「家は戸建て、子は2人、妻は専業主婦」というモデルケースの2周目はない
フリーライター 武田砂鉄さんに聞く「あえてクリアにしないという選択肢」【2】
森脇早絵=フリーライター
逆に言うと、男性の方は何も知らずに就職してしまって、給料をもらえるから特に疑問を持たないまま会社に慣れていく、社会のシステムに入っていくということですね。
武田 かつて団塊世代が一気に定年退職を迎える「2007年問題」が話題になりましたが、自分が大学を出て会社に入ったのが2005年でした。そういう世代の話をこってり聞きました。そのお題目の多くが、簡略化すると「オレたちがやったことをもう一度やってくれよな!」でした。
嫌です、と言っちゃいましたし、その思いは今でも変わりませんが、僕らの世代で、「よーし、もう一回」って乗り気になっている人は意外と多いのかもしれません。
でも、働く現場を見ていれば、派遣切りにしろ、ブラック企業にしろ、「あー、もう2周目なんてないんで」と思わせるような出来事ばかりです。政府の施策をみても、労働者派遣法の改正や、導入を模索しているホワイトカラーエグゼンプションなど、このまま2周目に入らせてくれるとは思えない取り組みばかり。2周目に入れるかどうかというより、そのトラック自体が液状化して溶けそうになっている、ともいえるのかもしれませんね。
そして、2周目からこぼれ落ちた人に対して、あかたも社会不適合者であるかのような目線を向けるべきではありません。「そのまんまもう一回やろうぜ!」という身勝手なハイテンションが、そのまま誰かの生きづらさを増幅させているのではないかなと。
1周目のラストスパートにいる世代は、基本的に、既存のシステムで逃げ切ろうとします。「2周目やれよ」と言われて素直に頷いて、彼らが引退した後に「おい、そんなんじゃ駄目だ」ってやってきて、OB特有の説教が始まるのは本当に勘弁願いたいですよね。
新しい働き方、生き方の答えはない
そういう意味で言うと、新しい生き方や働き方が提示されなければならないのに、上の世代から引き継ぐような形で「2周目」が強調されているという。
武田 「新しい働き方」について話す人はたくさんいますけれど、「ほかにどういう選択肢があるんですか」って聞きたいだけなのに、私は仕事を辞めて全てがハッピーになりました、と宣言したがる記事も多く見かけますよね。そういう人って辞める前もハッピーだったんじゃないか、と疑います。
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