日経グッデイ

ビジネスパーソンのコーヒー学 ~コーヒーと健康最前線~

お酒の後はコーヒー!? 肝機能、痛風にも効果あり

第3回 メタボに悩むビジネスパーソンはコーヒーを!――国立健康・栄養研究所 古野純典さんに聞く(前編)

 柳本操=ライター

みんなが毎日飲んでいる香り高いコーヒーは、体にいいことづくめだった! 以前は「カラダに悪い」と言われていたコーヒーが、最新の研究により「カラダにいい」ことが続々と明らかになっている。日経グッデイでは、最新の「コーヒーの健康効果」を専門家の方々に直撃して話を聞いた。第3回となる今回は、生活習慣病とがんの予防を専門に研究を行ってきた国立健康・栄養研究所所長の古野純典さんに話を伺った。(特集 第1回の記事はこちら

コーヒーは肝機能障害、痛風、糖尿病などの生活習慣病に効果があることが明らかになっている。メタボに悩むビジネスパーソンにはコーヒーがおすすめだ(©Somsak Sudthangtum -123rf)
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 健康診断のたびに、「血糖値」「尿酸値」「肝機能」などの数値の欄をおそるおそる眺めている読者も多いだろう。気をつけようと思っても、なかなかコントロールしづらいのが食生活とアルコール。しかし、肝臓はいたわらないと肝硬変や肝臓がんリスクが心配だ。痛風の痛みも、かなりつらいと聞く。糖尿病ともなれば網膜や腎臓への深刻な合併症が不安だ――。

 そんなメタボ不安を解消してくれる救世主がコーヒーだ。コーヒーは肝機能障害、痛風、糖尿病というビジネスパーソンを悩ます生活習慣病に効果があることが明らかになっている。コーヒーを飲む習慣が「肝機能」「尿酸値」「血糖値」の数値すべてに、いい効果をもたらすという。

 今回は、生活習慣病とがんの予防を専門に研究してきた国立健康・栄養研究所所長の古野純典さんに話を聞いた。古野さんは、30年前からコーヒーと肝機能、糖尿病などの関係に着目し、研究を行ってきた。ビジネスパーソンにとっては聞き逃せないコーヒーパワーについてさっそく話を聞いていこう。

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コーヒーの肝機能への効能は「飲んべぇ」ほど効く

古野先生は、30年も前からコーヒーをテーマに研究をされているのですね。そもそも先生は、どうしてコーヒーに目をつけられたのですか?

古野さん 私の専門は「予防医学」です。どうすれば生活習慣病やがんなどの病気を予防し、健康に長生きできるのか――というテーマで長年研究してきました。

古野純典さん。医薬基盤・健康・栄養研究所 国立健康・栄養研究所所長。1949年、長崎県生まれ。1974年、九州大学医学部卒業。81年にロンドン大学疫学修士課程修了。福岡大学医学部助教授(公衆衛生学講座)、防衛医科大学校教授、九州大学大学院医学研究院教授を経て現職に。
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 私は1980年代後半から、自衛官の男性を対象に肝機能の数値などを調査する研究を行いました。その自衛官の健診データを解析していくうちに、「コーヒーを飲んでいる人は肝機能検査の数値がいい」という傾向が確認できたのです。手軽に飲めるコーヒーがカラダにいいなら、こんなにいいことはないですよね。それでもっと突き詰めようと思ったのです。

 1992年には、米国の研究者であるアーサー・クラツキー氏らによって「コーヒーを飲む量が多いほど、アルコール摂取による肝硬変リスクが下がる」というコホート研究が発表されました(編集部注:同氏らは、その後も12万5000人を対象に22年間追跡する大規模研究によって、「毎日4杯以上コーヒーを飲む人は全く飲まない人に対してアルコール性肝硬変の発症率が5分の1になる」という報告を2006年に行っている)。当時、同じようにコーヒーに目を付けていた私は、彼らの報告に大いに刺激を受けました。

アルコール摂取時のγ-GTP値の変化
アルコールを摂取するとγ-GTPの値は上昇する。その際、コーヒーをほとんど飲まない人に比べて、毎日コーヒーを飲んでいる人のγ-GTP値の上昇率は低くなる傾向が確認できた(自衛官健康調査1986-1992年、Am J Epidemiol 1994;139:723-7)
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 防衛医科大学校にいた頃に2500名の自衛官のデータをまとめて解析した結果、ビール2本分程度のアルコールを摂取した人の「γ-GTP」の値は、コーヒーをほとんど飲まない人よりも毎日飲む人のほうが平均で10以上も低いことがわかりました(右のグラフ)。γ-GTPは、肝臓の状態を判断する指標の一つで、アルコールを飲んだときに上がります。つまり、「アルコールにより肝機能が悪くなるのを、コーヒーが抑える」わけです。私どもがその研究結果を論文にまとめたのが1994年のことです。

*ALT(GPT)とAST(GOT)、γ-GTPは、肝臓の状態を判断する基本的な指標。AST、ALTは肝細胞のなかでアミノ酸の代謝に使われる酵素。肝細胞が壊れると、血液中に漏れ出てくるため、数値が高くなる。この数値とバランスから、肝細胞の壊れ具合や原因疾患を知る手がかりになる。γ-GTPは肝臓で作られ、アルコールを飲みすぎたときに高くなる。詳しくは「糖質のとりすぎは肝機能の数値でチェックできる」の記事を参照)。

コーヒー以外の飲み物では効果はなかったのですか?

