ところで、この実験では、短時間睡眠の翌日は空腹感(食欲)が強まっていたが、1日リカバリー睡眠をとった後は元に戻っていた。この結果を見て、「平日に睡眠不足が続いても、土日によく寝れば大丈夫なんじゃないか?」と思った人もいるかもしれない。
しかし、「この実験の被験者は20代の若者です。彼らは若いのでリカバリー能力が高かったということが十分考えられます。中高年で実験したら、食欲が元に戻るのにもっと時間がかかったかもしれません。短時間睡眠の日がたまにあったとしてもそれを毎日続けるようなことはせず、なるべく早く正常な睡眠リズムに戻したほうがいいでしょう」(内田さん)
運動習慣のある人は睡眠の質がいい

もう一つ、気になることがある。年をとると若い頃に比べて寝付きが悪くなったり、眠りが浅くなったり、明け方に目が覚めたりする。つまり、長く寝ていられなくなる。そういう人はどうしたらいいのだろうか。
「運動と睡眠には深い関係があります。日中の運動量が増えると深い睡眠が増え、寝付きがよくなり、中途覚醒が減るといわれています。また、運動習慣がある人は運動習慣のない人に比べて睡眠の質がいいことも分かっています」(内田さん)
運動は睡眠の質を改善するだけでなく、体に様々な変化をもたらしているだろうと内田さんは言う。
「眠れなくて病院を受診すると睡眠薬が投与されます。飲むと夜眠れるようになりますが、少し日中眠くなったり、だるくなったりして運動量が減ります。日中の運動量が減ると夜間の睡眠の質が低下します。すると、さらに睡眠薬が出ます。このループは、実際の臨床の中では結構起こっています。しかし、私は睡眠だけを見るのではなく、運動や食事などを含めた生活習慣の改善を含めて睡眠の質を上げていくことが大切ではないかと思っています」(内田さん)
“ロバストな体”は規則正しい生活から
私たちの体は加齢により「調整力」が低下する。それが、肥満や睡眠をはじめとする体全体の健康に影響を与えていると内田さん。
「何かあってもすぐに回復できる体を“ロバストな体”といいます。これは頑丈とか壮健な体という意味ですが、ロバストな体をつくるには、食事、運動、睡眠をバラバラに考えるのではなく、複合的に考えることが大切です」(内田さん)
そのために、最も簡単なのは「体の自然なリズムに合わせて生活する」ことだと内田さんは言う。現代人は体内時計が乱れている人が多いと聞いたことはないだろうか。体内時計の乱れを調節するのに一番いいのは睡眠リズムを整えることだという。やせたい人は、まず睡眠を見直すという「スモールチェンジ」をしてみてはいかがだろうか。
早稲田大学名誉教授、すなおクリニック院長

花王 開発研究第2セクター ヘルスケア食品研究所 主任研究員
