がん治療中の妻が日常生活において夫に知ってほしいこと
卵巣がんサバイバーが提案する がんになった妻の支え方(3)
太田由紀子=産業カウンセラー/フリーライター
社会との関わりを取り戻すために
治療が終了し経過観察期間に入ると、妻も夫もやっとがんの心配から解放されると思いますが、社会復帰するためには、いくつか覚悟しておいた方がいいハードルがあります。
がんはもう治ったの?大丈夫なの?と必ず聞かれます
治療が終わった妻は、まだウィッグ装着で眉毛やまつ毛もありませんが、張り切ってお化粧して出かけます。だって、治療が終わったんです。嬉しくてたまりません。私もこれまで会えなかった人に連絡を取って、会いに行きました。そして必ず言われて困惑したのが、この言葉「もう治ったの?大丈夫?」でした。
がんは他の病気とは違い、治療を終えても再発や転移する場合があります。発生する部位や進行度合いで違いますが、進行がんの場合は、おそらく再発の心配はずっと続きます。
病気の治療が終わったからもう大丈夫なのだろうと当たり前のように聞く人が多いので、心配してくれているのを安心させたくて「うん、もう大丈夫」と答え、でも心の中では「たぶん」とか「だといいんだけど…」とつぶやいていました。中には「もう完治したの?」と聞く人もいて、この質問には「がんは完治したとはなかなか言えないの」と言いましたが、不服そうでした。聞く人も安心したいんだなと思いました。
がんになった人をどう扱ったらいいのか、困る人もまだまだ多いのでしょう。こんなにがんに罹患する人が多くなっているのだから、もう少しがんについて、みんなが正しい情報を共有できたら患者も気持ちが楽になるのにと思わずにいられません。
張り切って出かけたはいいものの、心身ともに疲れて帰宅した妻の愚痴を聞いてあげてください。夫はがんについて妻と同じ気持ちでいるはずです。治ったかと聞かれるたびに再発への不安が大きくなる妻の思いも、一緒に背負ってあげてほしいと思います。
驚きの空虚感、治療ロス!
治療が終了し経過観察になり、常用していた薬も徐々に減っていき、外出の機会も増えて、次第に病気になる前の生活を取り戻していきますが、数カ月後、私は不思議な感覚になりました。大きな空虚感に襲われたのです。体調はまだまだだけど、これから明るい未来が思い描けると思った頃だったので、驚きました。しかし、思い当たるところもありました。
それは、治療ロス! …そう、目標を失っていたのです。がんになり、治療を終えることだけを考えて走り続けた10カ月間でした。その目標がなくなり、ぽっかりと空虚なものを感じていました。就活を終えた新入社員の五月病が近い感覚かもしれません。
このロスには少し危険を感じました。この空虚感に、社会復帰への不安やがん再発への不安が重なると、かなりメンタルが落ち込み、心身ともに疲弊する気がしました。私は、不安や悲しい気持ちが湧いてきたら、口にして思いを吐き出しましたが、もし妻が心配や泣き言を言い出したら寄り添って聞いてあげてください。
「もう治療は終わったのに心配ばかりするな」と突き放さずに、ゆっくりと妻が社会復帰できるよう、導いてあげてください。
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