「血糖」の病気なのになぜ、高血圧やコレステロールの薬を?
宇津貴史=医学リポーター
「2型糖尿病だから血糖低下薬を飲むのは分かるけど、なぜ、血圧の薬やコレステロールの薬まで?」そんな疑問を感じている人はいないだろうか。もし、降圧薬やコレステロール低下薬が処方されていたならば、それは心筋梗塞や脳卒中を予防するためだ。今日の2型糖尿病はこれらのリスクが高く、加えて血糖を下げるだけでは、必ずしも十分に予防できない。データを元に見ていきたい。
第1回で見たとおり、現在、多くの2型糖尿病患者(以下、糖尿病)の寿命を決めているのは、心筋梗塞や脳卒中だ。そして早期からの血糖低下療法により心筋梗塞と死亡は減るが、第2回で示したように、UKPDS試験ではその効果が判明するまでに20年という時間を要した。

「実は、もっと短期間に心筋梗塞や脳卒中を減らせる方法がいくつかの研究で明らかにされています」。こう説明するのは、第1回でも解説いただいた順天堂大学循環器内科教授の代田浩之氏だ。
「『血圧』と『血中コレステロール』を低下させれば、糖尿病患者の心筋梗塞や脳卒中を、極めて効率よく抑制できるのです」。
第1回で見たように、今日多く見られる「インスリン抵抗性」型がメインの糖尿病は、高血糖に加え、軽度に上昇した血圧や中性脂肪、コレステロールが「合わせ技」となって、脳卒中や心筋梗塞のリスクを引き上げる。
「したがって、それらすべてを改善することが重要と考えられたのです」と代田氏は言う。
上の血圧が10mmHg下がれば、心筋梗塞や脳卒中の危険性は短期に下がる
「血圧の低下」のデータから見てみよう。
図1は、2型糖尿病で上の血圧を10mmHg下げると、どれほど心筋梗塞や脳卒中などが減るかを示している。これまでに行われた40もの臨床試験の結果をまとめたものだ。
心筋梗塞・心臓突然死の危険性は相対的に12%減少し、脳卒中は27%減少していた。さらに死亡も、13%減っていた。
注目したいのは、これら臨床試験の試験期間だ。短いものでは1年間、最長でも9年弱、大半は4年前後だった。
血圧を下げれば、それくらいの短期間で、心筋梗塞や脳卒中が減る計算だ。
現在、日本高血圧学会のガイドラインでは、診療所で測定する血圧なら「130/80mmHg未満」、家庭血圧なら「125/75mmHg」を糖尿病患者の血圧目標値として推奨している。いずれも、糖尿病のない人に比べ目標値は低い。