古野さん 緑茶でも調べましたが、肝機能との関連は見られなかったですね。

「ALT」「AST」「γ-GTP」の3要素いずれにも効果あり

肝臓の状態を見る指標というと、γ-GTPの他に、AST、ALTの値も重要です。これらへの影響はあるのですか?

古野さん AST、ALTも改善します。私は、防衛医科大学校から九州大学に移ってから、コーヒーと生活習慣病の関係をより詳しく調べてみようと、福岡市東区の住民男女を対象に、コーヒー飲用と「ALT」「AST」「γ-GTP」という肝機能数値の関係を調べました。すると、「ALT」「AST」「γ-GTP」の3つの数値ともに、コーヒーの摂取量が多くなるほど低くなる傾向が確認できました。

コーヒーの摂取量が多くなると、ALT、AST、γ-GTPの3つの数値ともに低くなる傾向が確認された(九州大学福岡コホート研究・基礎調査2004-2007年、Scand J Chin Lab Inv 2010;70:171-9)
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 飲酒量が多い人ほど、コーヒーを飲むことでALT、AST、γ-GTPの値がより低くなる傾向も確認できました。飲酒量が多い人ほどコーヒーの肝機能保護効果は高くなる、つまり「酒飲みにはコーヒーはうってつけ」というわけです(笑)。この研究結果は、2010年に論文にまとめました。

 「コーヒーがアルコール飲用による肝機能低下を抑える」という報告は、1980年代後半以降、15年ほどの間でノルウェーやイタリア、フィンランド、米国などからも多数発表されています。コーヒーが肝機能にいい効果を及ぼすのは間違いないでしょう。

飲み会の〆はデカフェ、飲んだ翌朝にもコーヒーを

実際、国立がん研究センターの研究によると、コーヒーは肝臓がんリスクを下げることも「ほぼ確実」だということもわかっています(前回の記事を参照)。コーヒーは肝臓にいいのですね。では、コーヒーのどの成分が、肝臓にいい効果を及ぼしているのでしょうか。

古野さん 肝臓を守るカギとなるのは、コーヒーに豊富に含まれるポリフェノールの一種クロロゲン酸だと考えています。クロロゲン酸は強い抗酸化作用があります。これが肝機能にいい影響を与えるのでしょう。実際、動物にクロロゲン酸を投与した研究報告も非常に多くあり、効果が確認されています。

なるほど。お酒を飲む人は積極的にコーヒーを飲んだほうがいいわけですね。具体的にどんな風にコーヒーを飲めばいいのでしょう?

古野さん 飲んだときに飲むのが一番いいのですが、実際のところお酒を飲みながらコーヒーというのはないでしょう。お酒の後はラーメンで〆ずに、コーヒーで〆てはどうでしょうか。アルコールによる肝機能の低下を抑えてくれます。

 ただ、夜遅くコーヒーを飲むとカフェインの覚醒効果が働いて眠れなくなってしまうので、その際はカフェイン抜きの「デカフェ」を選ぶ。最近はデカフェのコーヒーも入手しやすくなりました。さらに、翌朝もコーヒーを飲むと、前日夜に飲んだアルコールの代謝で疲れた肝臓を元気づけることができますよ。

コーヒーは痛風にも効果あり

コーヒーは他の生活習慣病に対しても効果があるのでしょうか?

古野さん あまり知られていないのですが、実はコーヒーは痛風にも予防効果を発揮するのですよ。

コーヒー摂取量と尿酸値の関係
1日あたりのコーヒーを飲む量が1~2杯、3~4杯、5杯以上と多くなるほど、尿酸値が低下することが確認された(British Journal of Nutrition 1999;82:125-130)
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 自衛官を対象にした調査のデータ解析をした際に、コーヒーを飲む習慣がある人は尿酸値も低いことがわかりました。しかも、1日あたりのコーヒーを飲む量が1~2杯、3~4杯、5杯以上と多くなるほど尿酸値が低下しやすい、ということが判明しています。この研究結果は1999年に英国の専門誌に発表しました。

 コーヒーを飲む量が、「1日1杯未満」の人の尿酸値が5.88mg/dLだったのに対して、「1~2杯」では5.75mg/dL、「3~4杯」では5.69mg/dL、「5杯以上」では5.56mg/dLとなっています。同様の調査を緑茶に対しても行っているのですが、緑茶については有意な傾向は見られませんでした。

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 前回紹介したように、コーヒーは肝臓がんの予防に効果があることがわかっている。コーヒーが肝臓に対していい効果をもたらすのは間違いなさそうだ。さらに、痛風にも効くとなると、メタボなビジネスパーソンにはうってつけだ。古野さんによると、コーヒーの効果はまだあるという。何と、2000万人もの病気・予備軍を抱える国民病の1つ、糖尿病の予防に効果があるというのだ。明日公開の後編で詳しく報告しよう。



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古野純典さん
医薬基盤・健康・栄養研究所 国立健康・栄養研究所所長
古野純典さん 1949年、長崎県生まれ。1974年、九州大学医学部卒業。81年にロンドン大学疫学修士課程修了。福岡大学医学部助教授(公衆衛生学講座)、防衛医科大学校教授、九州大学大学院医学研究院教授を経て現職に。