日経グッデイ

「即席ラーメン」の新たな挑戦

ロカボ、オイルフリー、減塩――大ヒット商品「即席ラーメン」に巻き起こる新たな波

第1回 「体にいいけどおいしくない」を覆せ!―― 食品メーカーの挑戦

 二村高史=フリーライター

日本が生んだ世界的な発明品「即席ラーメン」。多くの人に親しまれている大ヒット商品に今、「健康志向」という新しい波が起きている。従来の「カラダにいいけどおいしくない」を覆す商品が続々と登場、これまでにない盛り上がりを見せている。そこで今回の特集では、各メーカーの最新の取り組みをレポートする。第1回となる今回は、これまでの歴史を振り返りつつ、最新のムーブメントを紹介する。

即席ラーメンに健康志向の波

日清食品が1971年に発売したカップヌードルの「オリジナル(しょうゆ)」。カップラーメンの歴史はここから始まった(写真は現行商品のもの)

 日本が生んだ世界的な発明品は数多くあるが、そのなかにあって即席ラーメンほど世界中で親しまれている商品は少ないだろう。今や、1年間に日本国内だけで55億食、世界全体では1000億食以上が消費されているという(2014年、袋めんとカップめんを合わせた数字、世界ラーメン協会推定)。

 そんな即席ラーメンの世界に、今、新しい波が起きているのをご存じだろうか。それが、「健康志向」の即席ラーメンだ。そう、カップラーメンを中心とした即席ラーメンのラインナップに、低糖質麺、オイルフリースープ、減塩、女性向けなど、健康に配慮していることをうたった新製品が続々と投入されている

各即席麺メーカーが、続々と「健康志向」の新商品を発売している
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 こうした動きの背景にあるのは、ズバリ「高齢化社会の進行」だ。いうまでもなく高齢化とともに高まるのが、高血圧や糖尿病などの生活習慣病のリスク。ミドル以上の世代の健康志向は、これまでになく高まっている。少しでも体にいいものをと考えれば、中高年の世代が健康に配慮した食品を選ぶのは当然のことだ。

スーパーも「健康志向」重視の動き

 スーパーなどの小売店でも顧客の健康志向を受け、品揃えや棚の構成を工夫して、積極的に健康志向即席ラーメンを扱うところが出てきた。そんな小売店の一つが、関東地方南部を中心に展開するスーパー「いなげや」。いなげやは「上質なスタンダード」をコンセプトに、健康を意識した商品を積極的に扱っている。実際、東京・保谷町店を訪れると、即席ラーメンコーナーに専用コーナーが設けられ、健康志向商品がズラリと並んでいる。

いなげや東京・保谷町店の即席ラーメンコーナー。専用コーナーを設けて、健康志向の商品をまとめて陳列している

 同店の戸高慶之副店長は、「当店の顧客層は年齢が高めで健康意識が高い。これを意識して健康志向の即席めんコーナーを設けました。他社との競合も激しくなる中で、スーパーは他にない『プラスアルファ』を作っていく必要があります。現時点では、健康志向の即席めんは他では扱っていないケースが多いだけに、“違いを出せる”ポイントになると考えています」と話す。

 小売店側も、健康志向のムーブメントに対応しながら、その新商品を積極的に扱うことで他社と差別化を図ろうと考えているわけだ。

「カラダに悪そう」というイメージとの戦い

 現在の40代から60代の人にとって、即席ラーメンが急速に発展・普及した時期は、自分たちの成長の時期と重なっている。1958年に日清食品が世界初の即席ラーメン「チキンラーメン」を発売し、大人気商品となった。その後、1971年には、世界初のカップラーメンである「カップヌードル」も登場。それ以来、即席ラーメンは日本人にとって切っても切れない存在になったといっても過言ではない。

カップラーメンは、受験勉強や残業で空腹を満たす大定番の一つ(©PaylessImages -123rf)

 受験勉強や残業というと、今でもカップラーメンは定番の一つ。そうした機会の少なくなった中高年でも、ときおり無性に食べたくなって、スーパーやコンビニの棚に手を伸ばしたくなることもあるだろう。

 ところが、そこで「ちょっと待て!」という声が心の中から聞こえてくる。生活習慣病を気にする世代にとって、カップラーメンを食べることはどうしても躊躇しがちだ。

 そもそも、ラーメンという食べ物自体に「カラダに悪い」というイメージが付きまとっている。「スープを全部飲んだら塩分のとりすぎ」「カロリーが高いからメタボの原因になる」──そんな話は、誰もが耳にしたことがあるだろう。ましてや、即席ラーメンといえば、ラーメン屋で食べるラーメン以上に「カラダに悪い」というイメージが一般的だ。

 40代から60代の即席ラーメンのヘビーユーザーの中には、地方から上京して一人暮らしをしていたときに、即席ラーメンのお世話になった人も多いだろう。即席ラーメンは安く、手っ取り早くおなかがいっぱいになる。しかし野菜などを別に食べないために、「健康的でない」食生活となっていた人も少なくないはずだ。この当時の食生活が記憶の底にあり、ミドル以上になった今、即席めんに手を出すことに罪悪感を覚える人も少なからずいるのではないだろうか。

