現代人は健康意識が高い人が多い。「あまり運動をしないから食べる量を減らしている」「夜はお酒を飲むからご飯は食べない」。こんな話をよく耳にする。しかし、こういった「食べない努力」が、かえって肥満やメタボ、不健康を招いていることをご存じだろうか。内臓脂肪がつきにくい食事の仕方に詳しい管理栄養士の小島美和子さんらにしっかり食べつつ代謝を上げる方法について話を聞いた。
そんなに食べていないのに肥満なワケ
いきなりですが、クイズです。日本人の1日の総摂取エネルギーは、1975年(昭和50年)と2015年(平成27年)では、どちらが多いでしょうか?
答えは、1975年だ。1975年は2226kcal、2015年は1889kcalで、なんと、今のほうが1日の摂取エネルギーは40年前に比べて330kcal以上も少ない(図1)。現在、肥満やメタボリックシンドローム(メタボ)は大きな社会問題となっている。にもかかわらず、40年前より今のほうが摂取エネルギーが少ないと聞いて、「えっ、肥満やメタボの原因は食べ過ぎじゃなかったの?」と驚く人は多いだろう。
「現代人に肥満やメタボが多いのは、確かに、摂取エネルギーが消費エネルギーよりも多いからです。しかし、平均では昔より摂取エネルギーは減っています。それなのに肥満やメタボが多い一因は、消費エネルギーも減っているからだと考えられます。消費エネルギーが減ると、食べ過ぎなくても太りやすくなるのです。『消費エネルギー』には、体を動かすことによる消費と、じっとしていても摂取した栄養や体脂肪を燃焼して熱に変える『代謝』による消費があり、現代人はどちらも小さくなっているようです。最近の研究では、食事の時間が不規則になったり、食事のバランスが悪くなるだけでも消費エネルギーは減少することが分かっています」(管理栄養士の小島美和子さん)
私たちの体は、摂取エネルギーと消費エネルギーが同量であれば、体重は変わらない。摂取が消費を上回ると体重は増え、消費が摂取を上回ると体重は減る。その意味で、消費エネルギーが減ると、その分太りやすくなるということは、誰もが理解できるだろう。
だが、問題はそれだけではない。消費エネルギーが減ると、食べる量を減らすことでエネルギー収支のバランスをとろうとしがちであり、そのこと自体が太りやすい体をつくるうえで大きな問題だと小島さんは指摘する。「食べ過ぎている人が食べる量を適正量に減らすのは健康的なダイエットですが、もともと食べ過ぎではない人が食べる量を減らすと、代謝が悪くなってしまうのです」(小島さん)
もともと食べ過ぎていない人が摂取エネルギーを減らすと、エネルギーだけでなく必要な栄養素の摂取量も減ってしまう。すると、体は代謝を落として対応するのだという。「少ないエネルギーで生きていける、いわゆる“省エネ”な体になります。こうなると、一時的に体重が落ちたとしても、代謝が落ちているので、ちょっと食べるだけでリバウンドしてしまいます。また、食べる量が減って栄養素の摂取量が減ると筋肉も減るので、それも代謝を落とす原因になります」(小島さん)
さらに、必要な栄養素がとれていないと、体重は減っても「体調が悪い」「検査値がよくならない」という状態に陥りやすいと小島さんは言う。
「摂取エネルギーと消費エネルギーが等しければ体重の変化はありませんが、エネルギー収支のバランスを高いところでとっているのと、低いところでとっているのでは大違い(図2)。高いところでバランスをとっている人は、体調がよく、太りにくい。一方、低いところでバランスをとっている人は体調が悪く、太りやすいということです」(小島さん)
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