がん治療中の妻が日常生活において夫に知ってほしいこと
卵巣がんサバイバーが提案する がんになった妻の支え方(3)
太田由紀子=産業カウンセラー/フリーライター
今や、日本人の約半分が何らかのがんにかかる時代。たとえ自分が免れても、パートナーががんにかかる可能性はあります。もしそれが現実になったら、自分はどう行動すればいいのか。小、中学生の2人の子どもの母であり、産業カウンセラーとして活躍する中、卵巣がんに罹患し治療を受けたがんサバイバー、太田由紀子さんが、自身の体験を基に「妻ががんになった時、夫ができること」についてお伝えします。
今回は「治療中の日常生活」についてのお話。太田さんによると、治療中の生活では、家族との関わり方で心の在り方も大きく変わるそうで、家族にしかできないメンタルヘルスケアもあるとのこと。それは、一体どんなことなのでしょうか。
家族にしかできないメンタルヘルスケアとは
前回は、抗がん剤治療の副作用との付き合い方について紹介しましたが、治療中の日常生活は、家族との関わりで心の在り方が大きく変わることがあります。家族にしかできないメンタルヘルスケアをご提案します。
だらしないのは家族の前だけ!優しい目で見てあげてください
夫のあなたは、毎日満員電車で通勤し、会社や取引先で時折嫌な思いをするなど、世間の荒波の中で闘い、疲れ果てて帰宅することと思います。そんなとき、家の中が散らかり放題、洗濯も掃除も食事の支度もせず、ソファでごろごろしている妻を見ると、イラッとするかもしれません。
でも妻は、今は病気という広く深い海原に放り出されて途方に暮れています。それも、がんという爆弾を抱え、手術や治療の身体的痛みや副作用だけでなく、がんへの偏見や身体的変化に対する悲しみ、今後の不安も持ったまま…。それでも子供の学校行事があるときは、元気なふりをしてウィッグを着け、外出せねばなりません。
だらしないのも、家族の前だけ。少しの間、優しい目で見てあげてください。いつか治療は終わり体調も戻るので、また前みたいに笑える日が来ます。根気よく付き合ってください。逆の立場になった時、必ず妻はあなたを支えてくれるはずです。
家族みんなで協力して支えてください
私は、抗がん剤治療の副作用(詳しくは第2回をご覧ください)で、思ったように家事ができずに何度ももどかしい思いをしました。基本的にずっと倦怠感があるので、思ったようにできないことが多いのですが、時々元気なつもりで食器洗いをすると、手指のしびれでコップを落として割ってしまったり、洗濯物を干そうとして、足のしびれで転びそうになったこともありました。
できれば夫がイニシアチブを取り、病気の妻を助けるために、家族のみんなで協力して家事をやってください。
夜間、急な診察で夫婦で病院に行ったことがありました。深夜に帰宅すると、中学生の娘が卵のおじやを作って待っていてくれました。夕飯を取っていない私と夫のために作ってくれたのです。普段料理なんてしないので、自信なさそうに「おいしくないかもしれないけど…」と言った娘のはにかんだ顔を覚えています。何度も温め直したようで、汁っ気がなく固まってごつごつしたおじやでしたが、とても優しい味で、心が温かくなりました。忘れられない思い出の一つです。
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