「人の命より経済優先」の社会的暴力に押しつぶされちゃダメだ
アナキズム研究の政治学者 栗原康さんに聞く「生きづらさからの脱却」【3】
森脇早絵=フリーライター
第1回「『男の役割』『女の役割』にとらわれている限り、生きづらさは続く」、第2回「疲れたら満員電車を降りてもいい」で、「人はもっとワガママでいい。疲れたら迷惑なんか考えずに時間をつくって、好きなことをやればいい」と語った、アナキズム思想を研究する政治学者・栗原康さん。
しかし、「そうは言っても……」と思う読者もいるかもしれない。ワガママを通した後に何が見えてくるのか。なぜ、ワガママが大事なのか。栗原さんインタビューの最終回では、「ワガママな生き方」についてもう一歩踏み込んだお話を紹介する。
限界が来そうだったら、
家族の同意がなくても会社を休んでしまえばいい
前回、「休みたいと思った時は、周りの迷惑を考えずに休んでしまった方がいい」というお話を伺いました。ただ、疲労が蓄積してそろそろ限界だ…という状態になってしまっても、特に家庭を持つ男性は、長期で休みを取ることが家族に理解されづらいかもしれません。
栗原 そうですね。僕は基本的に、できれば男女とも働かないでいけたらいいと思うんですけど(笑)。とはいえ、男が働いて、女が家を守るというふうに役割分担する人たちは、たくさんいますよね。
できるなら、男性が「仕事を休みたい、辞めたい」と言ったら、女性が「私が働くよ」と言えるよう社会になればいいと思います。
もちろん、夫婦の間でそこまで合意が取れないこともあるでしょう。でも、多くの男性は辛くても仕事を続けていきますから、放置すればうつ病になったり、下手をすると過労死や自殺という結末になってしまう可能性もあります。
だから、本当にやばいと思ったら、家族の合意が取れなくても仕事を辞めてしまっていい。身を守っていいと思うんですよね。今の仕事を辞めて、もうちょっと楽な仕事に就こうと自分で決めてしまえばいい。それで人に「ワガママだ!」と言われても、「ワガママ上等!」でいいじゃないですか。
本当に辛いと感じたら、登校拒否するのと同じで、とりあえず会社に行かないようにする。ごちゃごちゃ考えずに、行動してしまうことが大事だと思います。
やってみたら、案外何とかなると思います。そのあと家族と話し合ったら、奥さんや子どもが「お父さん、ゆっくりしようよ」と言ってくれるかもしれない。いずれにしても、そこから何かが生まれてくると思うんです。
自分でつくった「自由な時間」は、いつか活路になる
栗原さんは高校生の時、満員電車を途中駅で降りて、本をたくさん読むようになったとおっしゃっていました。そこで大杉栄との出会いもあったそうですが、一度ドロップアウトして、空いた時間で自分の好きなことをやったことが、今のお仕事につながっています。休みをとっても、そこで好きなことをやって活路になるのならば、素晴らしいことではないかと…。
栗原 絶対そうだと思います。僕は高校生の頃、学校に行かなかった時間がとても大事でした。実はこの5年間ほどは、ほとんど働かない時期でもあったのですが、そういう自由な時間が、今の自分にとってすごくデカいんですよね。
自由な時間に大量の本を読んでいました。お金がないから本は買えなかったのですが、友だちにもらったり、大杉栄の本を何度も読み返したりして。無駄に時間だけあるんで、音読や写経もやったり(笑)
でも、それが本を書くきっかけにつながりましたからね。だから、ドロップアウトしても、割り切って「時間を自由に使っちゃうぞ」と思えば、どんどんプラスのパワーに変わっていくと思います。経験上、そう感じました。
休むと罪悪感を抱いてしまうこともありますが、好きなことをやっていれば、いつか役に立つかもというくらいのポジティブさで踏み込めばいいのかもしれませんね。
栗原 そうですよね。20~30代で引きこもっている人たちの中には、そう考える人が徐々に増えてきていますけど、40~50代の人たち、特に男性の方たちもそう言えるようになってくればいいなと思います。
以前、僕の本を読んでくれた60代の女性から電話をいただいたことがありました。その方は「女性はもう解放されているのよ!これから解放されなきゃいけないのは、男性だと思う」と言って、息子さんの話をしてくれたんです。
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