日経グッデイ

ビジネスパーソンのコーヒー学 ~コーヒーと健康最前線~

コーヒー摂取で「気をつけるべきこと」は何か

第6回 ちゃんと知りたい! コーヒーのいいこと・悪いこと――ネスレ日本の福島洋一さんに聞く(前編)

 柳本操=ライター

みんなが毎日飲んでいる香り高いコーヒーは、体にいいことづくめだった!以前は「カラダに悪い」と言われていたコーヒーが、最新の研究により「カラダにいい」ことが続々と明らかになっている。日経グッデイでは、最新の「コーヒーの健康効果」を専門家の方々に直撃して話を聞いた。第6回となる今回は、世界中のコーヒー研究を常にチェックしているネスレ日本の福島洋一さんに、「コーヒーと健康」の最新研究事情と、コーヒー摂取で気をつけるべきことについて聞いた。(後編はこちら

コーヒーはメンタル面にいい影響を及ぼすという研究結果が出ている。さらにシミの抑制効果も期待できるという。今回は「コーヒーと健康」の最新研究事情と、コーヒー摂取で気をつけるべきことを聞いた(©Somsak Sudthangtum -123rf)
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 コーヒー特集ではこれまで、がん予防生活習慣病予防ダイエット効果など、ビジネスパーソンに嬉しいコーヒーの健康効果を報告してきた。

 コーヒーに含まれるポリフェノールの一種「クロロゲン酸類」にはさまざまな健康効果が期待できることが明らかになった。となると、「他にもいい効果があるのでは?」と期待してしまう。その一方で、ここまで「いいことづくめ」だと、「カラダによくないこともあるのでは?」という思いも頭に浮かんでくる。

 そこで今回は、コーヒー関連商品を幅広く扱うネスレ日本の“コーヒー博士”福島洋一さんに、コーヒーと健康の最新研究事情と、コーヒー摂取で気をつけるべきことについて話を聞いた。

コーヒーは、赤くて甘い実の種子からできる

これまで、5回に渡ってコーヒーのカラダへの効果をお伝えしてきたのですが、本当に「カラダにいいことだらけ」であることがわかって驚いています。コーヒー好きとしては嬉しい半面、ちょっと怖いくらいです。今回は、世界中のコーヒー研究を常にチェックしている福島さんに最新の研究事情を伺えればと考えています。いいことはもちろんですが、コーヒーを飲む上で気をつけるべき点についても、ぜひ教えてください。

福島さん わかりました。これまでの特集記事にも掲載されていましたが、ここ20年くらいの数々の研究で、コーヒーにはさまざまな健康効果があることがわかってきました。常に最新研究をウォッチしている私も、時にはついていけなくなることがあります。今回、取材でお話しするにあたって改めて調べただけでも、新たな発見がいくつもありました。

なぜコーヒーに健康効果があるのでしょうか?

コーヒーが実をつけているところ。その見た目から「コーヒーチェリー」と呼ばれている(写真提供:ネスレ日本)
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福島さん 私は、コーヒーという植物の成り立ちに、その秘密があると考えています。コーヒーは「コーヒー・ベルト」と呼ばれる南北回帰線の間にある熱帯、亜熱帯地域(南米、アジア、アフリカなど)で栽培されています。このような南国にあるフルーツは、虫や病気から身を守るため、硬い殻に包まれていることが多いんです。カカオやココナッツなどはその代表ですね。

 ところが、コーヒーは花を咲かせた後、甘くて柔らかい果肉の果実をつけます。その見た目からコーヒーの果実は「コーヒーチェリー」と呼ばれています。このコーヒーチェリー、実を食べることができるんですよ。

あの硬いコーヒー豆からは想像もつきませんね!

コーヒーの実を割ったところ。果肉の中に種子(写真上)がある。これがコーヒー豆(写真提供:ネスレ日本)
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福島さん そうなんです。この柔らかいコーヒーチェリーが、熱帯、亜熱帯の厳しい環境の中で生存できる秘密、そこにあるのが、コーヒー果実に含まれるカフェインや、クロロゲン酸などのコーヒーポリフェノールなのです。前回の記事でも書かれていたように、ポリフェノールは、植物が強い紫外線や活性酸素などから身を守るために自ら生成した抗酸化物質です。これらの成分は、果肉のさらに内側にあるコーヒーの種子にも豊富に含まれています。

 コーヒー豆を焙煎して熱湯で抽出して飲む、という習慣は、まさに植物が自らを守るために身にまとっていたポリフェノールやカフェインを私たち人間が体に取り込む、賢い方法だったというわけです。

「夫を早死にさせる十カ条」にコーヒーが含まれていた!

