高血圧「上140、下90」の根拠は何か
生活改善で目指すベストの血圧は「120/80mmHg」未満
宇津貴史=医学リポーター
「高血圧」。誰でも知っている言葉だろう。しかしその正確な意味をご存じだろうか。血圧が「高過ぎる」と、何を基準に判断しているのか。また「ここまで下げなさい」という値には、どんな根拠があるのか─。高血圧の基準値や、血圧を下げる目標値が決まるまでの舞台裏を、少しだけのぞいていみよう。
そもそも、「高血圧」とは何なのだろうか。
簡単に言えば「今、放置しておくと将来しっぺ返しを食らう」血圧だ。「今、不健康な人の血圧」ではない。高血圧の人の大半は、血圧が高いことに不具合を感じていないだろう。しかし放置すれば十数年後、心筋梗塞や脳卒中など、血管に関係する大変な病気(脳・心・血管系疾患)に倒れる可能性は、高血圧でなかった人に比べて確実に高くなる。時限爆弾を体内に抱えているようなものだ。
高血圧は「今の体調」ではなく「将来の健康」の目安
現在、日本高血圧学会では高血圧の一般的な基準を「140/90mmHg以上」(*1)と定め、生活習慣の改善に努めても血圧がその値を下回らない場合、降圧薬による治療を始めるよう勧めている。
これを踏まえ、(1)高血圧の基準である「140/90mmHg以上」という値にどのような根拠があるのか、(2)血圧はどこまで下げればいいのか―という2点について、順に考えていこう。
上の血圧が「140mmHg」以上で脳卒中や心筋梗塞が3倍
図1は、40歳から64歳の日本人約5万人が、約10年間でどれほど脳・心・血管系疾患で亡くなるのかを、血圧別に比較したデータだ。上の血圧が120mmHg未満の人を基準とした場合、血圧がそれより高い人では脳・心・血管系疾患による死亡率が何倍になるかが示されている。
■訂正 図中の数値が一部間違っていました。169は正しくは159、170は正しくは160です。お詫びして訂正します。
「上の血圧が120mmHgを超えると、脳・心・血管系疾患が増え始めます。その意味で、120mmHg未満が最も望ましい(至適)血圧と言えます。しかし、だからと言って『120mmHg以上』の人を全員、『高血圧』と診断して、降圧薬治療の対象にするのは適切ではありません。ほぼすべての成人が『高血圧』と診断されてしまうからです。保険医療の崩壊を招きかねません」。
そう説明するのは、日本高血圧学会の最新の高血圧ガイドライン作成委員長を務めた、札幌医科大学学長の島本和明氏だ。
「なので、ある程度よりリスクが高い人だけを『高血圧』に分類し、降圧薬治療の対象としているのです」(島本氏)