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そこを知りたい「腸内フローラ」

ヨーグルトは必ず食べるべき? 腸内環境研究者が明かす腸にいい食べ方のコツ

菌が生きて腸に届くことは重要? 食物繊維が腸内細菌のエサに?

 村山真由美=フリーエディタ―・ライター

腸内フローラには個人差があり、何を食べればいいかは人によって異なる部分もある。また、食事からとる菌はそう簡単に腸にすみつくことはできないが、食べ続ければ腸内フローラを少しずつ改善することはできる(第1回「善玉菌、悪玉菌と単純には分けられない!『腸内フローラ』の真実」参照)。では、具体的にどんなものを食べると腸内環境の改善につながるのか、腸内環境研究者・福田真嗣さん(メタジェン代表取締役社長CEO/慶應義塾大学先端生命科学研究所特任准教授)の話を基に食べ方のヒントをお届けしよう。

食物繊維は腸内細菌のエサになる!

腸内環境を良好に保つには、一定の頻度で食物繊維を食べることが大切!(©hubavasi 123-rf)

 おなかの中の腸内細菌は生きている。生きているということは、必ずエネルギー源を必要とするということだ。

 腸内細菌の主なエネルギー源は、私たちの細胞と同じでブドウ糖などの炭水化物だ。しかしブドウ糖などの多くは小腸で吸収されてしまうため、腸内細菌がたくさん生息している大腸まではほとんど届かない。普段の食事から大腸まで届き、腸内細菌のエサになるものの筆頭は「食物繊維」だ。

 「腸内細菌は食物繊維などの炭水化物をエネルギーにしているときは、その分解産物として健康に寄与する物質を作ってくれることが分かってきています。しかし、腸内に炭水化物がなくなってくると、たんぱく質などを利用し始めます。すると、健康にとってあまりよくない物質を作り出してしまうことも分かってきました。便秘だとこの状態に陥りやすいです。ですから、ある一定の頻度で食物繊維などの炭水化物を腸内に届けることが大切です」(福田さん)

 また、腸内フローラには個人差があるが、それらは地域や食習慣によって傾向があるという。特に脂質の摂取量が多い欧米人の腸内には、バクテロイデスという腸内細菌が多くすんでいて、ベジタリアンの腸内には、プレボテラという腸内細菌が多くすんでいるという。

食の好みは腸内細菌が決めている?

 日本人が海外に滞在すると、1~2週間もすると日本食が食べたくなる人が多いそうだ。これは生活習慣が変わることで、もしかすると腸内環境が変わり、その結果として腸内環境を元に戻すために日本食を食べたくなるようになるのかも…」と福田さんは冗談交じりに推測する。

 「腸内細菌のエサは人間が摂取したものだけですから、自分たちが利用できるエサが来ないと死んでしまいます。それでは困るので、自分たちが利用しやすいものを人間が食べるように仕向けているのかもしれませんね。これはあくまでも仮説ですが、脳と腸とは迷走神経でつながっていますし、ホルモンでもやり取りをしていますから、人間を腸内細菌までも含めた一つの生命体として考えたときに、そういう制御があっても不思議ではないと思います」(福田さん)

 食の好みは腸内細菌が決めているのかもしれない。だとすると、「食べたいもの」「好きなもの」を選ぶというのは、腸内環境をよくする食べ方のヒントになるかもしれない。

 ちなみに、おなかにいいと言われるものの代表にヨーグルトなどがあるが、「嫌いなものを無理して食べても長続きしませんので、もしヨーグルトが嫌いなら、大麦でも海藻でもいいかもしれません。腸内環境をよい状態に保つためには、こういったものを食べ続けることが重要なので、好きなものから始めるのがいいのではないでしょうか」と福田さん。

 もちろん、いくら好きだからとはいえ、高脂肪の食品やお肉は日本人は食べ過ぎないほうがいいかもしれない。これらを食べ過ぎると、前者では肝臓がん、後者では動脈硬化の原因になることが動物実験で報告されている(詳しくは第2回「自分の腸内細菌をサプリにして飲む日は近い!」をご覧ください)。

