健康診断で腹囲を測定するのは内臓脂肪の蓄積を把握するためだ。正確な測定には腹部X線CT(コンピューター断層撮影)やMRI(核磁気共鳴画像)が必要だが、健康診断では導入できない。そのため、腹囲から内臓脂肪の量を推定しているのだ。ところが、近年、内臓脂肪計が開発され、内臓脂肪の蓄積状態を数値化して保健指導のきっかけに活用する新しい方法が検討されている。これにより内臓脂肪量を「見える化」した人は、そうでない人よりも、明らかに内臓脂肪の減量に成功しているという。この研究に詳しい国立病院機構京都医療センター臨床研究センター予防医学研究室の坂根直樹さんらに話を聞いた。
内臓脂肪がたまると代謝が悪くなる
メタボリックシンドローム、通称「メタボ」は、今や誰もが知っている言葉だ。「おなかが出っ張って太っているおじさん」の代名詞のように使われているが、実はそうではない。
メタボとは内臓脂肪の蓄積に、高血糖、脂質異常、高血圧のうち2つ以上が組み合わさり、動脈硬化を招きやすくなっている状態をいう。「まだ病気ではないけれど、放置すると動脈硬化が進んで、将来糖尿病の合併症や脳卒中、心疾患などが起こりますよ」と警告されている段階といっていい。
さて、内臓脂肪はなぜたまり、たまると何がいけないのだろうか。
「内臓脂肪は食事量と運動量のバランスが悪く、エネルギーの支出よりも収入が多いとたまります。脂肪細胞からは糖代謝や脂質代謝を悪くするホルモンやサイトカインという物質が分泌されています。内臓脂肪が増えると、これらの悪玉物質が増え、逆に、内臓脂肪が減るとこの悪玉物質が減ってきます」(国立病院機構京都医療センター臨床研究センター予防医学研究室の坂根直樹さん)
簡単にいうと、内臓脂肪が蓄積すると、主に代謝が悪くなることがいけないわけだ。
「健診結果に表れている高血糖、脂質異常、高血圧の異常値は氷山の一角で、その下には内臓脂肪の大きな氷の固まりがあると思ってください。薬で数値を改善するのは、見えている部分の氷を削っているようなもので、根本的な改善にはなりません。しかし、内臓脂肪の氷山そのものを小さくすれば、高血圧、高血糖、脂質異常も改善します(図1)」(坂根さん)
メタボの大前提である内臓脂肪面積100平方cmは、腹囲では男性85cm、女性90cmに相当する。女性の数値の方が男性よりも大きいのは、女性は男性に比べて皮下脂肪が多いからだ。
内臓脂肪面積を正確に測るにはCTやMRIが必要だが、これらは経済的な負担が大きく、また、CTの場合は放射線被曝の問題もある。そのため健診では使えない。そこで、内臓脂肪の蓄積を予測する方法として腹囲がメタボリックシンドロームの診断基準の一つになっているのだ。
内臓脂肪は分泌臓器
内臓脂肪とは、胃の下側から腸の前に垂れ下がったエプロンのような薄い腹膜(大網)につくもの、腸管の周りにつくもの、腎臓周囲につくものなど、腹腔内につく脂肪の総称だ。
「腹膜は内臓のすぐそばにあり、内臓とつながる血管がたくさんあるため、脂肪の受け渡しが簡単。余ったらちょっとそこに預けたり、足りなくなったらすぐに取り出して使うことができます。内臓脂肪は『普通預金』、皮下脂肪は『定期預金』とたとえられるのはそのため。内臓脂肪はつきやすいと同時に減らしやすく、皮下脂肪は内臓から遠いため、ためるのも使うのも時間がかかるのです」(坂根さん)
内臓脂肪は、内臓を正しい位置に保ったり、内臓を衝撃から守るクッションのような役割も果たしているため、少な過ぎてもいけないのだという。
内臓脂肪は、ただおなかをポッコリさせているだけではなく、いろいろなホルモンを分泌したり、エネルギーとしての脂肪を貯蔵したりと重要な役割を果たしている。まさに臓器の一つといえるのだ。
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