糖質過多が招く悪循環。女性は鉄も大事
『うつ消しごはん』の著者・藤川徳美さんに聞く(第2回)
柳本操=ライター
ベストセラー『うつ消しごはん』の著者である精神科医の藤川徳美さんは、近年増加するうつ病やうつ病予備群の人たちの不調の原因は、日々の食事・栄養摂取が偏った「質的栄養失調」の影響が多い、という。うつっぽい、とまでいかなくても、日々「だるい、重い、しんどい」を感じている人は、たんぱく質を補い、糖質過多を改めることによって元気になっていくケースが多い、と藤川さんは話す。食事でとる栄養が精神面にどのように影響するのか。今回は、白米やパン、麺類など糖質に偏った食事によって起こる問題点と、女性にとって深刻な鉄不足について詳しく聞く。

藤川さんは、ご著書で、たんぱく質不足と同時に「糖質のとり過ぎ」を問題視されています。確かに、白米、パン、麺類などは手軽で満足感もあり、忙しいときはおにぎりだけ、パンだけ、で、さっとすませることもあったり、間食で甘いものが欲しくなる人も多いでしょう。
藤川さん 今の日本は「糖質過多社会」と言っていいでしょう。「健康のために」と、白ごはんに味噌汁、漬け物、といった食事をとっている人もいるかもしれませんが、これでは、活力維持に必要なたんぱく質が圧倒的に不足してしまいます。
もっと元気に暮らしたい、「だるい、重い、しんどい」を改善したい、という人には、「たんぱく質を食べなさい」「糖質を減らしなさい」、この2つが大切です、と私はアドバイスしています。
特に、摂取量を控えたいのが、白砂糖や白米、小麦粉といった精製された糖質です。
これらをとり過ぎると血糖値が急上昇します。高くなった血糖値を抑え込むために、膵臓(すいぞう)から血糖値を下げるインスリンが大量に分泌されます。すると、血糖値が急激に下がって低血糖になり、今度は血糖値を上げるホルモンが分泌されます。グルカゴン、アドレナリン、コルチゾールなど、血糖値を上げるこれらのホルモンの合成には、原料として、アミノ酸が、また、その合成を助ける補酵素としてビタミンB群、補因子として亜鉛、マグネシウムなどのミネラルが必要になります。
つまり、精製した糖質をたくさんとり過ぎると、とり過ぎたことによって必要性が増したホルモン合成のために、アミノ酸のもとであるたんぱく質、ビタミンやミネラルがたくさん使われることとなり、不足してしまうのです。
1回目でもお話ししましたが、意欲や心の安定に関わるセロトニンやドーパミン、ノルアドレナリンといった神経伝達物質の合成には、アミノ酸が重要な役割を果たしています。ビタミンB群やミネラルも同様です。これらが不足すれば、神経伝達物質が作られにくい状態となり、うつ症状、やる気が出ない、といったメンタルの症状が現れやすくなるのです。
「甘いものが欲しい!」は、糖質過多が招いている

なるほど、糖質をとり過ぎることで、やる気のもととなったり心を穏やかにする神経伝達物質を作りにくくしてしまっているのですね。イライラしたときに甘いものを口にしてしまう習慣は、逆効果なのかもしれませんね。
藤川さん もう一つ、お伝えしたいことがあります。ストレスで甘いものが欲しくなる、という現象は、私たちの体の調子を支えている「エネルギー代謝」とも深くつながっています。
機械を動かすのに電気が必要なように、私たちの体にも、「ないと動くことができない」というものがあります。それが「ATP(アデノシン三リン酸)」という物質です。
生体内のエネルギーを貯蔵したり、供給したり、運搬を仲介したりする物質で、エネルギーと交換できるお金のようなものなので「エネルギー通貨」と呼ばれることもあります。
私たちは食事で糖や脂肪をとりエネルギー代謝することによって、生きるためのエネルギー源であるATPを作り出し、活用しているのです。
しかし、糖質過多、たんぱく質不足があると、体内ではエネルギー代謝がうまくいかなくなり、ATPが不足します。
ATPの主な材料は、糖質を分解したグルコース(ブドウ糖)と、脂質の構成成分である脂肪酸です。この2つの大きな差は、「ATPを作り出す量」にあります。
糖質を材料とするエネルギー代謝において、糖質を好気性解糖で完全燃焼すれば、グルコース1分子からATPは38個作られます。しかし、糖質過多で、ビタミン、ミネラル不足になると好気性解糖に入れず、嫌気性解糖となり、作られるATPは2個、すなわちATP不足になるのが大問題なのです。つまり、単純に糖質が悪いのではなく、ビタミン、ミネラル不足で糖質を完全燃焼できないことも問題です。これが、私の提唱する「質的栄養失調」です。