怒りやすい人は病気になりやすい? 思いに任せた「怒り」は百害あって一利なし
「怒り」の感情をプラスに好転させる方法を身につけよう
山口佐知子=ライター
「怒り」はとても身近で「やっかいな」感情
「『怒り』という感情は、とても身近な感情ですが、扱いがとてもやっかいです。『喜怒哀楽』という感情のうち、扱い方を誤ると最も害のある感情が『怒り』です」
日本アンガーマネジメント協会代表理事の安藤俊介さんはこう説明する。アンガーマネジメントとは「怒りの感情と上手に付き合うためのトレーニング」のこと。怒りというネガティブな感情をうまくコントロールして、感情を癒したりポジティブな方向に持っていけるようにするための手法だ。1970年代にアメリカで開発された手法で、最近では企業で社員教育などに導入されるケースが増えている。

「『悲しみ』や「『怒り』はマイナスの感情で自分自身を苦しめますが、「『怒り』は『悲しみ』と違って、他人を巻き込む『攻撃性』があります。相手を怒鳴ったり、子どもに当たったりするといった、他人を攻撃する行動に出やすいのです。駅員などへの暴力が問題になっているように、場合によっては犯罪に到るケースもあります。それなのに、多くの人は自分の怒りについてよく分かっていません。「『怒り』の感情をコントロールせず、人とぶつかったりしていては、仕事にも支障がでます」
「重要なのは、怒らないことではありません。私自身もそうですが、ささいなことでつい怒りを感じてしまいます。怒りは感じてもいいのです。『怒らなくてもいいことは怒らない』『怒る場合も表現方法や場所を選ぶ』といった怒りのマネジメントが必要なのです。最近では、怒りっぽい人は脳卒中などのリスクが高くなるといった研究結果(次ページ参照)も出ていますから、健康面でも怒りのコントロールは大切といえるでしょう」(安藤さん)
現代人が怒りやすくなっている背景とは?
多くの人は、できれば「怒りたくない」と思っていると思う。しかし、前ページで触れたように、現代社会はストレスの種がいっぱいある。ささいなことから「怒り」が発生しやすい環境にあるのだ。安藤さんも、「現代社会は、イライラしやすい環境にあるのは確かでしょう。そうなっている要因には大きく3つあります」と話す。
「忙しさ」が増している
現代人が「忙しくなっている」ことが、怒りが発生しやすい要因となっている。少子高齢化で人材難の今の時代、職場では少ない人数で多くの仕事をこなす生産性が求められている。「人は減っているのに、仕事は減るどころか増えている」などという職場も珍しくないのではないだろうか。そして、「仕事」だけでなく、子育てや介護もこなさなければならない、となると休まる暇がない。こうした背景による「忙しさ」は、怒りを生みやすい。
利便性の進化
「便利さが進んでいくと、人はイライラしやすくなります。便利だからこそイライラするのです」(安藤さん)。確かに、現代社会は、スマホに代表されるように、さまざまな分野で便利な世の中になり、「効率よくできて当たり前」の時代になった。そんな環境だからこそ、当たり前にできることが、なんらかの事情によりできなくなると「なぜ、そんなこともできないのか」と怒りを感じるようになる。
今ほど便利ではなかった時代と比べてみると理解しやすい。「もしも、待ち合わせをするとき、携帯電話を使えなかったら?」「もしも、銀行の営業時間外にお金の入出金をしたいとき、コンビニエンスストアにATM機能がなかったら?」というように、むしろ便利になった後のほうが、それらがないと不都合を痛感してイライラしやすくなるわけだ。
価値観の多様化
「自分が信じていることを裏切られたとき、私達は怒りを感じます。『こうあるべき』と信じてきた価値観が覆されると、それを受け入れることができずに、怒りを感じてしまうのです。現代社会の価値観の多様化も怒りを生みやすい背景の一つです」(安藤さん)
例えば、ビジネスパーソンの場合、ひと昔前までは、「会社の飲み会は、特別な用事がない限り出席するもの」「上司がいるうちは帰るべきではない」「一度、就職したら、定年まで同じ会社で勤め上げるもの」といった一律の価値観を多くの人が共有していた。
ところが、最近は個人的な価値観を主張する自由さがあり、昔のスタンダードを押しつけられる機会も少なくなった。時代の変化にともない価値観が多様化していくことは悪いことではないが、それらに対応できない人ほどイライラがつのり、小さなことでも「怒り」として爆発しやすくなる傾向がある。