日経グッデイ

「即席ラーメン」の新たな挑戦

極限まで油を減らした“常識外”の「サッポロ一番」開発秘話

第2回 サンヨー食品 「サッポロ一番 グリーンプレミアム0」

 二村高史=フリーライター

 日本が生んだ世界的な発明品「即席ラーメン」。多くの人に親しまれている大ヒット商品に今、「健康志向」という新しい波が起きている。特集では各社の健康志向への取り組みを紹介していく(全体のトレンドは特集の第1回を参照)。

 最初に登場するのは、「サッポロ一番」でおなじみのサンヨー食品。昨年秋に「ノンオイルスープ、ノンフライ麺、コレステロール0(ゼロ)」の袋めん「サッポロ一番 グリーンプレミアム 0(ゼロ)」を発売。ラーメンの味の基本となる油を極限まで減らしたという"常識外"の商品だ。新たな設備投資をしてまで商品化したという同社の狙いと、油なしでおいしい商品に仕上げた開発秘話を、同社のマーケティング部 第一課 課長 本郷健太郎さんにうかがった。

2015年9月に発売したサンヨー食品の「サッポロ一番 グリーンプレミアム0」。ノンオイルスープ、ノンフライ麺、コレステロール0(ゼロ)をを実現した袋めん。醤油ラーメン、海鮮ラーメン、野菜だしラーメンの3種類に、季節商品の鴨だしうどん(冬季)がある。5個パックで販売している
[画像のクリックで拡大表示]

昨年秋に、サッポロ一番ブランドで「グリーンプレミアム0」を発売した際にはマスコミをはじめ、ネットなどでも話題になりました。私もそうですが、多くの人になじみのある「サッポロ一番」シリーズだけあって気になる人が多かったのでしょう。実際、スーパーなどの小売店の即席めんコーナーでよく目にします。

本郷さん 「サッポロ一番 グリーンプレミアム0(ゼロ)」(以下「グリーンプレミアム」)は、袋めんタイプでは珍しい“健康志向”をうたった商品です。ノンオイルスープ、ノンフライ麺、コレステロールゼロを実現しました。麺を油で揚げていないだけでなく、スープもオイルフリーというのは世界初です。昨年9月に、醤油ラーメン、海鮮ラーメンと、季節商品の鴨だしうどんを発売して、2016年4月から野菜だしラーメンをラインナップに加えました。

2015年2月に販売を開始した「サッポロ一番 大人のミニカップ 中華そば」
[画像のクリックで拡大表示]

 また、グリーンプレミアムが話題になったのでご存じない方もいらっしゃいますが、当社はカップ麺で塩分を30%カットした、減塩タイプの商品も商品化しています。「サッポロ一番 大人のミニカップ」(以下「大人のミニカップ」)シリーズです。内容量が少ないミニタイプで、2014年にきつねそば、きつねうどんを発売して、2015年2月にはラーメン( 中華そば)を追加しています。カップスープやはるさめなどのように、昼食などにもう1品追加したい方や、「飲んだあとにラーメンを食べたいけれども塩分やカロリーが心配」という方も気にせず食べていただける商品になっています。

以前はサッポロ一番を食べていた人が、控えるようになった

サンヨー食品で「サッポロ一番 グリーンプレミアム0」の企画を担当した、マーケティング本部 マーケティング部 第一課 課長 本郷健太郎さん
[画像のクリックで拡大表示]

そもそもの話になりますが、「グリーンプレミアム」を開発した狙いはどこにあるのでしょうか。やはり、高齢化やミドル以上の健康志向の高まりを意識しているのでしょうか?

本郷さん はい。中高年齢層のお客様が求めている即席めんを考えた結果です。当社では、「サッポロ一番」のみそラーメン、塩らーめんという長年の定番商品があります。ところが、その購買層を調べてみると、世代別人口に占める購入率は40代がピークで、50~60代になると購入率も購入頻度も減っていることがわかりました。

 例えば、若いときは夜帰宅して小腹が空いていると「サッポロ一番」を食べていたのに、今ではカロリーが気になって食べなくなる。つまり、従来品だけではお客様をとりこぼすことが明らかになってきたのです。

 ところが、競合他社の商品では、50~60代にも買われている商品があります。それがノンフライ麺でした。理由は単純です。年をとると油っこいものは避けたいのですが、ラーメンを食べたいという気持ちはある。結果的に、ノンフライ麺が人気になったわけです。

編集部注:即席麺には、麺を油で揚げた「フライ麺」タイプと、油で揚げない「ノンフライ麺」タイプがある。2011年に東洋水産が生めんのもちもちした食感が楽しめるノンフライタイプの「マルちゃん正麺」を発売、大ヒット商品となった。その後、他社もノンフライタイプを商品化し、ノンフライ麺のシェアは急上昇した。ノンフライ麺は油で揚げていないためカロリーは低めになる。

