日経グッデイ

長寿の秘訣! 知られざる緑茶の健康パワー

お茶は「ストレス」「不眠」にも効果あり! 緑茶パワーをフルに活かす“いれ方”とは?

第2回 今、注目の健康成分 「テアニン」の効果 ~大妻女子大学名誉教授 大森正司さんに聞く(後編)

 柳本操=ライター

日本の伝統的飲み物である“お茶”(緑茶)。国内ではお茶離れが徐々に進む一方で、緑茶の健康効果についての研究が国内外で進行しており、緑茶に秘められた健康パワーが次々と明らかになっている。日経グッデイでは、最新の「緑茶の健康効果」を専門家の方々に話を聞いた。今回は、前回に引き続き“お茶博士”、大妻女子大学名誉教授の大森正司さんに、注目の緑茶成分「テアニン」の効果と、お茶パワーをフルに活かすためのいれ方、飲み方を伺っていく。

緑茶にはリラックスや緊張感を和らげる効果がある。そのカギとなる成分が「テアニン」だ(©Cseh Ioan -123rf)

 前回は、緑茶パワーの働き、なかでも「カテキン」の働きについて、大森さんに解説していただいた。カテキンは、ダイエットや抗酸化作用から抗菌、抗ウイルス効果まで多彩な健康パワーを持つ。その一方で、もう一つ忘れてはならないのが、うまみ成分「テアニン」だ。

 このテアニン、緑茶に含まれるうまみ成分のアミノ酸の一種で、ここ1、2年で頻繁に取り上げられるようになった“今注目”の成分だ。テアニンにはリラックス作用があり、ストレス緩和や睡眠の質を改善する効果なども期待できるという。昨年4月にスタートした「機能性表示食品」制度では、テアニン入りの食品が複数登場し脚光を浴びている。例えば、「緊張感を軽減するサプリ」「健やかな眠りをサポートするむぎ茶」などが登場している。この注目の成分テアニンについて、大森正司さんに詳しく聞いていこう。

お茶を飲むとα波が出る! その秘密がテアニン

緑茶のうまみ成分「テアニン」には、優れたリラックス作用があるようですね。そもそも、テアニンとはどういった成分なのでしょうか。

大森さん テアニンは、緑茶に含まれるアミノ酸の一種で、緑茶のアミノ酸の半分以上を占めています。緑茶には他にも、グルタミン酸やアスパラギン酸、アルギニンなどのアミノ酸が含まれていますが、最も多く4割以上を占めるのがテアニンです。テアニンは茶の根で合成され、それが葉にたまり、日光を浴びるとカテキンに変化します。

緑茶に含まれる注目の成分「テアニン」の構造。テアニンはアミノ酸の一種

 テアニンには、リラックス効果があるということで、今、その働きが注目されています。テアニン入りの水溶液を摂取後、40分くらいすると脳波にアルファ波(α波)が出るという研究結果があります。α波は脳内の大脳辺縁系が香りなどの刺激を受けたときに出る脳波で、α波が出ると、人はリラックスした気分になります。

 さらに摂取後、40分後くらいまで副交感神経の活性度が増すことも明らかになっています。緊張・ストレス状態のときに働く交感神経に対し、副交感神経はリラックスしているときに働く神経系です。テアニンを摂取することでリラックスできるわけです。

 緑茶を飲んで「ホッと一息」というシーンはテレビドラマの風景にもよく登場しますが、まさに心も脳もほっこりさせてくれるのがお茶なのですね。

 テアニンにより、ストレスの緩和などの効果も期待できます。静岡大学が2012年に行った研究では、物理的、あるいは精神的ストレスに対してテアニンが抑制作用を発揮する、という結果が報告されています(J Physiol Anthropol.;31,28,2012)。この研究では、14名の男女学生が、テアニン200mg、偽薬(プラセボ)、カフェイン100mgのいずれかを経口摂取しました。その後、心理的ストレスを与えたり、氷水に手を漬けるなどのストレスを与えたところ、テアニンを摂取した場合、緊張やうつ、敵意や疲労などのスコアが最も抑えられたという結果になっています。

