日経グッデイ

「即席ラーメン」の新たな挑戦

「女性向けカップヌードル」が成功した理由

第5回 日清食品 「カップヌードルライトプラス」

 二村高史=フリーライター

2015年に発売した「カップヌードルライトプラス ラタトゥイユ」。同時に「同バーニャカウダ」も発売した。今年3月に商品をリニューアル。その際、「海老のビスク」もラインアップに追加した

 日本が生んだ世界的な発明品「即席ラーメン」。多くの人に親しまれている大ヒット商品に今、「健康志向」という新しい波が起きている。特集では各社の健康志向への取り組みを紹介していく。今回登場するのは、グローバルブランド「カップヌードル」をはじめとして、即席麺業界を牽引する業界のパイオニア日清食品。

 日清食品の健康志向への取り組みは1997年からと早い。「カップヌードル」ブランドからも、2008年に「カップヌードルライト」、2015年に「カップヌードルライトプラス」を発売している。後者は、従来の商品とは一線を画した大胆なパッケージと個性的な味が特徴でヒット商品となった。同社の健康志向商品の取り組みとライトプラスの開発について、マーケティング部 第7グループ ブランドマネージャー佐橋育恵さんと広報部 次長の大口真永さんに話を聞いた。

20年近く前から「トクホ」のカップ麺

日清食品は最大手だけあって、数多くの即席めんがありますが、これまで健康志向の商品に対してはどのような取り組みをしてきたのですか。

日清食品の特定保健用食品のカップ麺「サイリウムヌードル」シリーズ。初代は1997年に発売。2013年9月にリニューアル

大口さん 20年近く前から健康志向の商品開発に取り組んできました。はっきりと健康を意識したカップ麺に、1997年に発売された「サイリウムヌードル」シリーズがあります。トクホ(特定保健用食品)の認定を受けており、オオバコの種皮から採れる食物繊維を麺に練り込んで、おなかの調子を整える効果があります。カロリーは約160kcalと通常のカップヌードルの半分で、現在も通販を中心に販売しています。最近では2013年にリニューアルしました。

 その後、高齢化や健康に対する意識の高まりに応えて開発したのが、2008年に全国発売を開始した「カップヌードルライト」(以下「ライト」)です。オリジナルの「カップヌードル」のおいしさはそのままに、カロリーを198kcalに抑えました(オリジナルのカップヌードルは353kcal)。

2008年に発売した「カップヌードルライト」。カロリーを198kcalに抑え、食物繊維を加えている

 ライトの麺は、小麦粉と小麦粉の層の間に食物繊維を練り込んだ三層構造になっていて、食物繊維が1食(53g)あたり10.2gと多く含まれています。

 カロリーを抑えるためにノンフライ麺を採用しましたが、工程の最後に油をシャワーのようにかけて高温で乾燥させる「ミスト・エアードライ製法」を採用することで、フライ麺特有の風味、旨みを再現しています。その後、シーフード、カレー、チリトマトなどの味がラインアップに加わりました。

女性層を十分に取り込めなかった

「ライト」がある一方で、2015年には「カップヌードルライトプラス」(以下「ライトプラス」)が登場しました。カロリーはやはり198kcalで、三層構造の麺、ミスト・エアードライ製法は同じですが、パッケージや味は大きくイメージチェンジをしています。その狙いはどこにあるのですか?

