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男のストレス事情

「男の役割」「女の役割」にとらわれている限り、生きづらさは続く

アナキズム研究の政治学者 栗原康さんに聞く「生きづらさからの脱却」【1】

 森脇早絵=フリーライター

夫婦関係、恋愛関係は、「友情」をベースにするといい

「役割」にとらわれすぎていることが、家庭でも、仕事をするという意味でも、人を息苦しくさせているということですね。「女性は家に入るべき」や、「男性は稼ぐべき」という考えに従わなくてもいいと。そういう固定観念を外していくことが大事なのでしょうか。

栗原 大事だと思いますね。役割が頭の中にあるから、それ以外のことが出てこなくなっちゃうんだと思います。

 伊藤野枝の話で面白いと思ったのが、恋愛関係、夫婦関係でも、うまくやっていくためには、基本に「友情」があるべきだ、ということです。

 そもそも、友だち同士って支配関係がありませんよね。支配関係になったら、会社の上下関係のようになってしまう。だけど、家庭では無意識のうちにそういう関係が築かれています。社会で金を稼いでくる主人と、それを支える妻、という関係です。共働きでも、女性の方が家事を負担するウェイトが大きいんじゃないかなと思います。

 そういう風にならないためには、「友情」をベースにするのが一つの答えだと野枝は言っているんです。

 友だちということは、役割を背負わされている集団の一員ではないということです。全く別の個性を持った、個人と個人がいるということ。こういう考え方がベースにあれば、男女が生活するときに、両方がプラスの影響を与え合うことができます。

 例えば、女性には繊細な面があり、男性には力強い面があったとする、逆でもいいですけど。お互いにないものを持っています。ああ、こんな楽しいことがあったのかと、自分一人では気付きもしなかったことに気付かされたり、そのための知恵を得たり。自分一人ではできなかったことも、できるようになります。

 そういうふうに、お互いがお互いの個性をぶつけ合いながら、自分一人ではできなかったことがやれるようになっていくと考えると、もっと二人の間に広がりが出てくると思うんです。

 さらに考えていくと、別に家族の形は何でもよくて、男女のカップルだけで暮らす必要は全然ないと思います。そこに友だちが入ってきてもいい。

 その方が、子育てもやりやすかったりするんです。夫婦だけだったら、どちらか一人が子どもの面倒をつきっきりで見ざるを得なくなる。でも、家庭の中に何人かの友だちがいれば、大家族と同じように、一人あたりの負担が軽くなります。メリットは子育てだけじゃありません。お互いが知らないような、生きるための知恵や知識をシェアすることもできる。

 伊藤野枝は、人間は、機械の歯車のようなものだと表現しています。これ良い意味で言っています。歯車と歯車を噛み合わせていくと、全く違う動き方をする。たくさんの歯車を合わせれば、大きく動くし、どんどん違う動き方をする。人間はそういう機械のようになればいいんじゃないかと言っているんです。

 野枝は、家庭も、子どもも、恋愛も、好きな仕事も諦めませんでした。生涯を懸けて全てと向き合った結果、こういう答えを出した。これは、人が息苦しさを解消するための一つの突破口ではないかと思います。(つづく)

(写真:菅野勝男)

栗原 康(くりはら やすし)さん
政治学者、東北芸術工科大学非常勤講師
栗原 康(くりはら やすし)さん 1979年埼玉県生まれ。早稲田大学大学院政治学研究科・博士後期課程満期退学。専門はアナキズム研究。著書に、第5回「いける本大賞」受賞、紀伊國屋じんぶん大賞2015第6位となった『大杉栄伝-永遠のアナキズム』(夜光社)。ほかに『G8サミット体制とはなにか』(以文社)、『はたらかないで、たらふく食べたい 「生の負債」からの解放宣言』(タバブックス)、『村に火をつけ、白痴になれ 伊藤野枝伝』(岩波書店)、『現代暴力論 「あばれる力」を取り戻す』(角川新書)などがある。

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