ところが、ひと昔前まではコーヒーは体に悪いのでは、という考えが長く根付いていたのですね。

福島さん おっしゃるとおりです。そういった考えが一般的だったというのがわかる、面白い発表があります。

福島洋一さん。ネスレ日本 ウエルネスコミュニケーション室室長。1988年、東京農工大学農学部農芸化学科卒業、1990年に同大学大学院修了後、ネスレ日本に入社。1999年博士号(農学)取得。ネスレ中央研究所(ローザンヌ)、ネスレリサーチ東京R&Dプロジェクトマネージャーを経て2010年より現職。
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 1970年にハーバード大学栄養学教室だったJean Mayer教授が、「夫を早死にさせる十カ条」という皮肉を込めたチェックシートを発表しました。そこには、気楽な未亡人になりたければ、「太らせましょう」「強いお酒を飲ませなさい」「夫をいつも座らせておきましょう」「塩分の多い食べ物に慣れさせましょう」「たばこをすすめましょう」といった“体に悪影響を及ぼす”アドバイスが合計10個書かれているのですが、その中にコーヒーに関する記述があるのです。

 そこには、「コーヒーをせっせと飲ませましょう。心臓発作はすぐには起きませんが、チャンスを逃してはいけません」と書かれています。当時は、コーヒーはカラダに悪いという認識が一般的だったのですね。

 コーヒーは、たばこやお酒と同様に“嗜好品”の一種です。「コーヒーはカフェイン」「たばこはニコチン」「お酒はアルコール」というように、それぞれ特徴的な化学物質を含んでいます。ニコチンやアルコールについては、ご存じの通り、健康への弊害のほうが大きいことがさまざまな研究から明らかになっています。コーヒーもそれらと一緒のものとして括られて、“カラダに悪そうな飲み物”という印象を持たれることが多かったのかもしれません。

コーヒーは最も研究が進んでいる食品の一つ

その後、世界中で疫学調査が進み、コーヒーは肝臓がん、糖尿病などの予防と関係することが明らかになってきたのですね。

福島さん コーヒーはあらゆる食品の中で、最も疫学調査が進んでいる食品の一つです。疫学調査のなかでも、何万人という大勢の人を集めて5年後、10年後の健康度を見るという信頼度の高い研究が「大規模前向きコホート研究」です。その研究を見渡してみると、コーヒーがリスクを下げる可能性がある疾患は多方面に及んでいることがわかります(下表を参照)。

『コーヒー飲用によってリスクが下がる可能性が報告されている主な疾患』
対象疾患著者(発表年)
心血管疾患Ding M et al.(2014)
脳卒中Larsson SC et al.(2011)
2型糖尿病Ding M et al.(2014)
メタボリック症候群Shang F et al. (2015)
肝臓がんSang LX et al.(2013)
パーキンソン病Qi H et al.(2014)
うつ病Wang L et al. (2015)
総死亡Zhao Y et al. (2014)
大規模前向きコホート研究のメタ分析が行われた疾患から代表的なものをまとめた

コーヒーは「メンタル」にもいい効果を及ぼす

福島さん 私が注目している最新の米国のコホート研究があります(Circulation,132(24),2305-15,2015)。米国の医師、看護師、医療従事者20万人以上を対象に、およそ20年以上観察したという調査で、コーヒーを飲む量が多いほど総死亡リスクは低くなるのですが、心疾患や脳卒中のほか、自殺による死亡も少なくなっていることが示されています。

コーヒーが、メンタルにも作用する、ということですか?

福島さん そうです。この調査以外にも、例えば「コーヒーを全く飲まない女性に比べて1日に2杯以上飲む女性の自殺の相対リスクは約60~70%、有意に低下する」という報告が米国で発表されています(下図を参照)。

コーヒー摂取量と「自殺」「うつ」に関する疫学調査の結果
米国のNurses' Health Studyの疫学調査によると、コーヒーを飲む女性は、全く飲まない女性に比べ、自殺やうつ病のリスクが有意に低下することが確認できた。自殺は8万6000人を対象とした10年間の追跡調査(Arch Intern Med,156,521-25,1996)、うつ病は5万人を対象とした10年間の追跡調査(Arch Intern Med,171,1571-78,2011)
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 コーヒー摂取とうつに関する疫学研究も多数あり、やはりコーヒーを飲む量が多いとうつ病のリスクが低下するといった結果が出ています。

 コーヒーとメンタルがどう関わるかについてのメカニズムは、はっきりと解明されたわけではありません。カフェインの覚醒作用や、コーヒーを飲むことによるリラックス作用などが関わるのではないかと考えられています。ただし、カフェイン摂取は、うつ病で問題となる睡眠障害にも関わるため、飲み方には注意が必要です(カフェインについては、次回詳しく紹介します)。