佐橋さん 「ライト」発売の際、ダイエットや健康に意識の高い女性を取り込んでいきたいという狙いがありました。実際、ふたを開けてみると、女性が増えてはいるのですが、期待したほどの数字にはなりませんでした

 通常のカップヌードルでは、購入者全体に対する女性の比率はほぼ50%。ただし、主婦が代理購入をしているケースが多いので、実際に食べている女性はもっと少ないと考えられます。

 これに対して「ライト」は、女性が多少増えたものの、コアの購入層は「生活習慣病は気になるけれども、カップヌードルの味が好きだ」という男性だったのです。

健康志向のカップ麺には2つの方向性がある

「カップヌードルライトプラス」シリーズを企画した日清食品 マーケティング部 第7グループ ブランドマネージャー佐橋育恵さん

佐橋さん 「ライト」は、一定の成功を収めましたが、私たちはこう考えました。
 「カップヌードルがカップ麺ブランドとして、さらにシェア拡大を実現するには、人口の半分を占める女性にも受け入れられなくてはならない」
 そこで女性にポジティブなイメージを持ってカップ麺を食べて欲しいとの思いで開発したのが「ライトプラス」です。

 2015年に発売した「ライトプラス」は、「カップヌードル」というブランドの商品ではありますが、女性を意識して大きく変えました。味は当初「ラタトゥイユ」「 バーニャカウダ」の2種類で、2016年3月に「海老のビスク」が加わりました。

 ラタトゥイユは野菜の旨みが溶け込んだトマトベースのスープ、バーニャカウダは、アンチョビやオリーブオイルの風味が香るミルキーなスープ、海老のビスクは海老と野菜の旨みが溶け込んだクリーミーなスープで、どれも女性に人気の南ヨーロッパの味を再現しています。

ターゲットは絞られるが、リピート率が高い

発売当初、「カップヌードルと別のものが出た」という印象を受けたのですが、それは狙い通りだったわけですね。

佐橋さん 健康志向のカップ麺には2つの方向性があると考えています。1つはミドルエイジ向けで、もう1つは女性向け。同じヘルシーでも、求めているものが違います。

 カップヌードル好きのミドル世代が、「ちょっと健康も意識しないといけないな」と考えたときに、「ライト」はそれに応える商品になっています。40~60代はカップ麺のコアなファンがいる世代です。「やっぱり、カップヌードルのあの味でないと!」という人向けの商品といってよいでしょう。

 ただし、女性に対してはそれで十分ではありません。そこを狙ったのが「ライトプラス」だったのです。「ライトプラス」では女性の購入率が65%です。この数字だけでも15ポイントプラスであるのに加えて、この商品は代理購入の率は少ないと考えられますので、女性の比率はかなり高いと認識しています。

 SNSでは、「198kcalでこんなにおいしいならば、いつも食べてもいい」「カップ麺を食べたのは何年ぶりだろう!」という投稿をよく目にしました。

 うれしかったのは、子育て中のお母さんにも喜んでいただけたことです。「やっと子どもが寝た」というときに、独身時代に親しんだフレンチやイタリアンの味を3分でおいしく再現できるのが受けたのでしょう。

 また、リピート購入率が高いのも「ライトプラス」の特徴です。ターゲットは絞られていますが、深く受け入れられていると認識しています。

カップ麺を食べている姿を、ほかの人に見られるのは格好悪い

女性に受け入れられるために、どのような工夫をなさったのでしょうか。

佐橋さん まず、カップ麺を食べる女性がなぜ少ないのか、理由を考えました。
 その結果、「自分の目」と「他人の目」があるという結論に達したのです。
 自分の目というのは、「カップ麺は、カロリーが高く、栄養バランスが悪い」という固定観念。それをぬぐい去ることができないので、カップ麺に手が伸びないのです。他人の目というのは、「カップ麺を食べている自分を、ほかの人から見られるのは格好悪い」という意識です。

 この2つの問題点を同時に解決することを、開発のコンセプトに据えました。
 まず、「カップ麺は、カロリーが高く、栄養バランスが悪い」という固定観念を覆すために、カロリーを低く抑え、野菜をもりもり食べるイメージのあるメニューをいろいろと考えました。そうして、フレンチやイタリアンの店での女子会をイメージできるメニューとして、「ラタトゥイユ」と「 バーニャカウダ」を選んだのです。

