がん治療中の妻が日常生活において夫に知ってほしいこと
卵巣がんサバイバーが提案する がんになった妻の支え方(3)
太田由紀子=産業カウンセラー/フリーライター
喜怒哀楽は一緒に味わって
治療が進むと、毎月の副作用の出方や体調の波が大体予想できるようになってきます。治療直後の痛みや倦怠感がひどい時期、骨髄抑制(※1)で外出禁止の期間(詳しくは第2回をご覧ください)以外は、元気に過ごせる時間も結構増えてきます。

病人のメンタルは不思議なもので、いつもは病気を認めていたわってほしいのですが、私の場合、時に病人扱いされたくないこともありました。これは体調と感情のバランスで交互に起きるので、妻の状態を見守り分かってあげてください。
元気に過ごせる時期、家族と一緒に出かけて買い物をしたり、食事をしたりするのは、ほんのひと時、がんになる前の自分に戻れたようでとても嬉しい時間です。そんな時は、一緒に楽しんでください。家族が自分と一緒に楽しんでいるのを見ると、自分も家族の一員なのだという連帯感を実感でき、心が安定するからです。
がんになったことで、社会からの疎外感を覚えている人も多いと思うので、せめて家族の中に安心できる居場所を作ってあげてください。できれば、悲しい時や怒っている時も、エキサイトし過ぎないように気を付けながら、その気持ちを共有してください。
親や親族に言う?言わない?
がんの伝え方は妻の気持ちを尊重して
がんのステージや病状を、親や子ども、親族にどう伝えるかは家庭環境や本人の気の持ちようでずいぶん違います。がんになったことを、本人が受け止められない状態だと親や親族に話すのはとてもエネルギーが必要です。もし、妻が言いたくないと言う時は、その気持ちを尊重してあげてください。
罹患してみないと分からないことですが、がんのステージは決まるまでにはいくつか段階があります。私の場合は、がんかもしれない不確定な時期が約1カ月あり、手術で悪性だと分かった後、さらに1カ月後の病理検査で正確にステージが確定しました。
刻々と変わる状況は、当事者と当事者家族にしか分からないので、「最初に言ったことは嘘だったの?」と親に疑われたり、「そんなに話がころころ変わる医師を信用していいの?」と親と押し問答になることがありました。心配をかけたくない親に、そんな風に言われたことが悲しくて、病気のショックを抱えながら、一人で泣いていたことを思い出します。このように検査を重ねるごとに状態が刻々と変わりますので、焦ってすぐに話さなくても、話す機会は何度もあるはずです。
ちなみに、私のがん友(がんの友達)の中には、子どもに隠し続けた方がいました。彼女は、抗がん剤治療の副作用で脱毛した時も、具合が悪い時も、子どもには隠し通しました。治療から5年経った今も話していない彼女を見ると、それもありかなと思います。ただ、その辛さを家族で分け合ったら、もっと楽だったのではとも思います。
このように人によって判断の分かれる家族や親族への告知。どれが正解ということはありませんが、時間の経過とともに本人の気持ちに余裕ができたり、家族の環境が変わって話すタイミングが生まれることもあるので、少なくとも告知を受けたらすぐに話さないといけない、いや隠した方がいいなど早急に判断しなくてもいいと思います。いつもは味方になってくれる親や親族も、患者のメンタルには配慮することなく独自の価値観で助言をしてきます。一番近くにいる夫は、妻の思いを尊重し代弁してあげてください。そのようなことで悩むのも、患者には大きなストレスになると思います。
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