テアニンには、ストレスの緩和などの効果が期待できる
テアニンを摂取した場合、緊張やうつ、敵意や疲労などが抑えられた。縦軸は、気分・感情を表す指標(POMSスコア)で、低いほど緊張などが抑えられたことを示す(J Physiol Anthropol.;31,28,2012)

 さらには、睡眠の質を改善する効果も期待できるという報告もあります(日本生理人類学会誌,9(4),143-150,2004)。また、動物実験では、テアニンが脳神経細胞の障害を軽減し、神経細胞を保護することもわかっています。

 緑茶にはカフェインも含まれており、覚醒効果がありますが、テアニンには興奮を適度に抑える働きがあるため、カフェインによる興奮が穏やかな作用にとどまります。

テアニンは玉露、抹茶に多い

湯のみ1杯(80cc)に含まれるテアニンの量
※太陽化学調べ

なるほど、お茶を飲むとリラックスできることには、科学的な裏付けがあるのですね。テアニンは緑茶にどのくらい含まれているのですか。お茶の種類によっても違うのでしょうか。

大森さん テアニンは、一番茶で初期の若い芽に最も多く含まれています。玉露のように日光を遮断して栽培すると、アミノ酸からカテキンに変化するのを抑えられるので、茶葉にテアニンがたっぷり含まれたままになります。このため、新茶や玉露は、うまみ成分が多くなります。また、抹茶にもテアニンが多く含まれています。

低温で抽出すれば、テアニンのうまみが強く感じられる

大森さん 今日は、ここにテアニンがたっぷり抽出されているお茶を用意しました。飲んでみてください。

まったく苦みがなく、甘いですね!

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テアニンをたっぷり抽出する「氷水出し茶」。水80~100cc(氷を除く)に対して茶葉10gを急須に入れ、10分待って湯飲みに注ぐ。カフェインはほんのわずかしか抽出されない

大森さん これは、急須に茶葉を入れ、氷水を加えて10分抽出したものです。テアニンをしっかりとりたい場合は、“氷水出し茶”にすると、渋み成分であるカテキンが少ないために、テアニンによるうまみがより強く感じられます。お湯でいれるより、1.5倍ほどうまみが増すのです。氷水出し茶の場合は、お湯でいれたお茶と違ってカフェインはほんのわずかしか抽出されないので、夜寝る前でも安心して飲むことができます。一方、カテキンやカフェインが多く抽出された渋いお茶にしたい場合は、温度の高いお湯で抽出するといいわけです。

緑茶でカフェインの摂り過ぎは気にしなくていい?

緑茶にはカフェインが含まれています。カフェインというと「飲み過ぎると悪影響があるのでは」と少し気になります。飲み過ぎを心配する必要はないのでしょうか?

大森さん 煎茶の場合、100g当たりのカフェインの量は20mg程度で、コーヒーの3分の1程度です。湯飲み1杯80ccとすると、そこに含まれるカフェインは16mg程度となります。欧州食品安全機関(EFSA)が2015年に発表したカフェインの安全性に関する科学的意見書では、1日の上限量を400mgとしていますから、25杯以上飲まないと飲み過ぎにはならないのです。もちろんカフェインの摂取量には気を付けた方がいいのですが、一般的な飲み方なら心配する必要はないでしょう。

 気を付けた方がいいのは、カフェインの影響が心配される妊婦さんの場合です。妊婦の場合は1日あたりの許容量は200mg以下とされています。これを80ccの湯飲みで換算すると、12杯程度までなら許容範囲なわけで、日常でお茶を飲む量でオーバーすることはないと考えます。通常飲む量であれば安心して、お茶を飲んでいただけます。

緑茶、および主な飲料に含まれるカフェイン量
緑茶やその他飲料100g当たりに含まれるカフェイン含有量。煎茶に含まれるカフェインはコーヒーの3分の1程度。玉露はカフェインを多く含んでいる(出典は日本食品標準成分表2010。*を付けたものはPublic Health Nutr,13(5),663-72,2010より。エナジードリンク、コーラは商品によりカフェイン量は異なる)

