エースコック社長「体の半分は即席麺」でも健康。その秘けつは?
<特別編>危機を乗り越えてきた即席麺の歴史~エースコック 村岡寛社長インタビュー
二村高史=フリーライター
競合関係抜きで 「健活コーナー」を展開
これだけ健康志向が盛り上がっているにもかかわらず、まだ販売店の店頭で健康志向の即席麺を見かけるチャンスが少ないように感じられるのですが。

村岡さん 健康志向のカップ麺のシェアは着実に伸びているとはいえ、全体から見れば微々たるもの。通常のカップ麺や、家庭で野菜や卵などの素材をプラスできる袋麺の売り上げには、まだまだ比べようがありません。
しかし今後も業界で生き残るには、健康に敏感でしかもこれまであまり即席麺を食べてこなかった方々に買ってもらわなくてはなりません。そう考えれば、ミドル世代や女性をターゲットにした商品を開発して、健康志向のパイを拡大していく必要があるでしょう。
そこでエースコックが販売店に提案しているのが、「健活コーナー」の設置です。
考えてみれば、あまり体調が思わしくないという人や、そもそも即席麺を食べる習慣がないという人は、スーパーに行っても最初から即席麺コーナーに足を向けません。でも、体を気遣ってくれるようなコーナーがあって、そこに即席麺が置かれていたらどうでしょうか。「試してみよう」という気になっていただけるかもしれません。
「健活コーナー」では、エースコックの名前を前面に出さずに、インスタント味噌汁やスープなど、即席麺以外の健康志向の食品も含めて棚をつくってもらうように働きかけています。競合関係抜きで、販売店にこうした売り場を作ってもらうのは、初めての試みだと思います。
こうしたコーナーに足を運んでいただいて、「ああ、即席麺にも健康に気をつかった食品があるのか」と知ってほしいのです。健康を気にするけれども、ラーメンは大好きという人はたくさんいます。そうした方々にアピールできればと考えています。1回食べていただければ、必ずや満足いただけることでしょう。
現在、「健活コーナー」は全国約60企業、1300店舗で展開しています。
「やり過ぎるくらいがちょうどいい」
エースコックの即席麺というと、1983年発売のわかめラーメンや、1988年に販売を開始した1.5倍のスーパーカップ、2001年のスープはるさめなど、他社がやっていない独自のさまざまな試みで成功しているという印象があります。これは、エースコックの社風と関係があるのでしょうか。
村岡さん エースコックの企業スローガンは「Cook happiness(クック・ハピネス) おいしい しあわせ つくりたい」です。つまり、お客様に喜ばれるものを作っていきたいという理念を持っているのです。そうした理念が根底にあるので、挑戦的に独自なものをつくりたいという社風が根付いています。私としても、社員には自由にやってもらっています。
既存の商品と同じようなものを作ってもおもしろくありません。ちょっと行き過ぎくらいのものをつくって、はじめてオリジナルのものとなり、お客様に魅力を感じていただけるのではないかと思っています。やり過ぎるくらいがちょうどいいのです。
そんなふうに考える理由の一つとして、本社を大阪に置いていることと関係があるかもしれません。
なんといっても日本の中心は東京ですから、情報を集めるには東京にいるほうが有利です。もちろん、エースコックも東京に支店を置いて、販売店やお客様の情報を集めていますが、それでも他社にくらべて最新の情報収集には遅れがちというデメリットがあります。
ですから、情報をもとに動いているだけでは、大阪にいる私たちは2番手、3番手になるしかありません。
そうならないためにはどうすればよいかという答えが、自分たちで独自のものを開発していこうという戦略なのです。むしろ、やり過ぎるくらいにやらなければ、生き残れないと思うのです。
ですから、社員のやっていることに私が余計な口を出したり、トップダウンで「こういう商品をつくれ」ということはしないように心がけています。
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- 私は体の半分が即席ラーメンでできている