 「カップ麺を食べている自分を、ほかの人から見られるのは格好悪い」という意識には、パッケージを大胆にイメージチェンジすることで対処しました。

 化粧品を得意とするデザイナーにパッケージデザインを依頼。従来はカップ麺をスーパーやコンビニの袋に隠すように持ち帰っていた若い女性も、これなら他人に見せて歩きたいと思えるデザインを目指したのです。

「カップヌードルライトプラス」はパッケージデザインにもこだわった。カップの上面にシズル写真を入れている(写真左)

 もちろん、イメージだけではなく、食べ物として中身がきちんと理解でき、おいしさが伝わることも大切です。カップの上面にシズル写真を入れたのも、実はこれまでにない新しい試みです。実際にどんな食べ物なのかがすぐにわかるので、安心感が持てるのです。

女性は理屈でものを食べない

 私たちの開発のベースには、「食べ物は機能から入ることはない」という考え方があります。なぜなら、いくら健康的だといわれても、食べておいしくなくては受け入れられないからです。とくに女性にはその傾向が顕著です。私もそうですが、女性は理屈でものを食べることをしません。左脳ではなく、右脳をまず働かせるのです

 ですから、女性をターゲットにする以上、「おいしさ」は何よりも重要視しました。販売店の棚に置かれた状態では、まず素敵なパッケージでお客様の右脳に働きかけ、「おいしそう!」だと感じ取っていただけるようにしました。そうして棚から手に取ってもらえたら、今度は左脳に働きかけて「低カロリー、野菜たっぷり」ということを数字で示すようにしたのです。

濃厚感や風味そのままに、低カロリーでないといけない

そもそも、バーニャカウダやラタトゥイユはスープではありませんし、もちろん麺を入れて食べるわけではありませんよね。それを、こうしてカップ麺にするまでには、開発にご苦労があったと思いますが。

佐橋さん 重要なポイントは、バーニャカウダやラタトゥイユそのものを作るのではないということでした。それでは塩辛くて食べられません。そうではなくて、バーニャカウダやラタトゥイユの濃厚感や味わいをベースに、どうやってラーメン入りのスープを作るのかが重要なポイントだったのです。しかも、低カロリーでコクがなくてはなりません。

 当社の新商品の開発は、2014年に八王子に設立された当社の研究所「the WAVE」で行っています。私たちの間で「こういうものをつくってほしい」という仕様がまとまると、the WAVEと商品設計を検討し、サンプルを作ってもらうという手順で進めます。今回の「ライトプラス」の完成は、まさにthe WAVEの実力と努力のたまものだと思っています。

 実は、研究所のメンバーの方々の当初の反応は、バーニャカウダやラタトゥイユが、カップ麺のフレーバーとしてはイメージが湧かないというものでした。ところが、そこはさすがプロで、私たちが料理の内容を説明したり、実際にレストランで試食するだけで、その特徴を理解してもらえたようです。まもなく届いた、第1回目からかなり満足できるサンプルが出てきたのには驚きました。

「いくらなんでもそれは無理だろう」をクリア

発売から1年がたって売り上げはいかがですか。

佐橋さん 発売前、目標値として通常の2倍ほどの数値を示したところ、周囲から「いくらなんでもそれは無理だろう」と言われていたのですが、クリアできました

 もちろん、オリジナルのカップヌードルの数量に比べると、まだまだ少ない数字ですが、健康志向、女性向けという限定された商品としては驚くほどの売れ行きとなりました

渡辺直美さんが登場するカップヌードルライトプラス のテレビCMの1シーン

 狙いがうまく受け入れられ、これまでにほとんどカップ麺を食べていなかった女性──とくに若い女性に買っていただくことができました。テレビCMも、若い女性のファッションアイコンとして絶大な人気を誇る渡辺直美さんにお願いして、おいしさとヘルシーさを訴求しています。

 健康志向の食品、とくに健康をうたったカップ麺には「薄い、おいしくない」という印象がありましたが、それをなんとか打破できたのではないかと思います。今後も引き続き、女性層の更なるユーザー拡大を図っていきます。