなことが分かったという。
- 3日間の3.5時間睡眠+1日のリカバリー睡眠(7時間)
- 3日間の7時間睡眠+1日のリカバリー睡眠(7時間)
これから紹介するグラフは、3日目の夜7時から翌日のリカバリー睡眠後(5日目)の夜7時までの48時間の、エネルギー消費量、深部体温(直腸温)、空腹感(アンケートによる主観的な評価)について、2つの睡眠パターンを比較したものだ。一つひとつについて、解説していこう。まずは、睡眠時間の短縮と「エネルギー消費量」の関係を示したグラフ(図1)だ。
「エネルギー消費量はどちらも寝ている間は下がりました。つまり、夜間は3.5時間睡眠のほうが起きている時間が長いためエネルギー消費量は多くなりました。しかし、日中は3.5時間睡眠のほうがエネルギー消費量がわずかながら少ない状態が続いたため、48時間トータルでは両者に大きな差は出ませんでした」(花王ヘルスケア食品研究所の日比壮信さん)
この研究では、メタボリックチャンバー(部屋型の代謝測定装置)という装置を使い(第3回「『連続して運動する』より『細切れに立ち歩く』方が脂肪は燃える!」参照)、エネルギー消費量だけでなく、糖質、脂質、たんぱく質がどれだけ利用されたかも測定している。その結果、脂質の利用量にも差は出なかったという。
*2 Taheri S, et al.PLoS Med. 2004;1(3):e62.
*3 対象者:若い健康な男性9人(平均年齢23.2歳、平均BMI22.2)/試験方法:ダブルブラインド・クロスオーバー試験/測定装置:メタボリックチャンバー(部屋型の代謝測定装置)、脳波測定計、直腸温度計/試験条件:決まった食事の生活をする中で、2週間の休止期間を挟んで、以下のAかBの試験条件をランダムな順番で実施。3日間の睡眠と翌日のリカバリー睡眠を含む48時間、代謝への影響をメタボリックチャンバーで測定。
[試験条件A]3日間の3.5時間睡眠+1日のリカバリー睡眠(7時間)
[試験条件B]3日間の7時間睡眠+1日のリカバリー睡眠(7時間)
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