コーヒーをよく飲む人は肌のシミが少ない

前回も紹介しましたが、コーヒーは日本人にとって手軽でコンスタントにポリフェノールを摂取することができる、重要な供給源になっています。これまでの連載で幾度となく登場しましたが、クロロゲン酸に代表されるコーヒーポリフェノールが、カラダにいい効果を及ぼしているということでしょうか。

福島さん そう考えています。ポリフェノールには活性酸素の害を打ち消す「抗酸化作用」があります。これが血管、肝機能などをはじめ、さまざまな面でいい影響を及ぼしている可能性があります

 病気だけではなく、「肌」への効果も注目されています。肌は紫外線に常にさらされています。コーヒーポリフェノールによるポジティブな効果が期待できるのではないかというわけです。2011年に、お茶の水女子大学大学院の近藤和雄教授のチームによる、30~60歳の非喫煙女性131人を対象にした、コーヒーの摂取量と肌状態の最初の解析が行われました。

コーヒーを飲んでいる人はシミが抑制されている可能性がある
30~60歳の非喫煙女性131人を対象に、食事と肌状態の解析を行ったところ、コーヒーポリフェノール(クロロゲン酸類)の摂取量が多いほど紫外線によるシミが少ない傾向があることがわかった。コーヒーを飲んでいる人はシミが抑制されている可能性がある(Int J Dermatol 54,410-18,2015)

 すると、コーヒーポリフェノール摂取が多いほど、紫外線による「シミ」が少ないことが確認できたのです。この分野はまだ研究が始まったばかりということもあり、詳しいメカニズムはまだ解明されていません。シミの発生には肌細胞の遺伝子変異が関与し、紫外線により発生する活性酸素も影響しているといわれています。コーヒーポリフェノールの活性酸素と戦う力がシミの抑制に寄与している可能性が考えられます。

 その後も、シミに関する調査は続けられ、子ども時代にはシミは存在せず、大人、特に中高年になるとシミは増えていくこともわかってきました。シミは18歳から20歳ぐらいの年齢で一気に生成が進むのですが、ポリフェノール摂取量が多い人はシミの生成速度が低い傾向が確認されています。成人になってからも、ポリフェノールを多く摂取することでシミの面積が拡大するのを抑えられる可能性もあるのです。

コーヒーは骨密度を下げ、貧血を促進する?

コーヒーは、病気予防だけでなく、見た目の若々しさにもうれしい効果を発揮してくれているのですね! しかし、いいことばかりが多すぎないですか? コーヒーがカラダにネガティブに働くというケースはないのでしょうか。

福島さん 体によいからといってたくさん摂ればよい、というわけではありません。何事も適量というものがあります。コーヒーはカフェインを多く含んでいますから、個人差はありますが、飲む量や飲み方に注意が必要な場合があります(カフェインについては次回紹介します)。

 カフェインは、カルシウムの排泄を高める性質があるため、コーヒーを飲む量が多いやせた女性は骨密度が低くなるのでは、という指摘があります。一方、複数のコホート研究をまとめたところ、コーヒーの飲用は、骨密度への影響はなかったというメタ分析結果も最近発表されています。

 また、私自身、「コーヒーを飲むと貧血になるのではないか?」という質問をよく受けます。コーヒーに含まれるポリフェノールは、タンニンの仲間なのですが、これらがミネラルの吸収を抑えるため、貧血になりやすいのではないかというものです。動物実験での過剰投与ではこうした現象が確認できます。しかし、コーヒーを飲むことによって貧血が増えるわけではないことは疫学調査によりわかっています。

 カルシウムや鉄は重要なミネラルです。まずはこれらの栄養素が摂取不足にならないようにすることが大切です。また骨の健康のためには適度な運動は忘れてはなりません。健康的なバランスの取れた食生活の中で、コーヒーを適度に飲用することがお勧めといえます。

          ◇        ◇        ◇

 コーヒーの効果が、糖尿病などの生活習慣病だけでなく、シミの生成抑制など“見た目の若さ”にも影響しているとは驚きだ。しかし、コーヒーの摂取はすべてがいいことばかりではない。特に気になるのが“カフェイン”について。次回は、コーヒーのカフェインのメリット、デメリットについて詳しく聞いていく。



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福島洋一さん
ネスレ日本 ウエルネスコミュニケーション室室長
福島洋一さん 1988年、東京農工大学農学部農芸化学科卒業、1990年に同大学大学院修了後、ネスレ日本株式会社に入社。1999年博士号(農学)取得。ネスレ中央研究所(ローザンヌ)、ネスレリサーチ東京R&Dプロジェクトマネージャーを経て2010年より現職。