 ただし、実は玉露には多くのカフェインが含まれています。100g当たり、160mgとコーヒーより多くのカフェインを含んでいます。高価な玉露をガブ飲みすることはないと思いますが、飲み過ぎには気を付けた方がいいでしょう。

温度を上げれば渋くなり、ぬるくすれば甘味が増す

大森先生は、大妻女子大学「お茶大学」の校長も務めていらっしゃいます。おいしいお茶のいれ方も教えていただけませんか。

大森さん おいしい緑茶のいれ方の基本は、「2~5gの茶葉に、お湯は100~150cc。湯温は40~80度、蒸らし時間は1~3分」です。これを基本に、好みで微調整していくといい。温度を上げれば苦味や渋みが増し、ぬるくいれれば甘味が増します。あまり緑茶を飲みつけていない人は、これら数値の一番低いところをとって、2gの茶葉に、多めのお湯150cc、温度は低めの40度、蒸らし時間は1分でまずは楽しんでみてください。

 重要なのは水です。お湯は必ず一度沸騰させましょう。そして、沸騰させた後に、目的の温度まで冷まします。水は、硬水だと薄くなり、軟水だと濃く出るので、硬水の場合は浸出時間を長めにします。

お茶の味わいは後天的に学習されるもの

大森さん 私などは毎日緑茶を飲んでいるので、もっとガツンとした味わいでないと物足りないと感じるんです。ですから、これとは逆に、5gの茶葉に100ccの湯、湯温は80度、蒸らしは3分で抽出します。

大森正司さん。大妻女子大学名誉教授。昭和17年、宮城県出身。東京農業大学大学院農芸化学専攻博士課程修了。大妻女子大学教授を経て、現在同大学名誉教授。大妻女子大学「お茶大学」校長。農学博士。お茶博士としてメディアでもわかりやすく日本茶の健康効果を伝える。著書に『茶の科学』(朝倉書店)、『おいしいお茶の教科書』(PHP研究所)などがある。

 大学に入学してきた学生には必ず緑茶をいれてもらいます。すると、最初のうちは白湯のような薄いお茶をいれます。私がいれたお茶は『渋くて嫌だ』というのです。でも、学生に「毎日、煎茶、玉露、など二種類以上のお茶をいれて飲み比べて、茶葉の種類を当てる」という課題を与えると、1カ月ほどで正しく当てられるようになります。おいしいお茶もいれられるようになります。

 実はネズミでも実験をしてみたことがあります。水分として緑茶を与えると、ネズミは「なんだよ」と見向きもせず、えさも食べなくなり体重も落ちます。それでも与え続けると、お茶を飲むようになり、えさも食べるようになって、痩せた体も回復していきます。そうやって飼育しておき、あるとき水と緑茶を同時に出すと、なんとお茶を選んで飲むのです。つまり、お茶のおいしさは学習することにより、後天的に覚えるものだということです。

そうなんですね。確かに、お茶のおいしさをしみじみ感じるのは、ある一定の年齢を超えてからのように感じます。

大森さん ですから、子どもの世代にもどんどん緑茶を飲んでほしいと思います。幼いうちは、甘いものは無条件でおいしいと感じるのですが、苦みや渋みは危険のアラームだと本能的に感じるので、「まずい」と言います。しかし、飲み続けることによっておいしさを理解、獲得していきます。魚のわたやビールの苦み、赤ワインの渋みも後天的に学習するものですよね。

お茶と言えば、農薬のことも気になるのですが。

大森さん 国内で生産される農産物は、残留農薬基準と農薬登録保留基準という2つの基準によって、安全性の確保がなされています。飲んでおいしいと感じられるようなお茶の樹は虫の標的にもなりやすいので、農薬を散布することによって病虫害を避けます。

 煎茶のうち、一番茶と呼ばれる新茶は基本的に農薬は使われていません。その年の最初に生育した新芽を摘み採って作られるお茶で、収穫時期は八十八夜と言われる5月上旬(2016年は5月1日)になります。それまでは気温も低く、虫が出ないため農薬を散布する必要がないのです。農薬を使うのは基本的に二番茶以降になります。このときも、農薬散布の量と方法は、他の作物同様、法律によって規定されています。散布された農薬は、防除という役割を果たしたあと、日光による光分解や酸素、水との化学反応による分解、風雨による洗い流し、作物の代謝による分解を受けます。残留性は非常に少ない、と理解いただいていいでしょう。行政機関による無作為抽出、農薬分析調査も行われています。

世界各国にお茶の木のルーツ探しの旅へ

先生は、最初は農薬の研究者だったそうですね。どうしてお茶の研究に携われるようになったのですか?

