日経グッデイ

仕事に役立つメンタルトレーニング

オリンピック選手も実践する体を使った心理テクで、沈んだ気持ちを上向きに

“サイキングアップ”で気持ちを鼓舞して勝負に強くなる!

 西門和美=フリーライター

 前回は、プレッシャーやストレスに直面した際の、スポーツ選手が行っているリラックスの方法について紹介したが、緊張の表れ方は、人によっても場面によっても様々。ガチガチに固まってしまうこともあれば、気落ちして闘志がしぼんでしまうこともあるだろう。その時々の状況を見極め、的確にコントロールすることが重要だ。今回は一流のスポーツ選手が行っている、モチベーションを上げる“サイキングアップ”のテクニックを、東海大学体育学部教授の高妻容一さんに教えていただく。

体へのアプローチでモチベーションを高める“サイキングアップ”

闘志を高めるために、オリンピックに出るような一流選手たちがやっているのが「サイキングアップ」だ(©VASILIS VERVERIDIS 123-rf)

 「質の高いプレゼンをして熱意を伝えたい」。そう願うものの、本番を前にしてもモチベーションが上がらない。そんなときには、闘志を高めて興奮度を上げることを目的とした“サイキングアップ”が役に立つ。緊張を緩める“リラクセーション”とは逆方向のアプローチだ。

 「スポーツも同じで、気持ちが乗らずテンションが低い状態もまた、パフォーマンスを低下させる。心がウキウキして意欲が湧いてくるようサイキングアップを行えば、良好なコンディションで能力を発揮できるようになります」と、東海大学体育学部教授の高妻容一さん。

 また、心理的ウォーミングアップであるサイキングアップには、内発的なやる気や集中力を引き出す効果もあるという。

 「“やらされている”という義務感ではなく“好き”“楽しい”“面白い”という前向きな気持ちで物事に取り組むとき、意欲や集中力は自然と高まる。サイキングアップによって気持ちが高まれば、心を集中させた良質なパフォーマンスが可能になります」(高妻さん)。

 ここで紹介するサイキングアップのプログラムは、一人でもできるが周囲の人とともに行えばさらに効果が上がる。スポーツ選手ならばチームメイトなどとともに実践してみよう。

 注意したいのは、前回紹介したリラクセーション同様、大事なプレゼンや試合の前に一度だけやればいいというものではない、ということ。毎日コツコツと実践してこそ成果を得られる、ということを忘れないでほしい。

≪サイキングアップのプログラム≫


1. 軽快な音楽に合わせて体を動かす
 リズムに合わせて動くことで心拍数を上げる

リズムに合わせてテンポよく手をたたき、呼吸を早める。続いて、音楽に合わせてジャンプするなどして体を動かし、呼吸や心拍数を高めていく。
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2. 体を使ったゲームを行う

 2人1組になって、ボクシングゲームや肩タッチゲーム、プッシュゲームを各10秒ずつ行って心拍数を上げ集中力を高める。さらに、あっち向いてホイなどでふざけながら遊ぶことでテンションを上げる。

 肩タッチゲームは、2人1組で向かい合い、直立の姿勢から、相手の肩をタッチしにいくゲーム。プッシュゲームは、やはり直立の姿勢で、足を固定したまま、相手の手のひらを押してバランスを崩させるゲームだ。ボクシングゲームをする際は、相手にパンチを当てないように。

肩タッチゲーム
2人1組で向かい合い、相手の肩をタッチしにいく
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プッシュゲーム
プッシュゲーム。直立の姿勢で足を固定したまま、相手の手のひらを押してバランスを崩させる。10秒行う。
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3. 周囲の人とハイタッチをする

 ハイタッチは、「ホイホイホイ」などと陽気な声を出してテンションを上げながら行うと、気分を高揚させることができる。


 普段からこうしたウォーミングアップを実践することは実力の底上げにも役に立つ。

 「スポーツの大事な試合や、仕事のプレゼンなどはもちろんのこと、普段の仕事や勉強、練習でも、やる気を高めた理想的なコンディションで行えば、自然とパフォーマンスは向上する。そうした体験を積み重ねるうち、加速度的に実力が伸びていくはずです」(高妻さん)。

 始めのうちは、これらのプログラムを、「どうすればやる気が出るのか」をつかむために実践してみるといい。トレーニングを重ねるうち次第に、そのポイントが実感をともなって把握できるようになっていく。そうすれば、心のバランスが乱れがちな大一番でも頼れるウォーミングアップとして、効力を発揮するようになるだろう。

(イラスト=島内美和子)

高妻容一(こうづま よういち)さん
東海大学体育学部教授
高妻容一(こうづま よういち)さん 1955年宮崎県生まれ。福岡大学体育学部体育学科卒業、中京大学大学院修士課程体育学研究科修了後、1985年フロリダ州立大学博士課程運動学習・スポーツ心理学専攻に4年半留学。1993年州立フロリダ大学へ1年間の研究留学。近畿大学教養部を経て、2000年より東海大学体育学部へ。現在、教授。2015年にも半年間、米国へ研究留学(IMGアカデミー、オリンピックトレーニングセンター、フロリダ大学、大リーグのチーム等)。1985~2001年日本オリンピック委員会のメンタルマネジメント研究班員。1994年から日本メンタルトレーニング・応用スポーツ心理学研究会をスタートし、事務局・代表を務める。東海大学スポーツサポート研究会メンタルトレーニング部門担当。