 すでにカップ麺には、減塩、食物繊維入りといった健康志向の商品が出ていましたが、袋めんにはそうした動きはありませんでした。ノンフライ麺は油で揚げないためカロリーは低くなりますが、メーカー側としては“健康志向”を売りにしているわけではなく、あくまでも売りは“もちもちとした生めん風の食感”による「おいしさ」でした。

 そんな状況のなか、お客様はなるべく健康によさそうな袋めん──いわば健康志向食品の「代用品」として、ノンフライ麺を買っていたのだろうと分析したわけです。

 そこで中高年の方々に集まっていただき、ノンフライ麺を含めた即席ラーメンを食べて感想をうかがってみました。すると、ノンフライ麺が好まれるという傾向はあったものの、それでもまだ油っこいという意見も少なからず出てきたのです。

 それならば、「油がいらないという中高年の方向けに、徹底的に油を抜いて、しかも『おいしい!』と言ってもらえる袋めんを作ろうではないか」と考えたわけです。これが、開発のきっかけでした。

ノンフライのブームが一段落

なるほど、ノンフライ麺というと、各社の宣伝などでよく見る「生めん風」という印象が強いですが、油で揚げていないから健康に気を使う人にとっては、いい選択肢になるわけですね。ここ数年続いたノンフライ麺のブームは、今はどうなっているのですか。

本郷さん 袋めん全体に対するノンフライ麺のシェアは、当初は20%ほどだったものが、一時は45%まで達しました。それが、現在では約30%に下がっています。

 もっとも、これは人気が落ちたのではなく、一時のブームが落ち着いたと私たちは見ています。今後は、現在並みの一定のシェアが維持されることになると考えています。ここが大きなポイントです。

 先ほども触れましたが、ノンフライ麺は当初、健康志向というより、おいしさで受けていました。実際、各メーカーもそういう打ち出しをしていました。しかし、おいしさだけを求めている人は、特定のブランドに執着することはありません。新製品が出ると、トレンドに乗ってどんどんと新商品に動いていってしまうからです。

 では、現在ノンフライ麺の購入層として残っている人はどういう人なのかというと、それこそ「健康に気を使っている人」でしょう。当初はトレンドで入ってきて食べ始めたわけですが、食べてみると「健康によさそうだ」ということに気付き、おいしさも相まって、その後も食べ続けているのです。

 逆に言えば、中高年になっても即席ラーメンを食べたいというニーズは確実にあるということです。そういう客層が確実にあることがわかったので、今度はそうした方々をターゲットにして健康をアピールしようと考えたわけです。

好きなラーメンを我慢していたけど、再び食べるようになった

そして昨年秋に、「グリーンプレミアム」を販売開始したわけですね。グリーンプレミアムに対するお客様の反応はどうでしたか?

「サッポロ一番 グリーンプレミアム0」の醤油ラーメン
[画像のクリックで拡大表示]

本郷さん 幸いなことに大きな評判を得て、お客様の反応もかなりいいものとなっています。昨年9月に醤油ラーメン、海鮮ラーメン、鴨だしうどんを発売した後、半年で約2500万食を出荷しました。シェアは当社の袋めん全体の3%近い売上を記録しています。

 当初の予想通り、「グリーンプレミアム」の購入者層は、50代以上が全体の6割、40代まで含めると8割を占めており、圧倒的に中高年寄りの商品となっています。お客様から寄せられる声も、そういう年代の方から、さっぱりした味が「おいしい」と評価されています。

 「好きなラーメンをこれまで我慢していたのだが、この製品をきっかけに、たまに食べるようになった」という声も多くありました。一方で、メインの「サッポロ一番」と同様の味と思って買われた方からは、「もっとこってりしたものが欲しい」という意見が寄せられることもあります。もともと、すべての方に受けようと狙った製品ではないので、これは想定内です。

油を抜いたらラーメンのスープではなくなる!

「サッポロ一番 グリーンプレミアム0」のパッケージの一部。スープに焼きあごや地鶏のダシなどを使い、油分は一切使っていない
[画像のクリックで拡大表示]

ただ健康にいいというだけでなく、おいしくするためにどんな苦労がありましたか。

本郷さん 開発の前提として、スープはノンオイルと決めていました。油を含まなければ、当然コレステロールもゼロ。こうして、ノンオイルスープ、ノンフライ麺、コレステロールゼロが、この商品のコンセプトとして据えられました。

 ただし、ノンフライ麺はすでにあったものの、ノンオイルスープは未知の世界です。ですから、ノンオイルでおいしいスープを開発するのは大変でした。原料をすべて見直さなければならず、原料メーカーにも協力をしてもらい、試行錯誤しました。

 もちろん、「試しに油を抜いてみた」というスープならすぐに作れますが、おいしくありません。油は、香りやうまみを感じさせるとても大切な要素です。油がうまみ成分のアミノ酸や塩分と反応してラーメンらしいおいしさが出てくるわけです。