腸内フローラでも、重要なのは「多様性」

 腸内フローラには個人差があると述べたが、いい腸内フローラの共通点は何だろう。

 「近年の研究で、病気の人は腸内フローラの多様性が低下していることが分かっています。この “多様性” がキーワード。おなかの中にいろいろな種類の腸内細菌がいるということは、いろいろな状況に対応ができるということですので、もしかするとこれが健康につながるのかもしれません」(福田さん)。

 これは、人間社会に置き換えてみると分かりやすい。会社が予期せぬアクシデントに見舞われたとする。特定の分野に強い人ばかりの会社では、分野外のアクシデントには全く対応できない。一方、いろいろなタイプの人がいれば、救われるケースは少なくない。腸内フローラも予期せぬアクシデントはつきものなので、その生態系を維持するには、多様性が重要ということなのだろう。

食物繊維の中でもエサにしやすいのは「水溶性」

 食物繊維は穀類、イモ類、豆類、野菜、きのこ、海藻、果物などに豊富に含まれている。食物繊維には2種類あり、水に溶けない不溶性食物繊維と、水に溶ける水溶性食物繊維に大別される。

 「不溶性食物繊維はその物理的性質から、腸内の成分を巻き込んで排出する特性があります。仮に腸内に有害物質があった場合には、これらを巻き込んで排出してくれます。一方、水溶性食物繊維は不溶性食物繊維よりも腸内細菌が分解しやすいため、エサになりやすい」(福田さん)

 ほとんどの食品は不溶性食物繊維と水溶性食物繊維を併せもっているが、水溶性食物繊維を多く含む食品を意識してとるのが、腸内細菌による良い発酵を促すポイントだという。

水溶性食物繊維を多く含む食品(100g当たり)
らっきょう18.6g
青汁(ケール)12.8g
エシャロット9.1g
大麦(押麦)6.0g
切り干し大根5.2g
あんず(乾)4.3g
にんにく4.1g
いちじく(乾)3.4g
プルーン(乾)3.4g
いんげん豆(乾)3.3g
干し椎茸3.0g
いり大豆2.4g
ごぼう2.3g
納豆2.3g
きんかん2.3g
アボカド1.7g
にんじん(きんとき)1.5g
あしたば1.5g
里芋0.8g
じゃがいも0.6g
日本食品標準成分表2015年版(七訂)より、一般的な食品を抽出

 上の表にはないが、海藻には水溶性食物繊維のアルギン酸が多く含まれている。麦ごはんとわかめのみそ汁、ひじきの煮物、きんぴらごぼう、納豆といった昔ながらの日本食には、水溶性食物繊維が実に豊富だ。

 和食は世界に冠たる健康食だが、腸内フローラという観点から見ても優れているようだ。「この半世紀で、日本人の食生活は欧米化し、高脂肪、高カロリー、低食物繊維になりました。このことが日本人の腸内フローラのバランスを乱す原因の一つになっていると考えられます。食事に関しては、原点回帰が一つのヒントになるかもしれません」(福田さん)。

ヨーグルトの食べ方のコツは?

 発酵食品の代表格ともいえるヨーグルトにはさまざまな種類がある。どれが自分の腸内環境に合うかは、食べてみないと分からないという。

 「そんな中でもおすすめを挙げるとすれば、まずはオリゴ糖入りのものです。オリゴ糖はビフィズス菌などのエサになり、腸内で良い発酵を促してくれます」(福田さん)。プレーンヨーグルトに、市販のオリゴ糖やオリゴ糖入りのフルーツソースなどをかけるのもおすすめだ。

 「どの製品が自分の腸に合うかを調べるには、同一銘柄のものを1〜2週間食べ続けることです。量は最低でも1日100g〜150gくらいは食べてください。体調や排泄の調子がよくなったり、便の色やにおいが改善されたりしたら、その製品はあなたの腸に合っていると判断できます。あまり変化が見られなかったら、別の銘柄のものをまた1〜2週間試してみて。これを繰り返していくうちに、自分の腸と相性のいいヨーグルトと出会うことができるでしょう」(福田さん)。

福田真嗣さん。今最も注目されている腸内環境研究者の一人だ。

 全てのヨーグルトには乳酸菌が含まれているが、ビフィズス菌が添加されているものもある。どう違うのだろうか。

 「乳酸菌の中でも特に乳酸桿(かん)菌は主に小腸に、ビフィズス菌は主に大腸にすんでいます。小腸には免疫組織があるため、乳酸桿菌は免疫組織を刺激して活性化させる、つまり免疫力を高めるコンセプトで使われやすい。現在、市販されているものも抗アレルギーなどそういうタイプが多い。一方、ビフィズス菌は酸素を嫌う性質があるため、酸素が比較的多い小腸ではあまり生きられない。そのため、主に大腸に作用し便通を改善させるようなコンセプトで使われることが多いです」(福田さん)

