「生活の中に、スクワットのような筋トレ的動作を入れたり、ときどきは速く動く。これがおすすめです」
環境の変化への適応力や、病気への抵抗力といった「防御体力」に対して、人間が能動的に動くために必要な体力を「行動体力」というが、これには、筋力、敏しょう性、瞬発力、持久力、平衡感覚、柔軟性などが関わっているという。
「多くの場合、筋力はその他の身体機能と関連しています。つまり、筋肉がしっかり付いて力を発揮できる人はその他の機能も維持されています。いくつになっても動ける体でいるためには、まず、年相応の筋力を維持することが大切です。また、素速い動きによって筋肉と脳のつながりがよくなります」(木村教授)
京都府亀岡市や京都府などが進めている亀岡市の全高齢者を対象にした研究により、運動と介護予防には密接な関係があることが分かってきたと木村教授は言う。
「運動を中心に、口腔ケア、食事を組み合わせた総合プログラムを約500名の対象者に3カ月間行い、その後1年間継続的に支援したところ、それらを行わなかった高齢者と比較して、その後の介護認定率や介護サービス利用額が大幅に下がったのです」(木村教授)
この場合の運動は、今よりも1日当たり2000歩多く歩くことと、自分の体重を利用する簡単な筋トレ(レッグレイズ〔*1〕やスクワット)だったという。
運動は何でもよく、先ほどの「10秒足踏みテスト」や「20秒開閉テスト」をやるのもいいそうだ。「2つとも体力としては敏しょう性を評価するテストです。毎日続けると動きに慣れてきますが、無意識に上手に動かせるようになるということは、筋肉と脳がよくつながったということです。家でテレビを見ているときや仕事の合間に机の下などでやってみてはいかがでしょうか」(柳沢さん)。こうした「スモールチェンジ」が、積み重なると後で大きく効いてくるというわけだ。
メタボが気になる人はロコモにも目を向けて
代謝アップがテーマのこの連載では、主にメタボの予防・改善について解説してきた。メタボ撲滅のためには筋力アップがカギであることは、もう“耳にタコ”だろうが、筋力アップが重要な理由は、体脂肪が燃焼する主な場所が筋肉だから、筋肉を増やすと体脂肪が効率よく燃焼するからだ。
しかし、筋肉を増やすことは、ロコモの改善にもなることを覚えておきたい。
先ほど、「20秒開閉テスト」ができなくなるのは30代後半ごろからが多いと述べたが、これは、男性ではメタボのリスクが高まる年齢と一致している。つまり、メタボが気になるころにはロコモも気にしたほうがいいということだ。
「人間は動物です。動物は文字通り“動く物”であり、体を動かすことが全ての機能を健全に保つための前提となっています。メタボもロコモも運動不足が原因。とにかく体を動かしましょう」(木村教授)
私たちは「脂肪を減らす」ことばかりに目を向けがちだが、そのためにやることは「筋肉を増やすこと」だ。つまり、これらは表裏一体。「同じことなら、脂肪を減らすことを考えるよりも、筋肉を増やすことを考えるほうがポジティブですよね」と木村教授。
前述の亀岡市の調査によると、高齢になっても運動習慣のある人は、若いころから運動習慣がある人が圧倒的に多かったという。今すぐ運動を始めて、高齢になっても動ける体を目指そう。
京都学園大学 健康医療学部 健康スポーツ学科 教授、医学博士

花王 開発研究第2セクター ヘルスケア食品研究所 博士(栄養学)、管理栄養士
