「家は戸建て、子は2人、妻は専業主婦」というモデルケースの2周目はない
フリーライター 武田砂鉄さんに聞く「あえてクリアにしないという選択肢」【2】
森脇早絵=フリーライター
「今の50~60代が築いてきた“あるべき家庭”のモデルケースを、僕らの世代で繰り返すのは無理です。でも、そうはいっても『これが成功例』と教育されるから、ついそこに縛られてしまう。生きづらさが生じる原因がここにもあるのではないでしょうか」。
『紋切型社会 言葉で固まる現代を解きほぐす』(朝日出版社)の著者である若手論客・武田砂鉄さんに、人が息苦しさを感じる背後にあるものは何かを聞いた。(前回はこちら)
会社を辞める時、男性と女性で反応が真っ二つに分かれた
武田さんはフリーランスになる前に、出版社に勤めていたそうですが、編集者という職種は会社の中でもどこか独立しているというか、性差がなく、立場も関係なく、個人として役割を持っているような印象があります。会社で働く中で男女の生き方の違いなどで何か感じたことはありましたか?
武田 編集者をしていた出版社を辞めたのは2年ほど前ですが、この出版不況の中でフリーのライターをやるというのは、どうやら「それだけはやめておけ!」と思われる選択肢だったらしく、とにかくいろいろなことを言われました。
前回、「男の○○」と括る行為を否定しておいてなんですが、フリーになることを伝えると、周囲の男性たちはとにかく深刻そうな顔で私に「家庭は大丈夫なのか」とか「奥さんを養っていけるのか」と聞いてきました。逆に女性たちは「頑張ってね」「楽しみにしてる」と言ってくれました。さほど友人も多くないのでサンプル数が少ないんですが(笑)、こうも違うのかと、反応が真っ二つに分かれたことに驚きました。
もちろん、フリーになって家族を養っていけるかどうかなんて、その時点では全く分かりませんでしたが、そんなことわざわざ聞かれなくて結構。そもそも、男性が会社を辞めると聞いた途端に、躊躇なく「家族を養えるのか?」って議論が始まること自体、なんだか古い。こちらは別の線路に移ろうとしているのに、「線路から脱線しそうになってるぞ!」って指摘されても、というか。
そこで何となく、男性の中にある「立場主義」が見えるような気がします。辞めるきっかけは何かあったのですか?
武田 もともと、大学時代からライターの仕事をしていましたから、いつか書く仕事を、という気持ちがどこかにありました。編集者として多くの小説家、ジャーナリスト、ノンフィクション作家の方々と仕事をするなかで、その思いがじわじわ強まっていたところに、『紋切型社会 言葉で固まる現代を解きほぐす』(朝日出版社)を書く話をいただいて、タイミングとしては今しかないのかな、と思いました。
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