   乳酸桿菌   =小腸に多く、免疫力アップに関与
   ビフィズス菌 =大腸に多く、便通改善などに関与

 ちなみに、ヨーグルトの乳酸桿菌は人由来のものだけでなく、食品由来のものも多いが、ビフィズス菌の多くは人由来だ。つまり、だれかの腸からとったものを培養したものが使われているということ。そのビフィズス菌入りヨーグルトが一番合うのは、もともとの宿主であるその人であって、他の人に合うかどうかは、やはり試してみなければ分からないという。

 また、このシリーズの第1回(「善玉菌、悪玉菌と単純には分けられない!『腸内フローラ』の真実」)でもお伝えした通り、外来の菌は簡単には腸に定着できない。だから、自分が健康なときの便から腸内細菌を取り出し、培養してサプリメントにする“パーソナライズド・プロバイオティクス”が腸内への定着という点では理想的だ(第2回「自分の腸内細菌をサプリにして飲む日は近い!」参照)。

菌が生きて腸に届くことは重要?

 多くの乳酸菌は通常は胃酸や胆汁酸に晒されるため、腸に届く前に死んでしまう。ヨーグルトには、「高生存性」「生きて腸まで届く」といったコピーがよく使われているが、生きて腸に届くことは重要なのだろうか。

 「繰り返しになりますが、外来の菌は簡単には腸に定着できません。もちろん一時的に腸内フローラのバランスを変えることはできるかもしれませんし、生きて腸に届き発酵を促すことでよい効果を発揮する場合には、生きて腸に届かないと効果は得られませんが、腸に届くけれど何もしないで出てくる、という菌もいるでしょう」(福田さん)

 また、乳酸菌をとると、免疫力アップを期待できるという話は前述したが、免疫組織を刺激するのは、菌の外膜成分や菌細胞の中にあるDNAやRNAなど。つまり、菌の構成成分だ。「ですから、免疫力アップに限れば、乳酸菌は死菌でも効果があると考えられます」(福田さん)

 さらに、死菌を構成している成分は、生菌や常在する腸内細菌のエサになる場合もある。つまり、「生きて腸に届く」かどうかにことさら神経質になる必要はなく、むしろその摂取効果を実感できるかどうかが重要ということだ。

 ここまでの話をまとめると、腸内フローラのバランスをよくするためには、以下のようなことに気をつけるといいようだ。

【腸内フローラのバランスをよくする食べ方】
●腸内細菌のエサになる食物繊維(穀類、イモ類、豆類、野菜、きのこ、海藻、果物など)をとる
●なかでも、腸内細菌が分解しやすくエサにしやすい水溶性食物繊維が豊富な食品(大麦や海藻など)を積極的にとる
●ヨーグルトだけでなく乳酸菌のエサになるオリゴ糖も一緒にとる
●ただしこれらは自分の腸にあったものを探して、毎日とり続ける必要がある

 腸内フローラは少しずつではあるが食生活で変えられる。変えることのできる臓器のひとつだ。長期戦を覚悟して、食生活を改善していこう。

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福田真嗣(ふくだ しんじ)さん
メタジェン代表取締役社長CEO/慶應義塾大学先端生命科学研究所特任准教授
福田真嗣(ふくだ しんじ)さん

1977年生まれ。明治大学大学院農学研究科博士課程修了。博士(農学)。学位取得後、理化学研究所研究員として勤務し、2012年より慶應義塾大学先端生命科学研究所特任准教授。2011年にビフィズス菌による腸管出血性大腸菌O157:H7感染予防の分子機構を世界に先駆けて明らかにし、2013年には腸内細菌が産生する酪酸が制御性T細胞の分化を誘導して大腸炎を抑制することを発見、ともに「Nature」誌に報告。2015年、メタジェン(慶應義塾大学と東京工業大学のジョイントベンチャー)を設立。著書に『おなかの調子がよくなる本』(KKベストセラーズ)。