大森さん そうなんです。私は低毒性のアミノ酸農薬の開発を行い、それで学位を取得しました。ところが恩師である小幡弥太郎先生が、あるとき摘んだばかりの日本茶の葉をボストンバッグいっぱいに持ってきて『これで紅茶を作れ』と、私に指示したのです。正直、嫌でしたが偉大な先生の言うことには逆らえず、本を調べながらやってみました。ところが一週間後には貴重な茶葉をカビだらけにしてしまったのです。

 『おまえ、何をやっているんだ』と先生に叱られ、静岡の茶業試験場を訪ねて教えを請うことにしました。そこで、大変親切に教えていただき、何度も通ううちに、私はすっかりお茶のとりこになってしまい、その後50年が経ってしまったというわけです。最初のうちは、お茶の色や味の成分の化学的分析を行っていましたが、その後、薬理効果を調べるようになりました。血圧試験を行うと非常にいい結果が出ました。その結果を報告する国際会議が日本で開催されたのが1991年。新聞で大きく取りあげられたことによって、緑茶の研究に弾みがついたのです。

現在は、どういった研究をされているのですか?

大森さん 近年は、海外によく出かけています。お茶の生産地である中国とミャンマーの2国に出かけた回数は20回に及びます。日本茶はその昔、中国から持ち込まれたのが始まりとされていますが、果たして本当に日本には自生していなかったのか、そのお茶のルーツを調べることがここ数年の渡航目的となっています。

 具体的には、日本茶と海外の茶葉の遺伝子を照らし合わせています。中国から緑茶がもたらされたのであれば、日本茶の葉は全て中国の茶葉の遺伝子を持っているはず。しかしそこにもし、中国の葉にはない遺伝子があれば、日本茶が自生していたという可能性が生まれます。お茶がもたらされたのが中国だけでなく、タイやベトナム、ミャンマーである可能性もあるため、各国に足を運んでは、樹齢1000年以上の“マザーツリー”といわれる木の葉っぱを持ち帰って調べているのです。

先生が自ら足を運ばれているのですか。

大森さん もちろんです。たとえば中国の雲南省の山奥などには樹齢1000年以上の茶の木が60本以上あるといわれます。しかしまだ10本ほどしか調べ終わっていません。車も入らない道を少数民族に案内され、道中では地面や空中から血を吸いにやってくるヒルと格闘し、夜は民泊です。料理はおいしいのですが、寝るところは虫だらけです。トイレは、豚さんが口をあけて下で待っているような場所になっており、なかなか過酷なものがあります。

 ミャンマーなどでは、ガスも電気もないところも多くあります。食べ物の保存方法は3種類。いろり(囲炉裏)に載せて乾燥する、煙突の煙を当てて燻製にする。あとは、竹に詰め込んで酸素を遮断して発酵させる。お茶の漬物もあって、大変興味深いですね。体力が続く限り続けたい、ライフワークです。

      ◇     ◇     ◇

 次回は、「血液サラサラ」という言葉の生みの親であり、緑茶を「食べる」という健康法に着目している、栗原クリニック東京・日本橋院長の栗原毅さんに話を聞く。

大森正司さん
大妻女子大学名誉教授、大妻女子大学「お茶大学」校長
大森正司さん 昭和17年、宮城県出身。東京農業大学大学院農芸化学専攻博士課程修了。大妻女子大学教授を経て、現在同大学名誉教授。大妻女子大学「お茶大学」校長。農学博士。お茶博士としてメディアでもわかりやすく日本茶の健康効果を伝える。著書に『茶の科学』(朝倉書店)、『おいしいお茶の教科書』(PHP研究所)などがある。