 「食べたいけれども、健康を考えて我慢している」という中高年は少なくない。結果的に、若いころから即席ラーメンの消費を支えてきた中高年の世代で、即席ラーメン離れが進みつつある。

 そこで登場したのが、健康志向の即席ラーメンというわけだ。スープの塩分を減らしたラーメン、スープから油分を除いたオイルフリーのラーメン、麺を低糖質のものにしたラーメンなどが各社から登場して、健康に気を使う中高年や女性の消費拡大を狙っている。

これまでも各社が挑戦してきたが…

 「折からの健康ブームとあいまって、健康志向の即席ラーメンの売り上げは大きく伸びているに違いない」──そう思う方も少なくないと思う。だが、現実はそう簡単ではない。

 「これまでも健康系の即席ラーメンを開発、販売してきましたが、市場にほとんど受け入れられませんでした。商品の中には、発売したものの、短期間で店頭から消えた商品も少なくありません」――あるメーカーの商品開発者はこう話す。

日清食品の特定保健用食品のカップ麺「サイリウムヌードル」シリーズ。オオバコ種皮から採れる天然の食物繊維「サイ リウム3」を麺に練り込んでいる。1 食で6.6~6.8gの食物繊維が摂取でき、「おなかの調子を整える」作用がある。1食当たり約160kcal と低カロリーで、塩分も「カップヌードル」に比べて30~40%低い。初代は1997年に発売。2013年9月にリニューアルした。

 実は健康志向の即席ラーメンは、各社が以前から商品開発を進めてきた分野だ。高齢化社会の進行とともに、健康志向が高まるだろうということは、各社とも当然想定済み。そこを狙った商品を開発してきたが、あまり消費が伸びなかったというのが実情だ。

 例えば、業界トップの日清食品の取り組みは早く、何と20年近く前の1997年からトクホ(特定保健用食品)のカップラーメンである「サイリウムヌードル」シリーズを販売している。これはサイリウムという植物由来の食物繊維を含むカップ麺で、おなかの調子を整える効果がある。カロリーは約160kcalと通常のカップヌードルの半分で、塩分も3~4割もカットしている。根強いファンがいるため20年近く継続販売しているが、現在の販路は通販が中心となっている。

健康志向の即席ラーメン、これまでの苦戦のワケ

 高齢化は確実に進んでいるのに、健康志向の即席ラーメンがこれまでなぜ苦戦していたのか。その理由は大きく2つある。

 1つは、「健康にいいものはおいしくないのでは?」という先入観である。砂糖控えめのクッキーやカロリーオフの飲料など、世の中に健康志向の食品はいろいろとあるが、どれも味が今一つというのが多くの人の評価ではないだろうか。「味が薄い=今までと違う=おいしくない」という流れで、先入観が形作られてきたように思う。最近では、十分においしいものも登場しているが、長年染みついた思い込みはなかなか変えられない。

 そして、消費者が即席ラーメンに求めているのは「健康よりもおいしさ」だということだ。興味深いことに、飲料などでは少々味が落ちても健康志向の商品を選ぶ人がある程度いるのに、即席ラーメン(とくにカップラーメン)を食べる人は、圧倒的においしさを第一に選んでいたのである。

ようやく花開きつつある健康志向の商品

最近話題のローカーボ(低糖質)に対応したカップ麺も登場した。写真は明星食品の低糖質麺シリーズ「はじめ屋」(昨年5月に発売、今年3月にリニューアル)

 今回の特集で紹介する、最近の健康志向即席ラーメンは、これまでと何が違うか。それは「おいしさ」だ。健康にいいだけではなく、味が確実に進化したのがポイント。各社ともおいしさを重視して、ダシなどに工夫をしながら開発を重ねてきた結果、今ようやく健康志向の即席ラーメンが徐々に市場に受け入れられ始めてきたのだ。さらに低糖質(ローカーボ)の麺を開発するなど、これまでにない“機能性”を実現した商品も登場している。

 実際、筆者や編集部では、今回取り上げる即席ラーメンをほとんどを実際に食べてみた。その結果は、多くが「おいしい」と素直に感じるものだった。実際、あるメーカーは商品のバイヤーに減塩だということを伏せて試食してもらったところ、バイヤーは減塩商品だと気付かなかったこともあるという。

「ロカボ」の明星、「ノンオイルスープ」のサンヨー

 現在の、大手即席麺メーカーの主な商品展開を下にまとめた。健康志向とひと口に言っても、実は各社によって取り組みの方向性が大きく異なる。詳しくは次回以降に紹介するが、例えば明星食品は「低糖質(ローカーボ)」の麺を前面に押し出しており、サンヨー食品は「ノンオイルスープ」、エースコックや東洋水産は減塩を中心に据えている。

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 即席ラーメンの発明者である日清食品創業者の安藤百福氏は、「特許を自社が独占しては大きな産業は育たない」として、1964年に製法特許を他のメーカーに公開した。これが、即席麺業界の創造的な開発競争につながり、各社から新しくユニークな商品が続々と登場した。そして今、健康志向分野で熱い戦いが繰り広げられている。

 次回以降は、各社の製品展開を詳しく見ていく。