 その油が抜けてしまったら、ラーメンのスープには感じられません。まるで、そばつゆのようになってしまい、かけそばにラーメンの麺が入っているような状態になるのです。

 では、油がなくてもラーメンスープのコクを出すにはどうすればよいか、いろいろと頭をひねった結果、“だし”で解決しようという結論に達しました。ただし、1種類のだしだけでは味の深みや広がりが出ません。何種類ものだしを使い、その複数のだしが口のなかに順に広がってくることで、単調にならない「広がり感」を出すことに成功したのです。

 口で言うのは簡単ですが、醤油ラーメン、海鮮ラーメン、野菜だしラーメンとも、満足のいくものになるまで、それぞれ1年かかりました。

入っているのは小麦粉に含まれているわずかな脂質だけ

「サッポロ一番 グリーンプレミアム0」のノンフライ麺。このために専用の製造ラインを新設した
[画像のクリックで拡大表示]

めんの開発に時間がかかったとお聞きましたが、一般的なノンフライ麺ではないのですか?

本郷さん 「グリーンプレミアム」の麺は、小麦粉と食塩を原料にしており、油は使っていません。これが高いハードルでした。「油を使わないノンフライ麺がすでに存在するだろう」と思われるかもしれませんが、話はそう簡単ではないのです。

 ノンフライ麺というのは、実は油で揚げていないだけで、油を使用していないという意味ではありません。ノンフライ麺であっても、製麺の過程で麺がからまないように植物油脂を使っているのです。スパゲティにオリーブオイルをかけるとからみにくくなることをご存じの方もいらっしゃると思いますが、それと同じ理屈です。

 「スープをオイルフリーにするのに、製麺の過程で麺に油を加えるのはおかしいのではないか」という意見も出て、これもカットすることにしました。ただし、原料の小麦粉にもともと含まれるごくわずかな脂質は、現在の技術ではカットできませんので、そのわずかな脂質が商品に含まれています。こういった理由から、商品パッケージに「ノンオイル」と表記せずに、「ノンオイルスープ」と表記していますが、油分は大幅に少なくなっています。

「グリーンプレミアム」のために、麺の製造ラインを新設

本郷さん 麺作りは、スープ作りよりも時間がかかりました。ノンオイルであっても製造過程で麺が絡まないように、製造工程自体を変えたのです。そのために専用の製造ラインも新設しました。「グリーンプレミアム」の麺はこの製造ラインでしか作ることができず、逆にこの製造ラインでほかの麺を作ることもできません。これは大きな決断でした。

 大きな賭けに見えるかもしれませんが、当社では健康を意識した中高年向けの即席ラーメン市場は、今後とも拡大が続いていくと考えています。もちろん、味は変わっていくかもしれませんが、こうしたオイルフリーをコンセプトとした商品は、決してなくならないと判断したのです。

 油分を極限まで減らしたことにより、袋めんの一般的なフライ麺の商品が1食分で450kcalなのに対して、グリーンプレミアムでは醤油ラーメンで297kcal、海鮮ラーメンで291kcalと、300kcalを切ることができました。

編集部注:袋めんはカップラーメンに比べて、麺の量自体が多いため、カロリーも高くなる。グリーンプレミアムの場合は麺は78g。日清食品のカップヌードルは65gとなっている。

“健康志向”即席ラーメンの伸びしろはまだまだある

なるほど本腰を入れて健康志向の即席めんに取り組み、消費者に受け入れられたのですね。ですが、この健康志向は一過性のものになる可能性はないのでしょうか。

本郷さん 当社では、そうではないと考えています。グリーンプレミアムの商品を企画した段階で、調味料やみそ汁などの他の食品で、「健康系」と呼ばれている商品がどれだけのシェアがあるのかを調査してみたのです。すると、健康系が成立しているジャンルでは、どこも金額シェアが10~20%に達していることがわかりました。

 今、グリーンプレミアムは売れているといっても、現時点で社内の3%弱のシェアしかありません。逆に考えれば、将来は10~20%まで伸びる可能性があるとも言えます。

 そもそも、わが国の人口の高齢化は進む一方ですから、健康志向の即席めんの市場は広がることはあっても縮小することはないでしょう。当社では今後ともグリーンプレミアムの開発・販売を強化していくつもりです。

 ところで、この「グリーンプレミアム」にも「サッポロ一番」の名前を冠しています。これは、単純に知名度が高いから使用したというのではなく、「サッポロ一番」というブランドをすべての年代の方に受け入れていただきたいという思いが込められています。サンヨー食品にとって、「サッポロ一番」ブランドは欠かせません。もちろん、広く親しんでいただいた従来の製品も販売を続けていきます。油を使ったコクのあるラーメンが好きだという方も、若い方を中心にたくさんいらっしゃいます。すべての世代で「サッポロ一番」ブランドを広めていきたいと考えています。